やっとか…F1ホイールアーチ実証試験へ、車体性能に影響の恐れも 雨レースの救世主となるか? イギリスGP後のテストの勘所
雨のスパ・フランコルシャンで18歳のオランダ人ドライバー、ディラーノ・ヴァント・ホフが事故死した事を受け、ウェットレースのあり方についての議論が活発化する中、国際自動車連盟(FIA)はF1第11戦イギリスGP後に新しいデバイスをテストする。
レース明けの7月13日(木)にシルバーストン・サーキットに持ち込まれるのは、自転車の泥除けのような形をしたホイールアーチだ。メルセデスとマクラーレンがこのテストのためにマシンを提供する。
ドライ・コンディションであれば水を撒く事で擬似的にウェットコンディションを作り出し、メルセデスが後輪にホイールアーチを装着する。マクラーレンは比較のために何も付けずに走行を行う。両車には後の分析の際に必要となる各種データを集めるため、カメラや計測機器が積まれる。
ホイールアーチは雨の鈴鹿サーキットで行われた昨年のF1日本GPでの反省を経て、CFDなどのシミュレーションを通して検討が続けられてきた。ウェットレースでの危険要因はハイドロプレーニング現象ではなく、むしろマシンが上空へと巻き上げる水しぶきによって悪化する視界だと見なされている。
ランド・ノリス(マクラーレン)は「やっとか、ドライバーとして僕らは何年にも渡って何か手を打つ必要があると言ってきた」と述べ、雨天時の視界の悪さが「F1における安全上の最大の懸念事項」だと主張した。
ヴァント・ホフの死亡事故はまさに、F1ドライバー達が警告していたような状況で発生した。濡れた路面から巻き上げられた水しぶきによって視界が悪化する中、集団の真ん中を走行していた若き命が奪われた。
ホイールアーチは常にマシンに装着されるわけではなく、エクストリーム・ウェットタイヤの装着が必要な場合にのみ、ボルトオンで簡単に取り付け可能なように開発が進められている。
例えば悪天候が予想されるレース前や、雨により赤旗中断となった際の装着が見込まれている。無論、途中でドライ・コンディションとなってもホイールアーチは装着されたままとなる。
今回のテストに使用されるホイールアーチはプロトタイプで、結果次第ではより適切な形状に修正される事になるが、最大の注目点はこれ単体での水しぶきの抑制効果というよりはむしろ、グランドエフェクトカーが排出する後方気流との相互作用だろう。
ホイールアーチは全チーム共通の標準パーツとしての導入が計画されている。クルマの違いによって効果が異なるようでは話にならず、また、各チームの車体性能にどのような影響を及ぼすのかという点でも興味深い。
セルジオ・ペレス(レッドブル)はこの点に触れて「幾つかのチームがより大きなペナルティを受けるかもしれない」としつつも「安全が第一であるべきだ」と強調した。
水しぶきの発生源がタイヤ側に依るところが大きければホイールアーチは一定の効果を見せるだろうが、後方車両への乱気流の影響を低減すべく、より上空へと追いやるように設計されている現行グランドエフェクトカーの特性に依るところが大きければ解決策としては不十分かもしれない。
ホイールアーチの今後の動向に関わらず、ドライバー達は視界悪化が懸念されるような状況でレースが行われるべきではないと考えている。
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は「基本的に何も見えない状況であるならば、どんなカテゴリーであってもレースを始めるべきではない」と述べ、ランス・ストロール(アストンマーチン)はホイールアーチが上手く機能するのであれば「できるだけ早く搭載すべきだ。上手くいかなければ、見えない状況でのレースに身を置くべきじゃない」と主張した。
またケビン・マグヌッセン(ハース)は「何も見えない状況で、こういった速度で走るのは馬鹿げている。目を閉じた方がマシかもしれない。視界はゼロなんだ」と付け加えた。