クルマを降りてガレージを歩くメルセデスのルイス・ハミルトン、2023年7月1日F1オーストリアGP
Courtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

失格率50%で全車検査要求の声…FIA、ランダム方式の”公正性”を主張

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技術規定違反により、2023年のF1アメリカGPでシャルル・ルクレール(フェラーリ)とルイス・ハミルトン(メルセデス)が失格となった事を受け、ソーシャルメディア上などで全車検査を求める声が上がる中、国際自動車連盟(FIA)は現行のランダム方式の「公正性」を主張した。

FIAテクニカル・デリゲートを務めるジョー・バウアーからのレース後の報告を受けスチュワードは、フロア下のプランクの摩耗が規定の許容値を満たしていなかったとして、2台を失格とする決定を下した。

P2ボードの前にクルマを停めたルイス・ハミルトン(メルセデス)、2023年10月22日F1アメリカGP決勝レースCourtesy Of Mercedes-Benz Grand Prix Ltd.

P2ボードの前にクルマを停めたルイス・ハミルトン(メルセデス)、2023年10月22日F1アメリカGP決勝レース

決勝レース後にFIAがプランクの厚みを確認したのは、2位フィニッシュのハミルトンと6位ルクレールにマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とランド・ノリス(マクラーレン)を加えた4台のみだった。他の16台に規定違反があったのかどうかを知るのはチームのみだ。

4台中2台、つまり検査対象の50%のマシンで違法が確認された事から、全20台を検査していれば10台が失格となった可能性があるなどとして、全車検査を要求するなどのルール改正提案、批判が飛び交った。

こうした状況を受けF1の統括団体は、チームは限られた時間内に次戦に向けてクルマを解体して輸送しなければならず、それまでに「すべてのクルマのあらゆるパラメータをカバー」する事は、連戦のイベントにおいては特に、時間的都合から「不可能」だと指摘した。

レース後の燃料サンプル検査を含む標準的な確認作業を除き、FIAによるコンプライアンス・チェックは何十年にも渡って無作為方式を採用している。これは各項目ごとにランダムに選ばれたマシンのみをチェックするというもので、レース後だけでなく、予選後、そして予選からレースの間にも追加検査が行われている。

「ディープ・ダイブ」と呼ばれる内部コンポーネントの詳細分析は、定期的にチェックされることのない重要な部品の分解が必要になることも少なくなく、多くの場合、膨大な時間を擁する。

これには、チームがFIAに提出することが義務付けられているCADファイルと物理的なコンポーネントの比較作業のほか、FIAのソフトウェアエンジニアが常時監視しているチームデータの検証が含まれる。

こうした技術検査で違反が見つかった場合、基本的には問答無用で失格処分が下される。特定エリアの検査が行われない可能性があるからといって、チームが意図的にルールを破るインセンティブはゼロに等しい。

ランダム方式についてFIAは、「どのクルマのどの部分が検査されるのかをチームがレース前に知ることができないという事実」によって、意図的な違反に対する抑止力として効果的に機能してきたと強調し、次のように付け加えた。

「こうしたプロセスは長年に渡って進化し、洗練されてきたものであり、非常に複雑な現行世代のF1マシンを監視するための最も厳格かつ徹底的な方法を構成し、大きな抑止力として機能してきただけでなく、グランプリ・ウィークにおけるロジスティクスの枠組みの中で現実的に達成可能なものであり続けてきた」

ルクレールはメキシコGPの開幕に先立ち、初日金曜のFP1と予選後にフェラーリが確認した際は「摩耗がゼロ」であったとして、プランクの摩耗によって失格となった事は「全くの驚き」であったと語った。

だが同時に、こうした事実は「言い訳にならない」として、摩耗の予測精度を向上させるために取り組む必要性を強調した。

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