黒いTシャツとサングラスを着用しパドックに立つクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング チーム代表)、2025年5月22日(木) F1モナコGPメディアデー(モンテカルロ市街地コース)
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ホーナー、解任と重なった愛娘の母の死。11歳の娘を支えた日々と、自身を襲ったパニック発作を告白

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レッドブル・レーシングを20年間にわたって率いたクリスチャン・ホーナーには、突然チームを去ることになった時、自身の置かれた状況以上に気にかけなければならない存在がいた。母親を亡くしたばかりの当時11歳だった愛娘だ。

2025年7月にチーム代表兼CEOを解任されたホーナーは、イギリス紙『The Guardian』のインタビューで、当時の家庭事情と、長年の仕事を失った心境を明かした。自ら立ち上げたエンジン事業が初勝利を挙げた今も、あの夏の別れを「容赦がなく、悲しかった」と振り返る。

娘の母が亡くなった直後の解任

元パートナーのビバリー・アレンさんは、2年間にわたる眼のがんとの闘病の末、58歳で亡くなった。ホーナーとの間には2013年に長女オリビアさんが誕生しており、別れた後も2人は良好な関係を保っていた。

ホーナーがレッドブルでの職を失ったのは、その死から数日後のことだった。家庭と仕事の両方でショッキングな出来事が重なる中、ホーナーが何より優先したのは、母親を失った娘の日々を支えることだった。

「辛かった。とても辛かった。実際に自分の中でそれを消化できたのは1カ月ほど経ってからだった。[解任]直後は、ひどく辛い時期にいた娘のオリビアを支えることに集中していたからだ」とホーナーは明かした。

チームを去ることには、安堵もあったという。解任の痛みと、その場から離れることで得た安堵。一見相反する感情も、当時の家庭の事情を重ねると、少し違って響く。

「ここ2年間は本当にタフだった。特にあの時は、その前の週に娘の母親が亡くなったばかりで、ひどくナイーブな時期だった。11歳の娘が母親を失って悲しんでいたんだ。それ以上に気しなければならないことは何もなかった」

パニック発作と向き合った日々

娘に寄り添いながら、自らも長年の仕事を突如奪われた現実と向き合う――その経験を語る中でホーナーは、メルセデスのチーム代表トト・ウォルフの名を挙げた。タイトルを争い、幾度となく激しい言葉を交わしてきた犬猿の仲として知られる相手だが、うつ病との闘いを公にした姿勢には敬意を示した。

「私たちくらいの年齢の人々に関わるこうした問題について、トト(ウォルフ)が公に話したのは、本当に勇気のあることだった。私はそれまでそうした問題を経験していなかったが、この時期を通じて、人がどうやってそういう苦しみに陥るのか、少し分かるところがあった」

「多くの中年男性は、仕事を通じて自分という存在を確かめている。それが突然奪われる。自分は何者なのか? 何のために生きているのか? 身を縮めてうずくまるか、気持ちを立て直して立ち上がるか、そのどちらかだ」

メルセデスのトト・ウォルフCEO兼代表とパドックで話すレッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表、2024年6月28日(金) F1オーストリアGPスプリント予選前(レッドブル・リンク)Courtesy Of Red Bull Content Pool

メルセデスのトト・ウォルフCEO兼代表とパドックで話すレッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表、2024年6月28日(金) F1オーストリアGPスプリント予選前(レッドブル・リンク)

ホーナーは、自身がパニック発作を経験したとも明かした。

「最初は何なのか分からなかった。突然めまいがして、自分の呼吸を強く意識するようになって、何かおかしいと感じたんだ。最初は、蒸し暑くて雷雨が来そうな日にコーヒーを飲みすぎたせいだと思っていた。でも、また同じことが起きた」

「検査を受けたけど、身体的には何の問題もなかった。医師からは、『不安症のようだ。呼吸がかなり浅くなっている』と言われてね。体が、『かなり無理をしているぞ』って私に警告していたんだ」

「今では症状を認識できるようになったから、受け流して呼吸を整え、落ち着かせることができるようになった」

F1では、チーム代表の交代は後任人事や競争力への影響とともに語られる。だが、ホーナーの言葉は、その役職を離れた後にも続く一人の人間の人生に目を向けさせる。こうした経験は、何も華やかなF1パドックの中だけに限られる話ではない。

自ら立ち上げたPU事業初勝利への複雑な思い

レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表、ミルトンキーンズのファクトリーにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表、ミルトンキーンズのファクトリーにて

ホーナーにとってレッドブルで過ごした20年間は、多くの人材を迎え入れ、チームを拡大させてきた時間でもあった。2005年の就任時に400人に満たなかったスタッフの数は、退任時には2200人にまで拡大していた。

「私はあの事業に心血を注ぎ、他のチームを離れてレッドブルに来るよう、多くの人々を説得してきた」とホーナーは語る。

「一方で、スタッフの入れ替わりは多くなかった。長い年月の中で、とても強い忠誠心があったからだ」

スタッフに自らの退任を伝えた際には、感情を抑えきれなかった。

「あの集団は、私にとって家族のような存在になっていた。だから、大の男たちが涙を流す姿には、胸を打たれるものがあった」

ともにトップを目指して働いてきた仲間たちとの別れに加え、道半ばで手放さなければならない仕事もあった。2021年に立ち上げ、自ら推進してきたパワーユニット(PU)事業だ。

「いよいよコースに送り出そうというところで、私は去ることになった。そのエンジンを積んだクルマを見ることができなかったのは、本当に悲しかった」

ホーナーが送り出すはずだった初の自社製PUは、本人の退任後に実戦投入され、2026年F1第16戦バーレーンGPでマックス・フェルスタッペンの勝利によって初優勝を達成した。開発に携わった人々の仕事が実を結んだ一方、その瞬間をチーム代表として迎えることはかなわなかった。

優勝を飾りパルクフェルメでRB22の上に立って両拳を突き上げるマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)、2026年10月4日(日) F1バーレーンGP決勝(セパン・インターナショナル・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

優勝を飾りパルクフェルメでRB22の上に立って両拳を突き上げるマックス・フェルスタッペン(レッドブル・レーシング)、2026年10月4日(日) F1バーレーンGP決勝(セパン・インターナショナル・サーキット)

「あのPUを搭載したマシンが勝利する瞬間を見届ける機会を奪われたことには、特に傷ついたし、何かを奪われたような気分だった」とホーナーは語る。

「チームの皆にとって、あれがどれほど大きな意味を持っていたのかを目の当たりにし、パワートレイン部門の代表が表彰台に送り出されたのを見て、本当に誇らしい気持ちになった」

「チームのいろいろな人からメッセージが届いたし、レース後にはマックス[フェルスタッペン]にも連絡を取った。彼は本当に寛大に対応してくれた。あのエンジンによる勝利は、歴史的な瞬間だった」

「適切な人材を集め、正しい文化を築き、必要な道具をそろえれば、何だって可能だということを改めて確信させてくれた」

この業績にホーナーが大きく貢献したことは、解任を決断したレッドブルGmbH側も認めている。同社の企業プロジェクト・新規投資部門CEOを務めるオリバー・ミンツラフは、初勝利を経てホーナーに連絡を取っていた。

ホーナーは、レッドブルGmbHの決断を「本当に非情」と評しつつも、「今はオリバー(ミンツラフ)とはそれなりに良い関係を築いている。先日も電話をくれて、エンジン部門のために私が尽力したことに感謝してくれた」と明かした。

異端児の精神は薄れつつある

ホーナーを失ってなお、レッドブル・レーシングは依然として競争力を発揮し、トップチームの一角としての立場を維持しているように見える。それでもホーナーは、常に限界に挑み続けてきた「異端児のようなチーム」としての姿は失われつつあると考えている。

「炭酸飲料メーカーの子会社でありながら、自前でエンジンを造ろうなんて常軌を逸したことをやるのはレッドブルくらいのものだろう。既存の枠にとらわれず、秩序を壊す存在であり続けること。それが我々の信条だった」

「でも、今は少し違う」

ホーナーは、チームの所有権を伴う形でのF1復帰を模索しているが、復帰しない可能性も認めている。10年後は何をしていると思うか? そう問われたホーナーは「サーキットにいるかもしれないし、トラクターに乗っているかもしれない」と答えた。

「私の強みは、異なる専門分野を持つ人々をまとめて、一つのチームとして機能させることだと分かっている。それはほかの分野にも応用できるかもしれない」

「でも今のところ、心から私を突き動かし、ワクワクさせてくれるのはF1だけだ」

レッドブル・リンクのグリッド上で空を見上げるクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)、2024年6月30日(日) F1オーストリアGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブル・リンクのグリッド上で空を見上げるクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)、2024年6月30日(日) F1オーストリアGP