
フェラーリ、数字が示す”0.5秒の退歩”と構造的課題―母国予選での屈辱…打ちひしがれるハミルトンとルクレール
1年前のF1エミリア・ロマーニャGPでフェラーリは、自慢の赤きシングルシーターで予選2列目を確保。決勝では3位表彰台に上がり、ティフォシ(熱狂的なフェラーリファン)を沸かせた。オスカー・ピアストリのペナルティに助けられた面はあったものの、SF-24は実力でトップ5入りを果たせる速さを持っていた。
だが今年、状況は一変した。シャルル・ルクレールとルイス・ハミルトンという2人のスターを擁しながらも、フェラーリは自らのホームコースで約1年ぶりにQ3進出を逃すという屈辱を味わった。
昨年から0.5秒の退歩―数字が語る苦戦
ルクレールが記録した1分15秒604は、昨年の予選で自身がマークした1分14秒970から大きく後退したばかりか、今大会の最終プラクティスのタイムも下回っていた。この結果は、フェラーリにとって最も重要なホームレースにおける明確な後退を意味する。
チームメイトより1つ下の12番グリッドに並ぶことになったハミルトンは、「打ちのめされたのは確かだ」と肩を落とし、ルクレールも「ただただ悔しい。こんなパフォーマンスだなんて、本当にガッカリだ」と深い失望を滲ませた。
セクタータイムの分析からも、フェラーリの苦戦は明らかだった。特定のセクションで遅れを取っているのではなく、すべてのセクターでミッドフィールドに埋もれており、トップチームから完全に引き離されていた。
今回の予選で昨年よりもタイムを落としたのはフェラーリを含めて3チーム(レーシング・ブルズ、ハース)あったが、その中でもフェラーリの低下幅は最も大きく、コンマ5秒に達した。
Courtesy Of Ferrari S.p.A.
スタンドのティフォシに手を振るルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年F1エミリア・ロマーニャGP(イモラ・サーキット)
飛び出すティフォシへの謝罪
2025年シーズンに対して、これまで前向きな姿勢を維持してきたルクレールだが、今回のエミリア・ロマーニャGPでは明らかにトーンが変化した。予選後、彼は地元で応援するティフォシに対し、謝罪の言葉を口にしている。
「遠くから応援に来てくれたファンに対して、『ごめんなさい』って言うことしかできない。僕らが見せられるベストが11位と12位なんだから、本当に辛い」
また「今のフェラーリは”何処にもいない”。とにかく、期待していたようなポテンシャルがこのクルマには備わっていないんだ」とも語り、単なる一時的な不調ではなく、マシンが抱える構造的な問題の存在を示唆した。
Courtesy Of Ferrari S.p.A.
イモラ・サーキットに集結したスクーデリア・フェラーリの熱狂的ファン「ティフォシ」、2025年F1エミリア・ロマーニャGP(イモラ・サーキット)
ハミルトンもまた、苦悩を隠さなかった。
「本当に打ちのめされた気分だった。すごく悔しかった。というのも、クルマの感触はすごく良かったんだ。セットアップもバッチリで、ブレーキも効いてたし、すべてが整ってる感じだったのに、それでも速く走れなかった」
両ドライバーが口を揃えて指摘したのは、「バランスやセットアップの問題ではなく、単純にクルマのポテンシャルがなくパフォーマンスが不足している」という厳しい現実だった。
奇跡を求めて:日曜日の挽回策はあるのか
では、日曜のレースでポジションを挽回する可能性はあるのだろうか?ミッドフィールドから抜け出し、表彰台争いに加わるためには、通常とは異なる戦略的アプローチが必要になるが、ルクレールは現実的な見方をしている。
「正しい戦略っていうのは、基本的には誰にとっても同じなんだよ。そこから外れるってことは、セーフティカーに頼るしかない。明日に関して、それは正しいことなのか? どうだろうね」
オーバーテイクが難しいイモラでは、スタートとピット戦略が勝敗を分ける要素となる。だが、マシンそのものの競争力が不足している現状では、戦略だけで大きな挽回を実現するのは難しい。
「正直、明日奇跡が起こせればと思ってる。今のところ、希望が持てる要素は何もない。だって、このクルマには求めていたようなポテンシャルがないんだから」とルクレールは付け加えた。
Courtesy Of Ferrari S.p.A.
イモラ・サーキットでスクーデリア・フェラーリSF-25をドライブするルイス・ハミルトン、2025年F1エミリア・ロマーニャGP
長い道のり:シーズン展望にも暗雲
今回の結果は、フェラーリの2025年シーズン全体に暗い影を落としている。開幕数戦の段階でハミルトンは「このシーズンは苦痛になるかもしれない」と既に悲観的な一面をのぞかせていたが、一方でルクレールはまだ希望を失っていなかった。
だが、ホームグランプリでの惨敗は、チームの士気とコンストラクターズランキングの両面に深刻な影響を与えかねない。
「もっとクルマのパフォーマンスを改善していかなきゃならない。レッドブルのレベルに全然届いてないのは明らかだ。ターン2では彼らの方が6~10km/hも速いんだから」
ハミルトンのこの言葉が示す通り、フェラーリがマクラーレンやメルセデス、レッドブルに追いつくためには、大幅な改善が求められる。現在のままでは、ウィリアムズのような後方勢にすら順位を脅かされかねない。
モナコ&スペイン:反転攻勢へのカギ
2024年に表彰台の頂点に立ったモナコが、フェラーリにとって反転攻勢の起点になるのではという期待もある。だが、ルクレール自身はむしろ悲観的であり、低速コーナーが多くブレーキを多用するモナコでは、SF-25の問題がより顕著に現れると見ている。
「モナコでは、クルマのすべての弱点が明らかになると思う。だから、僕らにとってはかなり厳しい週末になるんじゃないかな」とルクレールは指摘した。
Courtesy Of Ferrari S.p.A.
イモラ・サーキットでスクーデリア・フェラーリSF-25をドライブするシャルル・ルクレール、2025年F1エミリア・ロマーニャGP
一方で、チームが大きな期待を寄せているのが、スペインGPで投入予定のアップグレードパッケージだ。FIAによるフレキシブル・フロントウイングの検査強化も重なることで、勢力図に変化が生まれる可能性もある。
しかしながら、このアップグレードについてもルクレールは慎重な姿勢を崩しておらず、次のように語っている。
「それが転機になるためには、“めちゃくちゃいいアップグレード”でなきゃならない。正直なところ…いい方向に進んでくれることを願ってるけど、この先の道のりはまだまだ長いと思う」
フェラーリにとって、今回が最後となる可能性があるイモラでの苦戦が一時的な失速なのか、それともマシンに根差した構造的な問題なのか。その答えは、今後数戦のパフォーマンスによって明らかになるだろう。
「僕らは前進を止めたりはしない。プレッシャーをかけ続け、チームのみんなに奮起を促し、パフォーマンスを引き出してくれることを願うばかりだ」
ハミルトンのこの言葉には、希望と反撃への強い意志がにじみ出ていた。
Courtesy Of Ferrari S.p.A.
シャルル・ルクレール(フェラーリ)のヘルメットに掲げられた「チームとして共に攻め続けるのみ」のメッセージ、2025年F1エミリア・ロマーニャGP(イモラ・サーキット)
2025年F1エミリア・ロマーニャGP予選では、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)がポールポジションを獲得。2番手はマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、3番手はジョージ・ラッセル(メルセデス)という結果となった。
決勝レースは日本時間5月18日(日)22時にフォーメーションラップが開始され、1周4,909mのイモラ・サーキットを63周する事でチャンピオンシップを争う。レースの模様はDAZNとフジテレビNEXTで生配信・生中継される。