
500戦の節目に振り返る「メルセデスF1セーフティーカーの軌跡」と“2007年富士”の記憶
2025年10月17~19日にサーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)で開催されるF1第19戦アメリカGPで、メルセデス製セーフティーカーが歴史的な通算500戦目という節目を迎える。
これは、F1コンストラクターとしてのレッドブル・レーシング(411戦)、ルノー(400戦)、さらにはメルセデスのワークスチームとしての参戦回数(335戦)をも上回る驚異的な数字だ。
1996年6月30日、フランス・マニクールで「メルセデス・ベンツC 36 AMG」がF1公式セーフティーカーとしてデビューを飾ってから29年。以来、メルセデス・ベンツおよびメルセデスAMGは計13種類ものモデルをF1に送り出し、世界最高峰のレースの安全を守り続けてきた。
今週末のCOTAでは、500戦を記念して現行セーフティーカーである「メルセデスAMG GT ブラックシリーズ」に特別な「500デザイン」が施される予定だ。
Courtesy Of Mercedes-Benz
2025年F1アメリカGPに向け「500グランプリ」の記念ロゴが掲出されたF1セーフティーカー、メルセデスAMG GT ブラックシリーズ
レースの流れを左右する“もう一台の主役”
セーフティーカーはF1において、単なる安全措置にとどまらない。時にその出動により、レース展開そのものを一変させる“見えない主役”となる。
アクシデントやコース上のデブリ、突然の豪雨——危険が発生した瞬間、レースコントロールはセーフティーカーの投入を決断する。車両は先頭車を先導して全体のペースを落とし、レースを一時的に中立化。走行速度は状況に応じてレースコントロールが決定し、ドライバーはその後方で隊列を維持する。
安全確保が最優先であることは言うまでもないが、一方でセーフティーカーは戦略的な転換点にもなり得る。出動中のピットストップは、通常よりもロスタイムを大幅に短縮できるため、チームにとっては千載一遇のチャンスとなる。たった一度のセーフティーカー出動が、レースの勝敗を決定づけることも少なくないのだ。
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1997年から1999年にかけて使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「CLK 55 AMG(C208型)」
メルセデスAMGが提供するセーフティーカーは3台体制で、常時2台がスタンバイ。2022年以降はライトシステムが車両に完全統合され、空力性能が最適化されている。21基のLEDモジュール(フロントガラスに6個、リアウイングに13個、リアナンバープレートに2個)が配置され、視認性と安全性を両立する。出動時には14個がオレンジ色に常時点灯し、リアウイング中央の7個が同色で点滅する。
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セーフティーカー仕様のメルセデスAMG GTブラックシリーズ、2022年のFIA-F1世界選手権
セーフティーカーにまつわる歴史的記録
F1のセーフティーカー史には、数々の象徴的な瞬間が刻まれている。
最多周回を記録したのは2016年のブラジルGPだ。豪雨と多発するクラッシュにより、セーフティーカーの出動は4回に及んだ。合計33周(1回目7周、2回目7周、3回目12周、4回目7周)という異例の長期出動により、レース全体の約半分がセーフティーカー先導下で行われた。
一方、1回の出動で最長となったのは、富士スピードウェイで行われた2007年の日本GPだ。霧雨に包まれた難コンディションの中、当時のセーフティーカー「CLK 63 AMG」は19周連続でコースを走行した。
この時の緊張感について、長年にわたりF1公式セーフティーカー・ドライバーを務めるベルント・マイレンダーはこう振り返る。
「これまで本当に多くの魅力的なメルセデスAMGマシンを運転してきた。そのすべてを誇りに思うと同時に感謝している。忘れられない思い出も数え切れないが、特に印象的なのは2007年の富士だ」
「燃料計を気にしながら19周目を走行していたところ、ようやく雨が弱まりレースが再開された。その後ピットに戻って2台目の車に乗り換えたものの、直後に事故が発生してまたコースに送り出されたんだ。あのレースのことは一生忘れられないね」
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F1公式セーフティカードライバーであり、AMGブランドアンバサダーでもあるベルント・マイレンダー
最多出動数を記録したのは2011年のカナダGPだ。大雨と度重なる赤旗中断により、マイレンダーは「SLS AMG」で計5回出動。それぞれ4周、4周、15周、4周、3周を走行した。総計30周に迫る出動は、まさに“耐久戦”の様相を呈していた。
25年にわたる“F1の守護神”マイレンダー
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F1公式セーフティーカー「メルセデスAMG GT ブラックシリーズ」とドライバー兼AMGブランドアンバサダーのベルント・マイレンダー
F1セーフティーカーの公式ドライバーを務めるのは、ドイツ出身の51歳、元レーシングドライバーのベルント・マイレンダーだ。2000年以来、彼は25年にわたりFIAの信頼のもと、セーフティーカーをドライブし続けている。
マイレンダーを支えるのは、交代制でコ・ドライバーを務めるリチャード・ダーカーとイグナツィオ・サンゾーネ、そしてFIAスタッフと3人のメルセデスAMGスタッフ(コーディネーター、メカニック、電気技師)から成るチームだ。彼らは車両の整備・ロジスティクス、システムチェック、バックアップ車両の管理を含め、レースごとに完璧な準備を整える。
各週末前には、木曜日に3〜5周の高速走行を1時間、そして公式セッションがある日は毎朝、すべてのシステムの動作確認を実施する。コース上の安全を確保しつつも、F1マシンを最適な走行状態に保つための適切なペースを見極めることが彼らの使命だ。
最強のセーフティーカー:730馬力のブラックシリーズ
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2022年のFIA-F1世界選手権にセーフティーカーとして供給されるメルセデスAMG GTブラックシリーズとメディカルカーとして供給されるAMG GT 63 S 4マチック+ (3)
2022年以降、F1公式セーフティーカーとして使用されているのは「メルセデスAMG GT ブラックシリーズ」だ。このマシンは、2006年からメルセデスAMGのハイパフォーマンスモデル群に加わった“ブラックシリーズ”の伝統を受け継ぎ、公道走行可能なマシンでありながら、開発の焦点をサーキット性能に絞った妥協なき設計が特徴だ。
搭載される4.0リッターV8ツインターボエンジンは、メルセデスAMG市販車史上最もパワフルなユニットだ。フラットプレーン・クランクシャフトとドライサンプ潤滑方式を採用し、最高出力537kW(730馬力)を発揮。0-100km/h加速はわずか3.2秒、最高速度は325km/hに達する。アクティブ・エアロダイナミクスが高速走行時の安定性を高め、GT3マシン由来の大型冷却エアインテークが極限状態での信頼性を支える。
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2022年のFIA-F1世界選手権にセーフティーカーとして供給されるメルセデスAMG GTブラックシリーズ (5)
公式セーフティーカー仕様のGT ブラックシリーズは、グランプリウィークエンドにおける厳しい要求に応えるべく、市販車から数多くの要素が再設計されている。統合型LEDライトシステムに加え、フロント右ホイールアーチ内に設置されたサイレン、FIAのレースコントロールと直結する通信・無線システム、コックピット内の追加スクリーン、コ・ドライバー専用のデジタルインテリアミラー、リアウイング内蔵カメラなどが搭載されている。
また、FIA標準のテレメトリー、タイミングシステム、オンボードカメラ、通信アンテナ(F1マシンと同様の仕様)も実装されており、走行中の全データがリアルタイムでFIAに送信される。
環境面への配慮もなされており、2023年以降は持続可能な成分を40%含む新燃料「ペトロナス・プライマックス・プロレースM2」を使用。エタノール10%、eFuel 30%を配合した100オクタン燃料が採用され、F1のサステナビリティ目標に沿った運用が行われている。
29年の歴史が示す“信頼と進化”
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1996年シーズンに導入されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「C36 AMG(W202型)」
メルセデスAMGモータースポーツ責任者のクリストフ・ザーゲミュラーは、この500回目の節目についてこう語る。
「1996年にスリーポインテッド・スターをを掲げた最初の車両が登場して以来、F1だけでなくセーフティカーも絶えず進化を続けてきた。我々は長年にわたる協力関係と、FIAからの寄せられてきた信頼に誇りを持っている」
「高性能マシンを通じて、我々はモータースポーツの頂点における安全性向上に積極的に貢献してきた。これは、精密さとパフォーマンスを最高レベルで融合させるというAMGの哲学を体現するものだ。アッファルターバッハからこの責任を担い、極限の条件下でも信頼されるパートナーであり続けられることを誇らしく思う。ベルント・マイレンダーは長年にわたる経験と信頼を兼ね備えた同僚であり、我々の誇りだ」
500回という数字は、単なる記録ではない。それは約30年にわたる経験、技術的な革新、そしてFIAと世界中のサーキットから寄せられた信頼の証だ。
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2000年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「CL 55 AMG(C215型)」
なお、メルセデスはF1公式メディカルカーも供給しており、今週末のアメリカGPではセーフティーカー同様、通算500回目のグランプリに臨むことになる。両車両はF2やF3をはじめとするジュニアカテゴリー、さらには各種サポートレースでも安全の要として機能している。
メルセデス製F1セーフティーカーの歴史
- 1996年:メルセデス・ベンツ C 36 AMG(W202)
- 1997〜1999年:メルセデス・ベンツ CLK 55 AMG(C208)
- 2000年:メルセデス・ベンツ CL 55 AMG(C215)
- 2001〜2002年:メルセデス・ベンツ SL 55 AMG(R230)
- 2003年:メルセデス・ベンツ CLK 55 AMG(C209)
- 2004〜2005年:メルセデス・ベンツ SLK 55 AMG(R171)
- 2006〜2007年:メルセデス・ベンツ CLK 63 AMG(C209)
- 2008〜2009年:メルセデス・ベンツ SL 63 AMG(R230)
- 2010〜2012年:メルセデス・ベンツ SLS AMG(C197)
- 2012年(ドイツGPより)〜2014年:メルセデス・ベンツ SLS AMG GT(C197)
- 2015〜2017年:メルセデスAMG GT S(C190)
- 2018〜2021年:メルセデスAMG GT R(C190)
- 2022年〜現在:メルセデスAMG GT ブラックシリーズ(C190)
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2001年〜2002年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「SL 55 AMG(R230型)」
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2003年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「CLK 55 AMG(C209型)」
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2004年〜2005年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「SLK 55 AMG(R171型)」
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2006年〜2007年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「CLK 63 AMG(C209型)」
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2008年〜2009年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「SL 63 AMG(R230型)」
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2010年〜2012年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「SLS AMG(C197型)」
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2012年〜2014年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデス・ベンツ「SLS AMG GT(C197型)」
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2015年〜2017年シーズンに使用されたF1公式セーフティーカー、メルセデスAMG「GT S(C190型)」