
アウディ、F1初陣へ「年間3基制限でも最大100基量産」―”6年遅れ”を埋めるエンジン開発戦略
アウディにとって87年ぶりとなるグランプリカーの走行が数週間後に迫る中、ドイツ南部ノイブルクのF1ファクトリーは、張り詰めた緊張に包まれている。
2026年からザウバーを買収する形でF1に新規参戦するアウディは、既存メーカーからパワーユニット(PU)を購入するのではなく、シャシーとPUの双方を自社開発する「フルワークス体制」を選択した。
その挑戦は、当然ながら容易ではない。スタート地点で、すでにライバルに大きく後れを取っている。この遅れを埋めるべく、アウディは驚異的な“物量作戦”に打って出ようとしている。
Courtesy Of AUDI AG
アウディのF1パワーユニット開発が行われているノイブルクのファクトリーにあるテストベンチ、2024年6月28日
年間3基制限に対し「50〜100基」を製造へ
2026年のF1競技規則では、ドライバー1人が年間で使用できるICE(内燃エンジン)はわずか3基に制限されている。だが、イギリスの自動車専門誌『Autocar』によると、アウディはデビューイヤーに向け、なんと50〜100基ものエンジンを製造する計画を立てているという。
この膨大な数のエンジンは、当然ながらそのすべてがレースで使われるわけではない。製造された中から最も性能の優れた個体だけをレース用に選び、残りは過酷なベンチテストや耐久試験、開発用に充てられる。
なぜこれほどの数が必要なのか。
アウディのCOO(最高執行責任者)クリスチャン・フォイヤーは、メルセデス、ホンダ、フェラーリ、レッドブル・フォードといった既存メーカーと比較して「我々は6年遅れている」と認める。
アウディはハイブリッドシステムの開発を優先してきたため、V6ターボはまだ実働テスト段階に入ったばかりだ。2026年仕様のエンジンがどれほどの性能を発揮するのか、チーム内にもまだ確信を持つ者はいないという。この不確実性を埋めるための策が、”数”なのだ。
さらに、2026年から導入されるカーボンニュートラル燃料への対応や、年間700時間までに制限されたエンジンテスト制限が、開発のハードルをさらに押し上げている。
未知の規則へ挑むビノット体制
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ピットウォールからガレージへと歩くザウバー・アウディのマッティア・ビノットCEO、2025年F1バーレーンGP (1)
この困難な状況を率いるのは、元フェラーリ代表であり、現在はアウディのF1プロジェクト・ディレクターを務めるマッティア・ビノットだ。
ビノットは、「2030年にチャンピオンシップを争うという目標を掲げている以上、これがどれほど困難な挑戦かは重々理解している」と語る。
「シャシーとPUの両方を自社でコントロールすることは、技術的な競争力を得るために不可欠だ。アウディは“参加するためではなく、勝つために”F1に来ている。だからこそこの複雑さを受け入れるしかなかった」
アウディCEOのゲルノート・デルナーも、「アウディがレースに参戦するとき、それは単に競争するためではなく、勝つためだ。やるなら徹底的にやる。それができないなら、最初からやらない」と強調する。
誰もが一致して認めているのは、2026年のレギュレーション大改訂により、アウディを含む全11チームがどの位置につけるのか、完全に未知という点だ。ビノットはこう語る。
「かつて重要だった要素が、今日や明日には別のものに置き換わっている可能性がある。我々は何十年も、レギュレーションに合わせてツールや開発体制を極限まで最適化してきた。だが今や、何が速く、何が最も重要なのか、すべてが変わりつつある」
「6年の遅れ」を物量と執念で埋め合わせようとするアウディ。2026年のF1グリッドで、“フォー・リングス”はどこに並ぶのか。誰にも予測できない戦いは、すでに静かに動き出している。