
異なる対応をしたと思う―元レッドブルの”ルールの番人”、フェルスタッペン論争に一石
ジョナサン・ウィートリーがザウバーに移籍していなければ、2025年F1第5戦サウジアラビアGPの1周目に発生したマックス・フェルスタッペンとオスカー・ピアストリの一件に対し、レッドブル・レーシングは異なる対応を取っていた可能性がありそうだ。
英専門メディア『The Race』によると、昨年までレッドブルでスポーティング・ディレクターを務め、現在、ザウバーのチーム代表を務めるジョナサン・ウィートリーは、「自分であれば、異なる対応をしていたと思う」と語ったという。
チームごとに役割の幅に違いはあるものの、スポーティングディレクターの主な役割は、競技規則の観点からチームを最大限有利な立場へと導くことにある。ルールに精通し、その知識をもとにグレーゾーンを巧みに活用しながら違反を回避。さらに、FIAやレースコントロールとの折衝においてチームの代表窓口を務めるなど、まさに“ルールの番人”としての重責を担う存在だ。
Courtesy Of Red Bull Content Pool
バーレーン・インターナショナル・サーキットのパドックに立つジョナサン・ウィートリー(レッドブル・レーシング スポーティング・ディレクター)、2024年2月28日(水) F1バーレーンGP
フェルスタッペンは、スタート直後のターン1を通過せず、コースを外れながらもラップリーダーの座を保持。その後、ポジションを戻すことなく走行を続けた結果、不当にアドバンテージを得たと判断され、5秒のタイムペナルティが科された。
この裁定を巡っては、レッドブルとマクラーレンの両陣営の意見が真っ向から対立。レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表とヘルムート・マルコが「他に行き場がなかった」と主張する一方、マクラーレンのアンドレア・ステラ代表は「議論の余地はない」と断じている。
また、ペナルティを回避するために、レッドブルはフェルスタッペンに対しポジションを返上させるべきだったとの指摘も挙がっており、ペナルティ裁定そのものだけでなく、それに至るまでのチームの対応を巡っても議論が巻き起こっている。
過去の教訓を生かせたか? ウィートリーの指摘
ウィートリーは今回の一件について、過去の事例を「教訓」として異なる対応をすべきだったと考えている。「状況は逆だが、昨年のテキサスのターン12で起きたことを思い出させる。あのときに学ぶべきことがあったと思う」と指摘した。
ウィートリーが言及したのは、2024年10月に開催されたアメリカGPにおけるランド・ノリス(マクラーレン)のケースだ。レース終盤、ノリスはターン12で仕掛けた際にコース外に出てしまい、その状態でフェルスタッペンをオーバーテイク。そのまま3位でフィニッシュしたが、5秒ペナルティを受け、フェルスタッペンが代わりに3位表彰台に上がった。
ウィートリーは、他チームのことに口を出すつもりはないと前置きしつつも、「私の考えは明確だ。私なら違う判断をしていただろうし、違うやり方をチームに提案していたと思う」と語り、レッドブルが今回取った判断に一石を投じた。
Courtesy Of Sauber Motorsport AG
ガレージ内を見守るザウバー(アウディ)のジョナサン・ウィートリー新チーム代表、2025年F1バーレーンGP
万能のガイドラインは存在しない
スチュワードは今回の裁定にあたり、根拠として非公開の「ドライビング標準ガイドライン」を引用した。ウィートリーは、この一律的な判断基準を評価しつつも、すべてのインシデントには固有の状況と背景があり、万能なガイドラインは存在しないと指摘する。
「全く同じようなインシデントというのは、私のこれまでの経験の中でも見たことがない。オーバーテイクというのは、それほど一つひとつの状況が異なり、非常に複雑だ」とウィートリーは語る。
「タイヤのコンパウンド、相手に勢いがあるかどうか、DRSを使っているかどうか——そうしたこと全部を考慮しなければならない」
「こうしたさまざまな条件が絡み合い、さらにドライバー同士の駆け引きもある中で、最終的にはどこでブレーキを踏むかという判断をしなければならない」
「これまでに一緒に仕事をしてきたドライバーと、『あの場面でもう2センチだけスペースを空けていれば、スチュワードも、もう少しハッキリ判断できたかもしれない』と話したこともある」