”超速F1ステー追加”に疑惑の目、メルセデスは事前にFIAから情報を得ていた?
メルセデスは事前にFIAから情報を得ていたのではないか? ライバルチームは疑惑の目を向けている。フロアに2本目のステー追加を許可するFIAの技術指令はF1第9戦カナダGPの開幕前日に発行されたため、誰もがモントリオールに間に合わせる事ができなかった。メルセデスを除いて。
加速度センサーによる垂直方向の振動レベルを監視する事などによって、ドライバーの健康を守るためのポーパシング規制が行われる事と合わせて、F1の統括団体は6月16日(木)に発行した技術指令(TD)の中で、振動抑制のためのフロアステーをもう1本追加する事を許可した。
FP1の開始まで24時間もない土壇場での発表に反応できたのはメルセデスのみだった。シルバーアローは週末最初のプラクティスからこれをW13に取り付けた。FP1ではジョージ・ラッセルが、FP2ではルイス・ハミルトンがこれを試した。
ライバルチームは、その仕事の早さを称賛する代わりに疑いの目を向けた。ウィリアムズのヨースト・カピート代表は「当然、驚いたよ」と懐疑的な見方を示した。
マイク・クラック代表はチーム全員が世界を転戦している以上、1日で対応する事は不可能で、アストンマーチンが対応できるのは早くて2週間後のイギリスGPだと語った。また、アルファタウリのフランツ・トスト代表は「F1マシンのフロアは特に非常に繊細な部分であり、調査もせずに取り敢えずパーツを付ける事はできない」として、数日単位で対応できる話ではないとの考えを示した。
ステーの追加許可についてレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「あからさまに偏っている」として「”あるチーム”の問題を解決する」だけだと批判。本来であれば技術フォーラムでの議論を経て決定されるべきだったとFIAのアプローチを問題視した。
パドックではメルセデスがFIA-F1エグゼクティブ・ディレクターを務めるシャイラ・アン・ラオから事前に情報を得ていたのではとの憶測が持ち上がった。AMuSによるとアルピーヌF1チームのオトマー・サフナウアー代表は「事前に知っていたに違いない。そうでなければ不可能だ」と語った。
弁護士のシャイラ・アン・ラオは2018年12月にメルセデスAMG-F1チームに加わり、昨年からチーム代表兼CEOのトト・ウォルフの特別顧問を務めていたが、ピーター・バイヤーの退任に伴い今月頭より、その後任に暫定就任したばかりだ。
フェラーリのマッティア・ビノット代表はシャイラ・アン・ラオについて「素晴らしい人材だ」としながらも「確かに、懸念材料ではある」と認め、僅か一晩で2本目のステーを用意・取り付ける事はマラネロの力をもってしても不可能だったと語った。
必ずしも事前に情報を入手しなくともTD発行から短時間で実戦投入する事は可能だ。例えば2本目のステー追加を許可する方向にFIAを誘導しておき、それを見越して準備を進めておくシナリオも考えられる。ただいずれにせよ、現時点ではメルセデスが事前にTDの内容を入手していたという証拠はなく全ては疑いに留まっている。
結局サフナウアー代表が、技術指令はレギュレーションではないため抗議によって違法とされ失格処分となる可能性もあると牽制した後、メルセデスが予選を前にステーを取り除いたため、大論争に発展する事はなかった。
ステー追加の効果についてサウナウアー代表は、重量増とのトレードオフになり得るとしながらも「フロアの剛性を上げて車高を更に低くすることで空力的なアドバンテージを得ることができる」と指摘し、「いずれにせよ1日で製作できるものではなかった」と説明した。