雨のピットロードを走行するルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)
Courtesy Of Ferrari S.p.A.

11台抜きも「忘れるべき週末」とハミルトン―ベルギー苦戦、その裏に知られざる”数々の未知”

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2025年F1第13戦ベルギーGPで、ルイス・ハミルトン(フェラーリ)は18番手スタートから11台を抜いて7位フィニッシュを果たした。予選での失速、視界不良によるレース遅延、さらに刻々と変化するコンディションと、困難が重なった週末だったが、レースを通じた見事な巻き返しが評価され、「ドライバー・オブ・ザ・デイ」に選出された。

だがハミルトンは、「間違いなく忘れ去るべき」と冷静に総括し、表面的な結果以上に困難な週末だったことを明かした。その背景には、従来スペックと異なる特性を持つ新たなブレーキや、エンジニアリング体制の再編といった複合的な要因があった。

苦境の出発点:予選敗退と新ブレーキの影響

苦戦は、初日に行われたスプリント予選でのスピンに始まった。続く土曜の本予選ではトラックリミット違反によりタイムが抹消され、2日連続でのQ1敗退を喫した。スピンの要因となっていたのが、より強い制動力を持つとされる新仕様のブレーキだった。

このブレーキは、チームメイトのシャルル・ルクレールが数戦前から使用していたもので、ハミルトンによれば、カナダGPでルクレールがクラッシュした一因も、この新しいブレーキ特有の特性にあったという。スパでは自身が初めてこの仕様を試すこととなり、予期せぬ挙動に対応しきれず、結果としてスピンに至ったと説明した。

加えて今週末は新型リアサスペンションも投入されており、クルマは未知数だらけだった。

レース開始手順の中止によりピットレーンにクルマを停めたルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)Courtesy Of Ferrari S.p.A.

レース開始手順の中止によりピットレーンにクルマを停めたルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)

体制変更:エンジニアが交代

さらに今回のベルギーGPを特異な週末としたのが、シーズン途中でのエンジニアの交代だった。フェラーリはハミルトンの担当エンジニア体制を変更。詳細は公表されていないものの、メルセデス時代にともに仕事をした旧知の人物が、パフォーマンスエンジニアとしてチームに加わったと見られている。

ハミルトンは、「前のチームでも一緒に働いたことがある顔なじみだけど、この役職で組むのは初めてなんだ。だからお互い、かなり急いで学ばなきゃならなかった」と説明した。

新たなエンジニアとの初仕事となった初日は、スピンに象徴されるように混乱に見舞われた。「基本的にはふたりとも、手探りの状態だった」とハミルトンは振り返った。

ピットウォールに立つルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)Courtesy Of Ferrari S.p.A.

ピットウォールに立つルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)

決勝での反撃:完璧なスイッチ

決勝では、パワーユニットとセットアップの変更によりピットレーンスタートとなったが、雨天による中断を経てレースが開始されると、ハミルトンはその豊富な経験を武器に、状況を読み切る卓越した判断力を発揮した。

インターミディエイトタイヤからミディアムタイヤへの切り替えを誰よりも早く決断。これが挽回劇の決定打となった。

レ・コーム(ターン5)や最終バスストップ・シケインなど、スパ・フランコルシャンにおける主要なオーバーテイクポイントで次々と前走車を攻略。着実に順位を上げていき、最終的には18番手スタートから11台を抜いて7位でチェッカーを受けた。

時間の経過とともに新たなエンジニアとの連携も深まり、レースに向けたセットアップは見事に機能した。「今日はすごくドライブしやすかったし、追い上げるのが本当に楽しかった」とハミルトンが語ったように、新体制の初陣としては十分に実りある週末となった。

水しぶきを上げながらインターミディエイトタイヤで走行するルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)Courtesy Of Ferrari S.p.A.

水しぶきを上げながらインターミディエイトタイヤで走行するルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月27日F1ベルギーGP決勝レース(スパ・フランコルシャン)

現実的な総括と前向きな見通し

見事な巻き返しを成功させたとはいえ、ルクレールは3位表彰台に上がった。ハミルトンは週末全体を振り返って「間違いなく忘れ去るべきものだった」と冷静に総括した。

一方で、新たなブレーキ仕様や、初めて組むことになった新エンジニア体制といった複合的な変化に晒されながらも、週末を通じて状況を立て直せたことは、本人にとって小さくない収穫だった。

「今後に向けては間違いなく自信がある。今日はクルマへの理解を深めることができたし、上手く調整することもできた。来週はもっといいセットアップができるはずだ」とハミルトンは前向きに語る。

「水曜にはファクトリーで過ごす予定だし、今後、もっといい結果を残せない理由はないと思う」


2025年F1第13戦ベルギーGPでは、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)が2番グリッドかの逆転勝利を飾った。2位にランド・ノリス(マクラーレン)、3位にシャルル・ルクレール(フェラーリ)が続いた。

ハンガロリンクを舞台とする次戦ハンガリーGPは、シリーズ第14戦として8月1日のフリー走行1で幕を開ける。

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