2020年F1サクヒールGPのFIA会見に出席したメルセデスのジョージ・ラッセル
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ジョージ・ラッセル、ハミルトンの代役打診は午前2時のトイレ。注目の対ボッタスには”障害”が…

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ウィリアムズのジョージ・ラッセルが第16戦サクヒールGPにおけるルイス・ハミルトンの代役を打診されたのは、バーレーンの決勝から2日後の火曜午前2時のトイレの中での事であった。

最終アブダビGPを待たずに今季のドライバーチャンピオンを確定させた7度の世界王者は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査で陽性反応が確認された事で、バーレーンでの第2レースを欠場する。

契約の舞台裏…代役打診は午前2時のトイレ

チームの公式リザーブドライバーはストフェル・バンドーンが務めているが、トト・ウォルフ代表がハミルトンの後任に選んだのはジュニアドライバーのラッセルだった。

バンドーンはSNSを通して、チャンスが得られなかった事に「失望している」事を認めつつも、「抜きん出たドライバーであり、今回のチャンスを得るのに相応しい」としてラッセルにエールを送っている。

サクヒールGPのFIAプレスカンファレンスに出席したラッセルは、事の成り行きを次のように説明した。

「火曜日の午前2時にトトから電話があったんだ。その時僕はトイレにいたから少し気まずかったんだけどね。電話に出るとトトが『ジョージ、トイレにいるのか』って聞いてきたから『ごめん、そうなんだ』って答えた」

「そしたら彼が『残念な事にルイスがCOVIDに感染してしまったんだ。体調は良いんだけどね。で、大事な事なんだけど、我々はお前に代わりを務めて欲しいと思ってるんだ』って言うから『分かった、OK』って返したんだ」

「その後は眠れない夜を過ごす事になったけど、その翌日に何とか実現にこぎ着ける事ができた」

「火曜日に僕は、電話で本当に色んな人達と話をする事になった。64回もね。でも最終的に上手く事が収まって本当に良かったよ」

不安な48時間

今回のスポット出走の鍵となったのはウィリアムズだ。契約がある以上、チームがエースドライバーを手放さなければならない理由はなく、何らのメリットもなしにメルセデスからの要請を承諾するわけがない。

実際のところ、ウィリアムズがメルセデスの意向に沿う対応を見せた理由はまだ分かっていないが、ラッセルはウィリアムズが自身を契約から開放してくれるのかどうかについて「火曜日は本当に不安な気持ちで連絡を待ち続けていた」と胸の内を吐露した。

最終的にウィリアムズはラッセルの放出を容認。メルセデスは水曜にラッセル起用を発表し、ウィリアムズはラッセルの代役としてジャック・エイトケンを起用する事を正式にアナウンスした。

立ちはだかった多くの難題

実際問題、この僅かな期間の中で手はずを整えるのは簡単な事ではない。「この契約を実現させるために多くの努力が必要だった」とラッセルは説明する。

「24時間でヘルメットを塗装してもらい、スーツも作ってもらった上で、イタリアからイギリスを経てバーレーンまで空輸してもらわなきゃならなかった。ロジスティクスという点でチームがしてくれた事に本当に感謝してる」

「これほどの短時間にも関わらず、やるべきことは本当に山積みだったんだ。彼らが快く引き受けてくれたことは、僕にとって本当に大きな意味を持っている」

ボッタスとの直接比較

ラッセルは「1度のレースでドライバーの能力を測る事はできないし、1回のレースで12ヶ月以上先の意思決定が決まる事もないわけで、僕としては”そんな事”は考えてもいない」と否定するが、今回のドライブがメルセデス昇格に向けた大きなチャンスとなる事は間違いない。

反対側のガレージでW11に乗るのは来季末で契約が切れるレギュラードライバーのバルテリ・ボッタスであり、トト・ウォルフら首脳陣は2人を直接評価する機会を得る事になる。チームがハミルトンの後任にバンドーンでもニコ・ヒュルケンベルグでもなくラッセルを選んだ理由は想像に難くない。

とは言え、ラッセルが”そんな事”を意識できるほど余裕がない事も事実だ。

ハミルトン用の”不快”なシートポジション

ラッセルは2017年にメルセデスの開発ドライバーに就任し、以降2年近くに渡ってシミュレーター作業に取り組むなどしてブラックリーのチームの側でキャリアを重ねてきたが、メルセデスのマシンを駆るのは昨年のアブダビ以来であり、ウィリアムズとの契約以降はシミュレーターからも遠ざかっている。

ましてや2軸ステアリングシステム「DAS」を始めとしてマシンについて学ばなければならない事は山積みであり、身長174cmのワールドチャンピオン用に最適化されたコックピットでは、快適なドライビングポジションを得る事はできない。

ラッセルは身長185cm、体重70kgとかなり大柄な体格を持つ長身ドライバーであり、今回持ち込まれたのは3年前の古いシートという事で、コックピットに乗り込むのもかなりキツイ状態だという。

「将来のことについては1・2レースではなく、シーズンを通して判断されることになると思ってる」とラッセルは語る。

「プレッシャーはない。僕はここ2年間ほど、彼らのシミュレーターに乗っていないしシートは3年前のものだ。学ばなきゃならない事はたくさんあるし、バルテリに対抗するのは簡単なことじゃない」

「(コックピットは)確かに窮屈だった。それに僕用の11サイズのシューズだと狭かったから、少し小さめのシューズを履かなきゃならないんだ。そんなわけで若干不快ではあるんだけど、このチャンスを得るためなら痛みくらい我慢できるさ」

ラッセルは2019年のデビュー以降、一度たりとも予選でチームメイトに負けたことがなく、対チームメイト予選成績で36連勝を誇っている。これは3度のF1ワールドチャンピオン、ネルソン・ピケに並ぶ歴代3位タイの記録で、サクヒールの予選でボッタスを打ち負かせばミハエル・シューマッハとアイルトン・セナに続く単独3位に躍り出る事になるのだが果たして…。

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