F1イギリスGPの戦況をガレージで見守るホンダF1のスタッフ
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エンジン性能差が露呈したシルバーストン戦…大きく遅れを取るホンダF1、2020年までに追い付けるのか?

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昨年施行された新しいレギュレーションによってF1マシンのダウンフォースが格段に向上した結果、英シルバーストンサーキットはこれまで以上にエンジン性能差が露呈するパワーサーキットと化す事となった。

アビー、コップス、ベケッツ、ストウといったシルバーストンの高速コーナーは、アクセル全開のまま駆け抜ける事実上の”ストレート”へと変貌し、従来は66%程度であったエンジン全開率は80%を超えるレベルにまで到達。エンジン性能がラップタイムに与える影響が格段に増加した。

シルバーストンを舞台とするF1イギリスGPでは、フェラーリ製パワーユニットがメルセデスを凌駕するポテンシャルを持っている事が明らかになっただけでなく、ルノーとホンダがこれら2メーカーに大きく遅れを取っている事が白日の下に晒された。2014年にF1に導入された1.6リッターハイブリッド・ターボエンジン、通称パワーユニット(PU)は、日独仏伊の4メーカーが熾烈な開発競争を繰り広げている。

ルノーを搭載するレッドブルのマックス・フェルスタッペンは、ストレートで失っているタイムは1周あたり1秒と主張。ホンダを積むトロロッソのピエール・ガスリーは1周あたり0.9秒を失っていると述べ、行き場のない悔しさをぶちまけた。

二人の見解を踏まえれば、ホンダとルノーのPU性能は同等という事になるが、これは事実と捉えて差し支えないようだ。両チームのデータにアクセス出来る立場にあるレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「現時点では両者にほとんど差はない」と述べ同様の認識を示した。

「差が現れるのは今後の開発次第だろう。今週末はルノーにとって非常に厳しい結果となった。その事実から目を背けることは出来ない。性能の差があるのは明らかだ。ホンダがこれを埋めてくれると良いのだが…」

青空の下で行われた2018年のF1イギリスGP決勝レース
© Getty Images / Red Bull Content Pool、シルバーストンサーキット

馬力がラップタイムに与える影響はコースやマシン特性によりマチマチであるが、10馬力あたり0.2秒として計算すると、ガスリーの言う1周0.9秒のギャップが存在する場合、フェラーリ・メルセデスとルノー・ホンダとの間には45馬力程度の性能差が存在する事になる。ちなみにフェルスタッペンは70-80馬力と主張しているが、流石にそこまでの差があるとは考えにくい。

もちろん、”1周あたり0.9秒”というギャップの原因がすべてエンジン性能にあるわけではない。例えば、ダウンフォースをつけすぎてしまうと直線での高速走行時に空気抵抗となってしまい車速が伸びなくなってしまう。「ストレートが遅い」=「エンジン性能で劣っている」という図式は成り立たない。

奇しくもこの45という数値は、レッドブルが2016年に明かしたルノーとメルセデスの差とほぼ同じ。仮にこれらの数値が正しいと仮定するならば、フランスのエンジンメーカーは過去2年で上位とのギャップを一切縮められていないという事になる。倒すべき相手と同じレベルの改善を続けても、永遠にその差は埋まらない。

ルノー製パワーユニットの性能不足は具体的にどのような形としてレースに表れたのだろうか?ホーナーは、DRSを使っても予選エンジンモードを使ってもフェラーリやメルセデスに喰らいつくことはおろか、引き離されてしまう程であったと語り、そのスピード差は「クレイジー」な程に大きいと表現した。

2017年の規約変更によりマシンのダウンフォースは30%増加したと言われるが、レースでの追い抜きを考えればできる限りダウンフォースを削りたいところ。レッドブルはトップスピードを重視すべく、スパと同等レベルの低ダウンフォース仕様を持ち込みコース上でのポジションアップを狙ったが、そのレッドブルをして「引き離されてしまう程」の速度差があったというのだ。

ホンダは、この”狂っている”程に巨大な溝を埋める事が出来るだろうか?2018年エンジンのホンダ RA618Hは、信頼性を優先すべく昨年のコンセプトを継承した仕様であり、更なるパフォーマンス向上を目指す上では抜本的な改良が必要不可欠。だが、大幅な性能向上を求めれば信頼性にリスクに晒す事になる。

メルセデスAMG 2014年式パワーユニット PU106A Hybrid
© Mercedes AMG、メルセデスAMGエンジン PU106A Hybrid

ホンダはマクラーレンとの晩年、2年間に渡って継続していたエンジンコンセプトを捨て去り、9割を再設計した新しいエンジンを作り上げた。昨年までの設計方針ではライバルにキャッチアップするのが不可能、というのがコンセプト一新の理由であった。

攻めの姿勢を見せた事で、17年シーズンのホンダは参戦初年度と同レベルのエンジントラブルを抱え、開幕前バルセロナテストではまともに走る事もままならなかった。これが引き金となり、その後のマクラーレンとホンダがどのような道を歩んだのかは周知のとおり。リスクを負わずしてキャッチアップは不可能だが、一歩間違えればそこには破滅が待ち構える。

歴然とした速さの違いを目の当たりにしたにも関わらず、ホーナーは「彼らが現在進めている開発を心から信じている」と述べ、ホンダが上位2メーカーとのギャップを縮めることを期待する。だが、これを実現するためには、ホンダがメルセデスやフェラーリよりも高い改善レベルを一貫して継続し続ける必要がある。

トークン制度が廃止された事で、F1にパワーユニットを供給する全てのサプライヤーには無制限の開発が許可されている。ホンダが24時間体制で開発を進める中、メルセデスやフェラーリも同じ様に開発に取り組んでいる。先の計算から導き出されたルノーの例が示すように、ライバルと同じレベルの改善を続ける限りキャッチアップすることは不可能だ。机上の空論ではあるが、以下どの程度の改善ペースが必要であるかを考えてみたい。

45馬力差があるとして、一回のアップグレードで5馬力ずつ差を詰める事に成功したとしても、ホンダがメルセデスやフェラーリに追いつくまでには3年かかる計算となる。現行のレギュレーションが2020年までである事を踏まえると、残されたアップグレードチャンスは僅かに7回。5馬力プラスの向上幅では肩を並べる事は不可能だ。

メジャーアップグレードにおける上位2強の向上期待値が15馬力とすると、5馬力プラスのためには、最強と言われる上位2メーカーよりも33%増しの開発効率を叩き出す事が必要となる。追いつくためにはこれ以上の改善を示す必要がある事から、雑に言えば、ホンダはメルセデスやフェラーリの1.4倍のペースで性能を上げ続けなくてはならない事になる。

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