フェルナンド・アロンソ駆るアルピーヌF1「A521」のエンジンカバー、2021年11月4日F1サウジアラビアGPにて
Courtesy Of Alpine Racing

アルピーヌF1、信頼性を度外視!?2022年仕様のスプリットターボ採用パワーユニット

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アルピーヌF1チームはパワーユニット(PU)開発が凍結される2022年シーズンに向けて、2022年の新車「A522」にスプリット・ターボ式の新型PUを搭載する。曰く、信頼性を度外視して開発した意欲作だという。

F1は次世代PUが導入される2026年に向けて今年、2段階でPU開発を凍結する。ICE(内燃エンジン)、ターボ、MGU-Hは3月1日に、それ以外のコンポーネントは9月1日までにホモロゲーションを取得しなければならず、原則として以降は2025年末まで新たな開発物を投入する事はできない。

つまり遅れを取れば、その状況を向こう4年間変える事はできず、競争力を欠くことになる。それだけにフェラーリ、メルセデス、ホンダを含む各PUメーカーはE10燃料への対応のみならず、設計を抜本的に見直すなど注力している。

予てから噂されていた事だが、Motorsport-Totalによるとアルピーヌのローラン・ロッシCEOは新車「A522」の発表イベントを前に、小型化を目的として2022年スペックのPUにスプリット・ターボ式を採用した事を認めた。

これはV6ハイブリッド時代を席巻するメルセデスが初めて実用化したタービンとコンプレッサーとを分割してロングシャフトで繋ぐアーキテクチャーで、ホンダ(レッドブル・パワートレインズ)も同様のアプローチを採用している。

F1パワーユニットにおけるターボチャージャーとMGU-Hの構造図copyright Formula1 Data

F1パワーユニットにおけるターボチャージャーとMGU-Hの概略図

これにはコンプレッサーに対する排気熱の影響を抑える事でインタークーラーの小型化が可能となるほか、PU全体がよりコンパクトになる事でシャシー側として思想的な重量配分や空力性能を追求しやすくなる等のメリットがあるとされる。

ただ同時にリスクもある。F1マシンのターボチャージャーは毎分12万回転以上という高速で回転しているため、分割によってシャフトが長くなると僅かな狂いでさえ容易くターボを破壊し得る程の振動を発生させかねない。

だがアルピーヌは、実戦投入経験のないこの仕組みをPU凍結が行われる2022年に導入する決定を下した。ロッシCEOは開発チームに対し、可能な限りパフォーマンスの限界を追求するよう指示を出し、その上で信頼性にはこだわらない、と伝えたと言う。

「私は性能を発揮しない信頼性の高いパワーユニットに安住するよりは、最大限の性能を引き出させると確信できるパワーユニットが欲しいのだ」とロッシCEOは語った。

ハイリスクな戦略だが、仮にトラブル続きになったとしても救済策がある。

開発が凍結されるとは言え、1レースにおけるPU降格ペナルティが計105グリッドに及んだかつてのマクラーレン・ホンダのような惨状を防ぐために、技術規定は凍結以降も「信頼性、安全性、コスト削減、または最小限の付随的な変更のみを目的とした」ものであれば変更を認めている。

ロッシCEOは「信頼性が第一、というのが従来のルノーの考え方であったが、今の我々は全く逆の方向に進んでいる」としつつも、ダイナモでのテストでは数千kmを走り込めている状況だとした上で、期待の新型PUを「ゲームチェンジャー」と評した。