考察:F1予算超過疑惑のレッドブル、コストキャップ裁定委員会での審理を選ぶ可能性
ドライバーズ世界選手権を制した2021年度の予算上限ルールに違反したとのFIAからの指摘を受け、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは依然として無実潔白であると主張した。
FIAはF1日本GP決勝の翌10月10日(月)、レッドブルが手続き違反に加えて「マイナー・オーバースペンド・ブリーチ(軽度予算違反)」を犯していたと公表した。アストンマーチンは手続き違反のみであった。
潔白を強調するヘルムート・マルコ
これを受けてレッドブルは声明を発表し、調査結果に対する「驚きと失望」を表明するとともに、チーム代表のクリスチャン・ホーナーが主張してきたように「コスト上限を下回っているとの我々の考えに変わりはない」と改めて強調した。
レッドブルはFIAからの指摘を受け入れるのだろうか? それとも審理の場で徹底的に争うのだろうか? 指摘を受け入れ違反是認(ABA)を締結する事のメリットは大きいが、ヘルムート・マルコはあくまでも自分達に違反の認識はないと主張する。
ヘルムート・マルコは「F1-Insider」とのインタビューの中でFIA公表後、初めて口を開き、あまり多くは語りたくないとした上で「これだけは言いたいのだが、我々はコストキャップ規定に全く違反していないという意見を持っている」と語った。
「FIAとの話し合いはまだ続いている。最終的にどうなるか見てみよう」
フェルスタッペンが初王座を失う可能性
FIAが違反を指摘する一方、レッドブルが無実を主張する背景には、昨年導入されたばかりの財務規定に対して両者が異なる解釈を持っている可能性が高く、その一つとしてスタッフに対する傷病手当金の取り扱いが噂されている。
FIAとの間でABAを締結すれば選手権ポイントの減点の可能性を除外できるという点で、レッドブルにはマックス・フェルスタッペンの昨季の初タイトルを確定させるオプションがある。
ただ、仮にそうせずにコストキャップ裁定委員会での審理を選んで敗訴したとしても、タイトルが失われるような事態に発展する可能性は比較的低いものと思われる。理由は過去の事例だ。
予算上限ルールに関する判例は当然、存在しないものの、レギュレーション違反によって過去にチャンピオンシップの結果が遡及的に変更された例は殆どない。
故ニキ・ラウダをしてF1史上最悪の事件と言わしめた2008年のクラッシュ・ゲートでさえ、リザルトは変更されなかった。
また、密室取引によって闇に葬られたため「違法」と言い切る事はできないものの、2019年にフェラーリがエンジン燃料流量で不正を働いた時でさえ、ポイントが減点される事はなかった。
実際の超過額にも依るだろうが、「重度予算違反」であればまだしも「軽度予算違反」で歴史修正に至るような類のペナルティが科されるとは少々考えにくい。
ましてや予算上限はドライバー側の責任領域にない。こうした状況に対してFIAは過去に一貫して慎重な立場を貫いてきた。
レッドブルが審理を選ぶに足る理由
レッドブルはFIAの見解に対して公に反論しており、また、ABA締結のインセンティブもさほど高くないと推測されるため、審理を以て是非を問う可能性は十分にあるが、理由はそれだけではない。
2021年シーズン中に何があったにせよ、ルール解釈を巡って発生した問題だと仮定すればレッドブルが2022年シーズンも同じ会計処理を採っている可能性は極めて高い。
つまりこのままでは、来年に公表が予定される今シーズンを対象とした監査報告でも同様の事態に発展する可能性があるという事だ。レッドブルには白黒はっきりさせておかなければならない理由がある。
ただ、審理が長引くと予想されれば断念する可能性もある。
会計期間終了間際、あるいは年を越えて敗訴となっても対応することはできない。であれば早々に違反を認め、12月末までの残り2ヶ月半で今季の帳簿を整理する方が利口だ。