真相や如何に?ハミルトンのDRS違反失格とフェルスタッペンのお触り650万円罰金の詳細、”別件たわみリアウィング”との関係は
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F1サンパウロGPのスチュワードはスプリント予選開始を2時間半後に控えた11月13日(土)、技術規制違反を理由に予選トップタイムを記録したルイス・ハミルトン(メルセデス)を失格処分、パルクフェルメ規定違反を理由にマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)を罰金処分とする裁定を下した。
ハミルトンが予選でドライブした44号車メルセデスW12に関してヴィタントニオ・リウッツィを含むスチュワードは、DRSを稼働させた際のメインプレーンと稼働フラップとの距離に技術違反があったと判断した。規制では最大85mmと定められているが、この要件を満たしていなかった。
この結果、ハミルトンは予選結果から除外され、スプリント予選での最後尾スタートが命じられた。
フェルスタッペンは触ってはならないものに触ってしまった。
予選を終えてクルマを降りた後、フェルスタッペンは何かを確かめるように、自分のマシンのリアウイングとハミルトン駆る44号車のリアウィングに手を触れた。
予選後のマシンに許可なく触れる事は許されておらず、スチュワードはフェルスタッペンに5万ユーロ、日本円にして約651万8,905円の罰金を科す裁定を下した。
ハミルトンに生じた予選失格の危機
FIAテクニカル・デリゲートを務めるジョー・バウアーは予選終了から1時間半が経過した現地18時28分、ハミルトン駆る44号車メルセデスW12のDRSに不備があったと発表した。
バウアーからF1サンパウロGPのスチュワードに宛てられた文書には「カーナンバー44の最上部リアウィング・エレメントの調整位置が、2021年フォーミュラ1技術レギュレーション第3条6項3に適合しているか否かを確認した」と記されていた。
「最小距離の要件は満たされていたが、TD/011-19(技術指令書)が定めるところのDRSシステムを展開してテストした場合の最大85mmの要件は満たされていなかった。この件についてスチュワードに検討を委ねたい」
DRS(ドラッグ・リダクション・システム)とは、マシンの走行中にリアウイングの角度を意図的に寝かせる事で空気抵抗を減らし、トップスピードの向上をめざすアクティブ・エアロデバイスの事だ。
DRSに関してはF1テクニカル・レギュレーション第3条6項3において、フラップを稼働させた場合のメインプレーンとの距離が最大85mmに制限されている、報告によると44号車はこの制限を超えていた。
2度に渡る審問と4度に渡る検査
バウアーからの報告を受けてスチュワードは、この件に関してメルセデスに招集を命じ、現地金曜19時15分より聞き取りを行ったものの、22時を前に審問を土曜の朝まで保留すると発表した。
延期ではない。基本的に技術違反か否かは黒白がハッキリする種類の問題だが、審問は日をまたぎ2度に渡って行われた。
金曜夜の1回目の聴取にはメルセデスのスポーティングディレクターを務めるロン・メドウズとチーフエンジニアのサイモン・コールが出席した。FIA側はバウアーとシングルシーターのテクニカルディレクターを務めるニコラス・トンバジスが同席した。
土曜10時30分から行われた2回目のヒアリングには、メルセデスのチーフデザイナーであるジョン・オーウェンがオンラインで加わった。バウアーは参加しなかった。
リアウイングの上部と下部のエレメント間には隙間がある。DRSが作動していない時、この隙間は10~15mmの範囲内に収まっていなければならない。これに関して44号車は予選後の検査で合格していた。問題はDRSを作動させて上部のフラップが地面と水平になった時の隙間だった。
検査手法への異議
規制はDRS稼働時のこの隙間を10~85mmと定めている。検査方法は技術指令書「O11-19」にて定められており、85mmのゲージを10Nの最大荷重でこの隙間に押し当てて測定する。ゲージが突き抜ければ検査は不合格だ。
物差しを使うわけではない。そのためゲージそのものが正確でなければならない。そこでゲージ自体の精度の確認作業も改めて行われた。問題はなかった。
メルセデスは「力加えて測定する」という方法に異論を唱えた。技術指令書にはあるものの、第3条6項3側にはそうした言及がないためだ。想像だが、力を入れずに押し当てる程度であればゲージが突き抜けない程度の超過だったのではないだろうか。
実際メルセデスのトト・ウォルフ代表はスプリント予選後に、0.2mmの超過だったと主張している。
結局、スチュワードは技術指令書に当該測定方法が記されている事を理由にメルセデスの主張を退けた。技術指令そのものはレギュレーションではないが、スチュワードは技術指令に記された方法で検査を行う事は合法性を確かめる上で適切な手段との立場を採った。
44号車の検査においてウイングの内側部分は規定を満たしていたが、外側部分が許容値を超えていた。ちょうど上記の画像の辺りが違反に該当した。検査は2種類のゲージを用いて4回繰り返された。
故意性、情状酌量の検討
ウイングの両端部分の隙間だけが既定値を超過していた事、並びに同一仕様のウイングがこれまで何度も検査に合格してきた事から、スチュワードは超過の原因がDRSアクチュエーター等のパーツの緩みや機構の不具合、または不適切な組み立て等、意図的ではない何らかの理由によって生じたと判断した。わざとではない、と考えたのだ。
なおライバルであるレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表も故意によるものであったとは考えていない。
メルセデスは何故問題が生じたのかを説明するために、パーツを検査するためのチャンスが欲しいと訴えた。だが、現物を調査させると物証が改変されかねない。そこでスチュワードは問題のあったパーツを封印し、証拠として押収した。
予選中にクラッシュや接触などのインシデントがあった場合、通常の手続きとしてチームはテクニカル・デリゲートの承認を得た上で、必要に応じてパーツを直すなり、ボルトを増し締めしたりする。
メルセデスは予選中にこの問題を把握できなかったが、気づいてさえいれば手順を踏んで修正し、審議される事はなかったと情状酌量を訴えた。だが、予選ではクラッシュと言った不可抗力が発生するような事案はなく、スチュワードは減刑を求める訴えを退けた。
フェルスタッペンが触れた影響
更にメルセデスは、フェルスタッペンが予選後にハミルトンのリアウィングに触れた件に言及した。それによって当該問題が発生した可能性は低いと同意しながらも「未解決の問題」だと訴えた。
つまり、フェルスタッペンが触れた事でDRSに関わる本問題が生じた可能性が少なからずあると主張したわけだ。これはレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコがF1-Insiderに対して「信じ難い事にメルセデスはマックスがハミルトンのリアウイングに触ってダメージを与えたと主張している」と語った事によっても裏付けられる。
だがスチュワードは、44号車に設置されたロールフープカメラ等による「鮮明な高解像度映像」によって、フェルスタッペンが触れた際にウイングの如何なる部分も「全く動かなかった」として触れた力を「軽微」と断定。本件とは「無関係」とした。
別件で進行していたリアウィング問題
セバスチャン・ベッテルやミハエル・シューマッハでもあるまいし、何故フェルスタッペンは突然、自分のマシンとハミルトンのマシンを比べるかのようにリアウィングを触ったのだろうか?
ハミルトンのDRSの件とは関係ないが、独auto motor und sportによると予選の1時間前にレッドブル・ホンダのエイドリアン・ニューウェイとポール・モナハンがFIAの元を訪れ、メルセデスのリアウイングについてクレームを申し立てた。
レッドブル側はW12のリアウイング・エレメントが時速260kmから”たわみ”始めると考えており、大量の資料と映像証拠を持ってこれを指摘しに行ったのだと言う。
なおレッドブルが苦情に来ることについては事前にFIAからメルセデス側に伝えられていた。
夏休み以降のメルセデスの驚異的なトップスピードはレッドブルの悩みのタネだった。シルバーアローがストレートでRB16Bを大きく引き離す理由についてはこれまで、様々な説が飛び交ってきた。レッドブルはようやく、その真の理由を見つけ出したと考えているようだ。
この件が正式な抗議へと至るかどうかは現時点では未定だが、これがきっかけとなりハミルトンを含む他車のリアウィングが予選後に検査される事になったものと思われる。意図したわけではないものの、突いてみたところ、思わぬ展開に繋がったというわけだ。
フェルスタッペンはスプリント予選を終えて、ハミルトンのリアウィングに触れたのは”たわみ”を確認するためだったと認めた。
フェルスタッペンの競技規制違反疑惑
ハミルトンに予選失格の可能性が浮上した事でパドックが混乱する中、審問保留の発表から程なくしてスチュワードは、フェルスタッペンとレッドブルのチーム代表者に対し、現地13日(土)9時30分より聴取を行うとの通達を出した。
国際スポーティング・コード(ISC)第2条5項1への違反が疑われたためだった。同項は以下のように定めている。
「パルクフェルメ内には、割り当てられたオフィシャルのみが立ち入る事ができる。同オフィシャル、またはレギュレーションによる許可がない場合、(クルマに対する)操作やチェック、チューニング、修理は許されない」
予選を終えてクルマから降りた直後のフェルスタッペンが、グローブを外して自身のRB16BとハミルトンのW12のリアウイングを触ったように見受けられる動画が拡散した事に端を発したものだった。ファンが撮影したものだった。
招集命令に従いフェルスタッペンは13日(土)のFP2を前に、スポーティング・ディレクターのジョナサン・ウィートリーと共に指定された時刻にスチュワードの元へと向かった。聴取とFP2を経てスチュワードは現地14時を前にようやく、一件に関する決定を発表した。
スチュワードは聞き取り調査に加えて、ファンが撮影した映像、ピットレーンから撮影されたCCTVの映像、14号車・33号車・44号車・77号車の各車の車載映像を調査した。
スチュワードによるとフェルスタッペンは、予選を終えてクルマを降りた後に自分のマシンのリア側に移動。グローブを脱いでリアウイングのスロットギャップに右手を触れると、次にハミルトンの44号車に近づき、同様の行為を繰り返した。
本件に限らずドライバーが予選や決勝後にマシンに触れる事は半ば常態化していた事で、殆ど害がないと見なされてきたため、これまで一律に取り締まられるような事はなかった。
スチュワードはこの点について認めつつも「パルクフェルメ規定違反である事に変わりはなく、損害を与える可能性は十分にある」と指摘。今回は直接的な被害は発生していないとしながらも、深刻な結果を招く可能性があることを考慮して罰金処分とした。
本来であれば最上位グリッドからスプリント予選をスタートするはずのハミルトンは20番手最後尾に回る事となった。
タイトル争いへの致命的なダメージは避けられないと思われたが、24周のスプリントでは圧巻の15ポジションアップを果たして5番手フィニッシュをやってのけた。ただし、これで安泰とはいかない。
週末に先立って5基目のICE(内燃エンジン)を開封しているため、ハミルトンは日曜の決勝レースでは本件とは別に5グリッド降格ペナルティが科される。
10番グリッドとは聞こえは良いが、そう単純ではない。パックの中でのスタートは接触やクラッシュなどの危険が高まる。