アレックス・アルボン(ウィリアムズ)、2023年4月1日F1オーストラリアGP
Courtesy Of Williams

辛い1ストッパー…仲間を欺くウィリアムズ「あぁ…嘘だろ」アルボン、コース上TVで”本当の残り周回数”を知る

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ウィリアムズはF1カナダGPで伝家の宝刀、1ストップ戦略を成功させ、2023年シーズンの最高成績を叩き出したが、その裏にはこの戦略を実行する辛さを身を以て知っているアレックス・アルボンのやる気を削がぬよう、残り周回数を偽るという情報工作があった。

9番グリッドについたアルボンはジョージ・ラッセル(メルセデス)のクラッシュに伴い導入されたセーフティーカー(SC)のタイミングでミディアムからハードタイヤに履き替え、「お前ら、どうかしてるよ」とチームに恨み節を抱きながらも、58周という超ロングスティントをノンストップで走り抜き、見事、大金星の7位入賞を果たしてみせた。

昨今のウィリアムズのマシンは伝統的に強力なストレートライン速度が特徴で、これまでに幾度となく1ストップ戦略を採ってきた。早めにピットストップを消化してライバルの前に出て、直線速度を武器にポジションを守り切るという狙いだ。

あまりにも有名なウィリアムズのこの戦略はパドックの一部で「クラシック・アルボン・ディフェンス」と呼ばれている。

2023年6月18日F1カナダGPのドライバー別タイヤストラテジーCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2023年6月18日F1カナダGPのドライバー別タイヤストラテジー

一見するとすごく”おいしい”戦略のようにも思えるが、実際に実行するドライバーにとってはできれば避けたいストラテジーだと言える。

何しろタイヤが摩耗して滑りやすい状態で、体力的にも厳しいレース終盤を戦い抜かなければならないだけでなく、トレッド面がすり減って薄くなればその分だけ熱を維持するのが難しくタイヤが冷えてしまい、コースやコンディションによっては予選レベルにプッシュし続けなければならなかったりするのだ。

実際アルボンは「こういうレースは当然、ストレスで精神的にキツイし、ハッキリ言って楽しくないんだけど、チームがやらせたがるんだよ!」と吐露した。

オスカー・ピアストリ(マクラーレン)を抑えて走るアレックス・アルボン(ウィリアムズ)、2023年6月18日F1カナダGPCourtesy Of Williams

オスカー・ピアストリ(マクラーレン)を抑えて走るアレックス・アルボン(ウィリアムズ)、2023年6月18日F1カナダGP

無論、チーム側にも苦労(?)はある。嫌がるアルボンに悟られぬように戦略を遂行しなければならないのだ。

カナダでのコンストラクターズ選手権最下位脱出を目指すウィリアムズは、残り周回数に関して、実際より少ない数を意図的にアルボンに伝えていたものの、アルボンはコース上に設置されたテレビスクリーンで真実を知ってしまったようだ。

英「RaceFans」によるとアルボンは「ちゃんとは覚えてないけど、残り35周だか40周の時に、僕の気分を良くするために20周とか言ってたんだ」と振り返った。

「テレビスクリーンを見て『あぁ、嘘だろ』ってなってね。それが現実でない事を祈ったよ」

2023年6月18日F1カナダGP決勝レースコンパウンド別最多スティントCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

2023年6月18日F1カナダGP決勝レースコンパウンド別最多スティント

そんな苦労を知ってか知らずでか、世界中のF1ファンはこの日のDriver of the Day(ドライバー・オブ・ザ・デイ)にアルボンを選んだ。得票率28.7%。2位ルイス・ハミルトン(メルセデス)以下を12%以上も引き離しての選出だった。

アルボンの踏ん張りによってウィリアムズは貴重な6ポイントを獲得。チャンピオンシップ争いのライバル、角田裕毅擁するスクーデリア・アルファタウリを蹴落としてランキング9位に浮上した。

今年はレッドブル、アストンマーチン、メルセデス、フェラーリによるトップ8がほぼ固定化しており、更に最近ではアルピーヌが5番目のチームとしての立場を確立しつつある。この6点はあまりに大きい。

アルボンは「最高だった。スーパーだった。もちろん、期待以上だった」と振り返り、「この勢いを続けていななきゃね。今回のアップグレードは上手く機能しているし、素晴らしい兆候だよ」と付け加えた。

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