FIA、ルイス・ハミルトン着用の「黒人射殺事件を糾弾するTシャツ」の”扱い”を検討

警官によるブレオナ・テイラーさん射殺事件に抗議するTシャツを着用するメルセデスのルイス・ハミルトン、2020年F1トスカーナGPにてCourtesy Of Daimler AG

F1を統括する国際自動車連盟(FIA)は、ムジェロ・サーキットで開催されたF1トスカーナGPで、メルセデスのルイス・ハミルトンが着用していた警官による黒人射殺事件を糾弾するメッセージが書かれたTシャツが、規約違反に該当するかどうかを調査・検討しているようだ。

今季のF1グリッドに並ぶ唯一の黒人ドライバーである6度のF1ワールドチャンピオンは、米国ミネソタ州ミネアポリスで白人警官に殺害された黒人ジョージ・フロイドさんの事件後、黒人差別問題に関して積極的に発言・行動している。


© Twitter@LewisHamilton

その一環として今季の決勝レース前セレモニーでは一貫して「Black Lives Matter」と書かれたシャツを着用してきたが、9月13日のF1トスカーナGPで着用していたTシャツの文言は「Arrest the cops who killed Breonna Taylor(ブレオナ・テイラーを殺した警官を逮捕せよ)」へと変更され、背面にはテイラーさんの写真と 「Say her name(彼女の名を忘れるな)」とのメッセージが掲載されていた。

黒人の構造的差別が問題となっている米国では今年3月、当時26歳であった救急救命士のブレオナ・テイラーさんとその交際相手がケンタッキー州にある自宅で就寝していたところ、警察官に銃で撃たれて死亡するという事件が発生した。

違法薬物の取り締まりとしてドアを突き破って自宅に進入してきた警官を侵入者と勘違いした交際相手が発砲。反撃した警官の銃弾がテイラーさんに当たり死亡したと伝えられているが、真実は未だ明らかにされておらず、本件での逮捕者は出ていない。

ハミルトンのTシャツは当該事件への抗議の意味があると見られるが、FIAのスポークスマンはトスカーナGPの翌14日にBBCに対して「FIAは政治的に中立の組織」であり「ハミルトンのTシャツが規則に違反していないかどうかを検討している」と明かした。問題視されているのはハミルトンではなくTシャツの方だ。

報道によると、FIAはどの規則への違反が疑われているのかを明かさなかったが、ざっと調べてみたところ、公にされているFIA関連の規約の中で「政治性」を禁じているものは、マシンへの広告掲載について定めたFIA国際スポーティング・コード第10条6項2に記載の次の項目のみであった。

「国際競技会に参加する競技者は、自らのマシンに政治的、宗教的、またはFIAの利益を害するような広告を貼ってはならない」

FIAが「政治性」を問題視した一件としては、2006年のF1トルコGPが挙げられる。現地プロモーターは2006年の表彰セレモニーのプレゼンターとして、トルコ以外からの国家承認を受けていない北キプロス・トルコ共和国のメフメト・アリ・タラートを登場させ「大統領」と紹介。FIAはグランプリを政治利用したとして、現地プロモーターに500万ドルの罰金を科した(後に半額に減額されたと見られている)。

ハミルトンはポール・トゥ・ウインを果たしたトスカーナGP後のオンライン会見で、Tシャツの標語を変えた事について「個人的な心情の変化なのか?」「全米オープンでの大坂なおみのフェイスマスクのようなものなのか?」との質問に対して次のように答えている。

「特に何かが大きく変わったわけじゃない。今も同じ問題と闘い続けている。ただ、あのシャツを手に入れるのに時間が掛かっただけだ。このシャツを着ることで事件に関心を持ってもらいたいと思ったんだ。彼らは(射殺した警官)は今も自由に表を歩いていて、僕らは心を休める事ができないでいる」

「ナオミの行動は本当に素晴らしい。彼女は自分のプラットフォームを活かし行動した。素晴らしいインスピレーションを与えてくれていると思う。僕は、僕らがこの問題を追求し続けなきゃならないと思っている」

テニスプレイヤーの大坂なおみは、先日行われたテニスの全米オープンを制した際、試合ごとに、人種差別の犠牲になったとされる黒人の名前をプリントした様々なフェイスマスクを着用。大きな話題となっている。

なおメルセデスのトト・ウォルフ代表は、懸案のTシャツはハミルトンの「個人的な決断」であるが、チームとして「彼が何をしようとも、我々はサポートしていく」と語っている。

F1トスカーナGP特集

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