MCL32とMCL33の側面比較画像

マクラーレン:2018年F1マシン「MCL33」解説 / 比較画像とエンジンスペック・主要諸元

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マクラーレンF1チーム(Mclaren F1 Team)の2018年F1マシン「MCL33」の主要諸元と、搭載されるルノー製パワーユニット「R.E.18」のエンジンスペックを紹介。昨季の「MCL32」との比較画像を交えて解説する。

概要

MCL33の新車発表会、カタロニア・サーキットにて
© Mclaren

「MCL33」は2018年2月23日、スペインのカタロニア・サーキットで正式発表された。

カラーリングは、ザク・ブラウンCEO体制下で”発掘”された伝統の「パパイヤ・オレンジ」。遡る事50年前、マクラーレンがF1に初参戦した時の象徴的なカラーを基調に、前後ウイングにはブルーが施された。ブラウンは同色採用の理由を「ファンとF1コミュニティの声を重視」したためだと説明した。

2017年を以てホンダとのパワーユニット契約に終止符を打った英国の名門は、52年という同社の歴史の中で初めてルノー製パワーユニットを搭載。2度のワールドチャンピオンであるフェルナンド・アロンソと、F1での2年目のシーズンを迎えるストフェル・バンドーンのラインナップを継続、2012年以来の勝利を目指し選手権争いに臨む。

MCL33 写真と解説

空力コンセプトを継続、「MCL32」の進化版

マクラーレンMCL33全景

昨年の空力コンセプトを継続、ホンダからの資金援助を元に作り上げられた「MCL32」を進化・熟成させた車に仕上がった。旧車MCL32と比較するとよく分かるが、抜本的な変更は行われていない。チームは事ある毎に「MCL32は世界一のシャシー」と声高に叫んでいたが、その自信の現れと言える。

ただし「変更したくともできなかった」可能性もないではない。ルノーのエンジンレイアウトと構造は、昨年まで積んでいたホンダのそれとは大きく異なる。ギアボックスのベルハウジング、リア・サスペンション、冷却系の再設計を強いられ、リソースの多くはルノー製パワーユニットの組み込みに費やされた。

メルセデスとホンダのPUはICEの前方にコンプレッサー、後方にターボを配置し、MGU-HはVバンク内に収められている。一方のフェラーリとルノーのPUはVバンク内前方にMGU-Hを、ICE後方にターボとコンプレッサーが配置されている。テクニカル・ディレクターのティム・ゴスはPU変更は「大仕事」であったと認める。

マクラーレンMCL33側面

マクラーレンMCL33正面

一見シンプルも複雑なエアロ処理

パパイヤオレンジがハレーションを起こし気味でフォルム形状が視認しづらいというのもあるが、今季のマクラーレン車は一見シンプルというか、こざっぱりした印象を受ける。だが、細かく見ていくと興味深い処理が見えてくる。

マクラーレンMCL33バージボード周りの処理

昨今の空力戦争を戦う上での主戦場となっているバージボード周りは激変。複雑な処理が施されている。

マクラーレンMCL33フロントウイング・サスペンション周りの拡大写真

ノーズコーンの先端は地面に向かって4本足が伸びる。昨年のものと比べると若干丸み帯びたようだ。サスペンションとシャシーとを繋ぐアッパーウィッシュボーンは、昨年よりもやや高い位置に。トレンドに沿っている。

マクラーレンMCL33サイドポッド周りの処理

ラジエーターへの空気取り込み口のあるサイドポッド上面には、逆だったうろこ状のフィンがマシン外側に向かって規則正しく並ぶ。ハロは製造されたままのプレーンな状態に見える。テストでは何らかのエアロパーツが追加される事だろう。

マクラーレンMCL33サイドポッド周りの処理

サイドポッドのインレットは昨年同様にかなり幅が狭い。加えて、今季型は高さも狭められている。リアエンドに向かって一度膨らんだ後、なだらかに絞り込まれていく処理はMCL32と同じだが、ポッド下のアンダーカットと呼ばれるエリアはよりアグレッシブにえぐられている。

昨年マシンとの比較画像

MCL32とMCL33の上面比較画像

多くのチームと異なり、リアエンドにかけてのボディーワークの絞込が控えめになっている。MCL32の驚愕のリアエンドはホンダPUのレイアウトあってこその代物だったのであろうか。

MCL32とMCL33の側面比較画像

技術諸元・スペック

エンジンとERSを含めたパワーユニットは、2018年仕様の最新版ルノーを搭載する。

エンジン

型式 ルノー・スポール R.E.18
排気量 1600cc
シリンダー V型6気筒 / 90度
バルブ数 24
ボア径 80mm
ストローク 53mm
クランク高 90mm
過給 シングルターボ、過給圧無制限(5bar abs)
最高回転数 15,000rpm(ICE、レギュレーション規定)
最大燃料流量 100 kg/h
燃料タンク容量 105 kg
燃料噴射 直噴
重量 145kg(既定最低重量、ERS含む)
馬力 950馬力以上(ERS含む)

ERS エネルギー回生システム

バッテリー(ES) リチウムイオンバッテリー(20-25kg)
バッテリー(ES)最大貯蔵量 4 MJ/周
MGU-K 最大出力 120 kW
MGU-K 最大回転数 50,000 rpm
MGU-K 最大回生量 2 MJ/周
MGU-K 最大放出生量 4 MJ/周
MGU-H 最大回転数 125,000 rpm以上

シャシー

従来の製造方法に加えて、ストラタシス社3Dプリント、ヤマザキマザック社金属積層造形等の先端工法を利用している。

型式 MCL33
構造 C/Cコンポジット材
コックピット
フロントサスペンション カーボンファイバー製プッシュロッド式ダブルウィッシュボーン
スプリング及びダンパーはインボードマウント
リアサスペンション カーボンファイバー製プルロッド式ダブルウィッシュボーン
スプリング及びダンパーはインボードマウント
トランスミッション マクラーレン製リバース付8速カーボン製ギアボックス
電気油圧制御式シームレスシフト
リミテッド・スリップ・デフ(LSD)
電気油圧制御式カーボンファイバー製マルチプレート・クラッチ
タイヤ ピレリ P Zero
ホイール エンケイ
ブレーキ 曙ブレーキ工業製ブレーキキャリパー&マスターシリンダー
カーボンファイバー製ディスクブレーキ&パッド
リア:ブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW)
電気系 マクラーレン・アプライド・テクノロジーズ(MAT)製
シャシー及びパワーユニット制御、データ収集機器、オルタネーター、センサー類、データ解析及びテレメトリー・システム含
冷却系 カルソニックカンセイ
ステアリング ラック・アンド・ピニオン式パワーアシスト
無線 ケンウッド
塗装 シッケンズ製品を使用したアクゾノーベル社のカー・リフィニッシュ・システム
計器類 MAT製ダッシュボード
全幅 非公表
全高 非公表
全高 非公表
フロントトレッド 非公表
リアトレッド 非公表
重量 733 kg(ドライバー含)
前後重量配分 45.4%から46.4%の間