バルテリ・ボッタス(キャデラック)が、マレーシアのセパンから2026年F1第17戦シンガポールGPの開催地マリーナベイまでの「チャリ通」を無事にやり遂げた。道中ではコブラやニシキヘビ、オオトカゲに遭遇。夜間にはジャングルも走行した。
セパンで行われた第16戦バーレーンGPをリタイヤで終えると、その日のうちにキャニオン製のグラベルロードバイクにまたがり、次の“仕事場”であるシンガポールに向けて出発した。
初日は56.6kmを走破。2日目に161.91km、3日目に161km、そして4日目に40.15kmを走り、無事にシンガポールに到着した。総移動距離は419.66km、走行時間は15時間4分に及んだ。2日目以降、残りの距離を均等に割り振らず、最終日の距離を短くしたのは、レース週末を前に体力の回復を図るためだった。
野生動物との遭遇「一番ワイルドだったのは、夜のジャングル」
シンガポールGPの開幕に先立ちボッタスは、「何匹かヘビを見たよ。ちょっとドキドキしたけど、実際はかなりおとなしかった」と振り返った。
「コブラを1匹見た。ニシキヘビが目の前を横切ったこともあった。ここでも見かけるような大きなトカゲも何匹かいたよ。そのうちの1匹は道にいて、自転車で跳び越えなきゃならなかった。気付いたのがギリギリだったんだ」
動物との遭遇は巨大なヘビやトカゲだけにとどまらなかった。犬に追い掛けられたほか、細い道では牛の群れに行く手を阻まれ、先に進めず待つ場面もあったという。
数々のサイクリングやグラベルレースを経験してきたボッタスだが、ライトを頼りに漆黒のジャングルを走ったのは今回が初めてだった。辺り一面が闇に覆われ、視界が限られる中、周囲に響く正体不明の音に肝を冷やしたという。
「一番ワイルドだったのは、夜にジャングルを走ったことだね。あの音を聞いていると……何がいるんだろうって、頭の中でいろいろ想像し始めちゃうんだ」
「でも、何がいるかは分からない。とにかく走り続けなきゃならない。ライトをつけて夜の森を走ったのが、たぶん一番忘れられない体験だね」
「とはいえ、襲ってくるような野生動物がいないことは分かっていたしね。虎とか、そういうのはいないと思う」とボッタスは続けたが、その認識は誤りだ。
実際にはマレーシアにはマラヤトラという野生の虎が生息している。もっとも、現在は150頭ほどしか確認されておらず、保護区が設けられている。
冗談から始まったチャレンジ「またやりたい」
連戦の合間に国境を越えて次の開催地へ向かう今回のチャレンジは、プロサイクリストでパートナーのティファニー・クロムウェルさんが、クアラルンプールとシンガポールの地理的な距離を踏まえて口にした「冗談」から始まったという。
興味を持ったボッタスは、地元のサイクリストの助けを借りて移動ルートを検討。それでもノーリスクの移動ではないため、追走するサポート車両がボッタスを見守った。メルセデス所属時代であれば、今回の挑戦はチームが許可しなかったことだろう。
今週末のシンガポールGPはセパンでのレースからの連戦となるため、移動によって体力を奪われすぎる状況は避ける必要があった。夜間の移動を選んだのは、現地時間16時半以降に行われるシンガポールGPのタイムスケジュールに合わせる狙いもあった。
過去には今回の倍に当たる距離を1日で走った経験もあり、これまでに参加してきたグラベルレースほど過酷ではなかったという。むしろ、カレンダーの中で最も身体への負担が大きいシンガポールGPに向け、暑さへの順応という点で役立つことを期待している。
前戦では、しばらくぶりにチームメイトのセルジオ・ペレスを上回る競争力を発揮しながらも、スピンによるリタイヤという失望の結末に終わった。今回の自転車での移動は、そのストレスを発散する手助けにもなったようだ。
ボッタスは「頭がすっきりしたのは確かだよ」と語った。
「楽しい冒険だった。本当にやってよかったよ。地元の人たちが言っていたように、4日間でマレーシアのほとんど全部と、その野生の一面を見ることができた」
「自転車がなければ、ああいうものは見られなかった。無理なくレースまでにちゃんと体力を回復できる機会があれば、もちろんまたやりたいね」
