フェルスタッペンの卓越したオーバーテイク技術の裏にある父ヨスの一風変わった教え
マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)の卓越したオーバーテイク技術の裏には、父ヨスによる一風変わった教えがあったようだ。
去る9月30日に24歳の誕生日を迎えたマックスが初めてカートに乗ったのは4歳半の時だった。せがむ息子に対してヨスは時期尚早だと突っぱねたが、涙ながらに訴えるマックスに母親が折れた。
以降、マックスは父の厳しい教育を受けてきた。通算107回のグランプリ出走を誇るヨス・フェルスタッペンはオランダで最も成功したF1ドライバーと見なされていた。
だが、それも昔の話だ。今年、ルイス・ハミルトン(メルセデス)と激しいタイトル争いを繰り広げるマックスは、2021年シーズンのF1の頂点に向けて着実に歩みを進めている。
マックスの抜きん出た才能の一つにオーバーテイクがある。予想外のポイントで躊躇なくノーズを突っ込み一発で相手を仕留めるその追い抜きのスキルは、オーバーテイクのあり方に関する父親の執拗な拘りによって育まれたようだ。
ヨスはSPEEDWEEKとのインタビューの中で、キャリア初期の息子に対してオーバーテイクをして良い場所としてはならない場所を指示するという独特の教えを説いていた事を明かした。
「カート時代から、できる限りの事を彼に教えようとしてきた。運転そのものだけでなく、追い越し方やクルマのセットアップなど、考えなければならない事がたくさんあるからだ」
「オーバーテイクは重要なテーマだった。というもの私は誤ったオーバーテイクなるものが存在すると考えていたためだ」
「マックスがオーバーテイクをしようとしてタイムを失った場合、どうすればもっと上手くできるのかを説明した。そしてストレート等の容易に抜けそうな場所でのアタックを禁止したんだ」
「私は『お前がアタックして良いのはどこそこだけだ。それ以外はダメだ』と伝えた。それは一般的にオーバーテイクポイントとは見なされていないコーナーだった」
「今のF1においてマックスが何処であれオーバーテイクできるドライバーだという印象があるのはそのためだ。あのオーバーテイクは偶然の産物ではない」
「ドライバー足る者は相手をよく見て弱点を見つけ出し、ライバルと本気で向き合わなければならない。マックスはカートを通して何年もの間トレーニングを重ね、これを体得してきたんだ」
ヨスは実父や交際相手、元妻への暴行罪や殺人未遂容疑で逮捕されるなど、現役中も引退後も度々問題を起こしてきた癖のある人物だ。
そんな自身を「扱いやすい人間ではない」と認めるヨスの厳しい指導と訓練にマックスは決して音を上げずに耐えてきた。ヨスによるとそれは、生まれ持った強靭な精神に依るところが大きいと言う。
「あの内なる冷静さは生来のものであって、鍛えることができないものだ」とヨスは語る。
「私は自分が扱いやすい人間ではない事を自覚している。マックスには多くを要求してきたが彼はその全てに耐えてきた」
「マックスはもともと精神的に非常に強い人間なんだ。そして勝利を重ねる事で、徐々に自信を深めていった」
「自分を強く信じている人間が自信を失うことはない。そういうものさ」