正念場続く角田裕毅―マルコが明かす「復活への兆し」一方で迫る若手の脅威

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シーズン折り返し地点となったF1第12戦イギリスGP。角田裕毅(レッドブル)は6戦連続でQ3進出を逃し、2戦連続最下位という屈辱的な結果に終わった。RB21への適応に苦戦し、レッドブル昇格後の10戦でわずか7ポイントしか獲得できていない日本人ドライバーに、果たして光明はあるのか。

レッドブルのモータースポーツ・アドバイザー、ヘルムート・マルコは墺専門メディア『SpeedWeek』に寄せたコラムで、意外にも楽観的な見方を示した。その根拠とは何か。

「上向きの傾向」を確信するマルコ

「ユーキはこれまで、幾つかの週末で苦戦してきたが、イギリスではすでに上向きの傾向が見られた」

マルコの言葉には確信が込められていた。イギリスGPでは、圧倒的なペース不足に加えて接触によるペナルティも重なり、角田は最下位に沈んだ。だがマルコが着目したのは、その結果ではなく過程だった。

「大部分のフリー走行でマックスとの差が以前より小さく、レースでは11番グリッドからスタートすることができた」とマルコは指摘する。

数字が示す現実は厳しいが、マルコが評価するのは結果だけではない。そこに至るまでのプロセス、そしてチームとして取り組んできた具体的な改善策への手応えがある。

「我々はユーキと徹底的な話し合いを重ねてきたし、彼はスポーツ・メンタルトレーナーとも取り組んでいる」

ガレージでエンジニアと話をする角田裕毅(レッドブル)、2025年7月4日(金) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ガレージでエンジニアと話をする角田裕毅(レッドブル)、2025年7月4日(金) F1イギリスGP(シルバーストン・サーキット)

裏目に出た戦略、入賞復帰への信頼

マクラーレン勢の圧倒的な競争力に対抗すべく、レッドブルはイギリスGPで低ダウンフォース仕様のパッケージを採用した。だが、ドライコンディションを想定していた戦略は裏目に出た。レースの大半がウェット路面となり、パフォーマンスを最大限に発揮することができなかった。

結果は散々だった。マックス・フェルスタッペンでさえ珍しくスピンを喫し、5位入賞にとどまった。

フェルスタッペンと同じリアウイングを搭載していた角田裕毅について、マルコは「残念ながら、レースでのチャンスはなかった」と理解を示しつつ、「彼のパフォーマンスは向上している。間もなく、それはポイント獲得という形で表れるだろうと楽観的に考えている」と語り、変わらぬ信頼と復活に向けた期待を寄せた。

オリバー・ベアマン(ハース)に接近を許す角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

オリバー・ベアマン(ハース)に接近を許す角田裕毅(レッドブル・レーシング)、2025年7月6日(日) F1イギリスGP決勝(シルバーストン・サーキット)

角田を脅かす若手の台頭

それでも、角田の将来が安泰とは限らない。2026年に向けて、彼のシートを脅かし得る若手ドライバーたちは着実に力をつけている。マルコは、レーシング・ブルズの若手コンビ、リアム・ローソンとアイザック・ハジャーを高く評価している。

両者についてマルコは、成績に波がある点を認めながらも、「人々は時に、リアムとアイザックがこのトップカテゴリーで最も若いドライバーコンビであることを忘れがちだ。彼らには十分な競争力がある」と語り、その潜在力に太鼓判を押した。

イギリスGPでは2人そろってリタイアに終わったが、マルコは結果だけを見てはいない。「結果というものは、レース状況や戦略次第という部分もある。すべてがうまく噛み合えば、アイザックとリアムは中団上位を争える器だ」とし、着実に成長を重ねる彼らの可能性に期待を寄せた。

F1イギリスGPに向けたスペシャルリバリーの発表イベントでポーズを取るリアム・ローソンとアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)、2025年7月1日(火) ロンドンCourtesy Of Red Bull Content Pool

F1イギリスGPに向けたスペシャルリバリーの発表イベントでポーズを取るリアム・ローソンとアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)、2025年7月1日(火) ロンドン

加えて、イギリスGPのFP1では角田に代わり、FIA-F2選手権を戦うジュニアドライバー、アーヴィッド・リンブラッドが初の公式セッションデビューを果たし、印象的な走りを披露した。

17歳のイギリス人ドライバーについてマルコは、「素晴らしいパフォーマンスだった。スピードは申し分なく、コメントも的確で、技術陣も彼のパフォーマンスに大いに満足している」と称賛を惜しまなかった。角田の背後には、確実に次代の足音が迫っている。

5連覇の野望が遠のく中での「巻き返し宣言」

角田ばかりでなく、今シーズンはチーム全体の成績も芳しくない。ドライバーズ選手権でフェルスタッペンは現在3位に甘んじており、首位のオスカー・ピアストリとは69ポイントの大差がついている。

フェルスタッペンによる5連覇の野望が遠のく中、マルコは先月のオーストリアGPに際し、事実上の”敗北宣言”とも受け取れる発言を口にした

しかしながら、クリスチャン・ホーナーの電撃解任を経て一転、マルコは戦う姿勢を鮮明にし、次戦ベルギーGPでさらなるアップグレードを投入する計画を明かした上で、「まだタイトルを諦めるつもりはない」と宣言した。

これは、シーズン前半終了までの残り2戦でフェルスタッペンが来季の去就を見極めると見られる中、興味深い姿勢の変化と言える。

ベルギーGPの舞台、スパ・フランコルシャンについてマルコは「我々のマシンにより適しているはずだ」と楽観的な見通しを示した。一方、続くハンガリーGPのハンガロリンクについては、低速コースかつ高温が予想されることから「やや厳しいかもしれない」としつつも、アップグレードの効果に期待を寄せた。

角田の復活とレッドブルの巻き返し。マルコの楽観論は現実となるだろうか、サマーブレイク前の最終決戦が近づいている。

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