更迭ビノット、アウディF1と移籍交渉か…フェラーリ会長とは「水と油」の関係だった?
2022年末を以てスクーデリア・フェラーリを去るマッティア・ビノットはガーデニング休暇後を見据えて既に、ザウバーとのコラボレーションの下、2026年にF1参戦を果たすアウディとの交渉に臨んでいるようだ。
チーム代表としての手腕はさておき、ビノットが非常に優秀なエンジニアであることは疑いなく、更にはトップチームを率いたという実績すらあるだけに、次のキャリアに困る姿を想像するのは中々に難しい。
マラネッロ事情に詳しいジャーナリスト、レオ・トゥリーニは伊「カルチョメルカート」とのインタビューの中で、ビノットは既にアウディと話し合っていると伝えた。
アウディはドイツを本拠とする高級車メーカーだが、ビノットの出身国であるイタリア気質な要素を持っている。
”アウディ”という名前は古代ローマ帝国の公用語、ラテン語の「聞く」に由来するものである事はよく知られており、同社のフルタイム4WDにはクワトロ(Quattro)、すなわちイタリア語での数字の「4」の名称が与えられている。
イタリア繋がりで言えば、ステファノ・ドメニカリCEO率いるF1のモータースポーツ担当マネージング・ディレクターという線もありそうだ。現職のロス・ブラウンは今年一杯で辞職する。
アウディとの交渉の行方は分からないが、少なくともレッドブル、メルセデス、アルピーヌも同様にビノットの獲得に興味を持っていることだろう。跳馬F1パワーユニットはE10燃料時代に突入した今年、最もパワフルだったと一部で見積もられている。
ビノットの主戦場はエンジンだ。1995年にテストエンジン・エンジニアとしてフェラーリに入社すると2004年にレースエンジン・エンジニアに昇格し、ミハエル・シューマッハ栄光の時代を影で支えた。
2009年にはエンジン及びKERS部門を率いる立場となり、2013年以降は1.6リッターV6ハイブリッド・ターボの開発を主導。その後、メルセデスへ移籍したジェームズ・アリソンの後任として最高技術責任者を務めた。まさに筋金入りのエンジニアだ。
トゥリーニはまた、故セルジオ・マルキオンネ体制下で頭角を現したビノットとフェラーリ会長ジョン・エルカーンが「水と油」のような関係だったことは周知の事実だとも伝えた。
戦略ミスや信頼性不足によってメディアやファンからの非難に晒されてもエルカーンやベネデット・ヴィーニャCEOが公にビノットを擁護したことは一度もなかった。トゥリーニは「真の意味でのサポートはなかった。オーナーはトップマネジャーを信じていなかった」と指摘した。
ビノットとは異なりフェラーリの職探し、後任のチーム代表探しは困難を極めるだろう。フェラーリは1年に渡る後任探しが実を結ばない状況でビノットからの辞表を受理した。
チャンピオンシップ2位を獲得してなお、辞任を余儀なくされるような環境に身を置くことを良しとし、世界で最も厳しい目を持つイタリアメディアやティフォシからの執拗な非難に晒される覚悟があり、とっかえひっかえでトップが入れ替わるF1の伝説的チームを率いたいと願う有能な人材は現れるだろうか。
最有力候補とみなされているアルファタウリ(ザウバー)のフレデリック・バスールについてトゥリーニは「彼は伝説的なジャン・トッドと同じフランス人だが、共通しているのはパスポートだけだ」と否定的な見方を示し、「誰がマラネロで彼の後を継ぐことになるかは分からない」と付け加えた。