交錯した「ミリ秒単位」の思惑…一撃で交わしたフェルスタッペン、グリップを見誤ったルクレール
レースを通して一進一退の攻防を繰り広げてきた過去数戦と比較すれば、F1マイアミGPの逆転劇は意外と呆気ない展開に終わったようにも見える。だがその背後には、過去の膨大な経験を元にして筋の通った決断を瞬間的に下し、そして実行に移すトップドライバーの姿があった。
それは57周のレースの9周目のホームストレートで起きた。マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は最終コーナーで背後につくと、DRSを使ってシャルル・ルクレール(フェラーリ)をあっさりと交わした。
オフラインにあたるイン側を獲ったフェルスタッペンの方が早めにブレーキを掛けた。対してルクレールは減速を遅らせてポジションを奪還しようと試みたものの、主導権を取り戻す事はできず、フェルスタッペンがターン1を制して首位に浮上した。
敢えてラインを変えなかったルクレール
ラインを変えるなどして、もっと激しくディフェンスするというオプションはなかったのだろうか?
レースを終えたルクレールは「トップを争っている時はいつだってその価値がある」と述べ、そういった選択肢があった事を認めつつも、あの瞬間は下手にクルマを振らない方がポジションを守れると考えたのだと明かした。
そして、今週末のプラクティスを通して得た感触から、グリップが高いレーシングライン上に留まる方が賢明と判断したのだと説明した。
「FP1、FP2、そしてFP3での経験から、あの場所のイン側のグリップは最悪だって事が分かっていたから、マックスがあれほどのグリップを得るとは思ってもみなかったんだ」
「でも実際のところ、今日のレースでは遥かに路面状況が良かったように思う。だから今回に限った事じゃないけど、振り返って見れば、もっと上手くやれたとも思うけど、あの時点ではレーシングラインに留まってブレーキングポイントを最適化することが正しいと判断したんだ」
「それで実際そうしてみたんだけど、上手くはいかなかった」
これに対してフェルスタッペンは、高速走行中のレースにおいては「ミリ秒単位での判断」が要求されるとした上で、今回は自身がその点において成功したものの、場合によってはルクレールの判断が正しい時もあるとして「単にその瞬間の判断の結果に過ぎない」と指摘し、カート時代からのライバルを擁護した。
エンジン問題とデグラデーション
なお同じRB18を駆るチームメイトのセルジオ・ペレスは、エンジンセンサーに問題が発生して2周近くに渡って30馬力を失う状況に直面したが、1号車の方はトラブルフリーだった。
「幸運にも僕の方は何の問題もなかったよ。全てがスムーズに機能していたし、本当にポジティブだった」とフェルスタッペンは説明した。
開幕3戦はレッドブルよりフェラーリの方がタイヤに優しい印象があったが、キールへのウイングレットの追加を含む空力アップグレードが導入された前戦エミリア・ロマーニャGPではその傾向に変化が見られた。
そして興味深いことにマイアミでも同じ様に、フェラーリの方が柔らかいコンパウンドでフロント側のデグラデーションに苦しむ事になった。
ルクレールは、ハードタイヤに関しては「力強かったと思う」としながらも、ミディアムに関しては「5周か6周でフロントに苦戦し始めてしまい、徐々にリードを失い、タイムを落としていくことになった。次のレースに向けて、この点をしっかりと検討していなかなきゃならない」と振り返った。
狩る側か、狩られる側か
優勝に加えてファステストラップを記録した事で、フェルスタッペンは満額26ポイントを手に次戦スペインGPに挑む事になる。ドライバーズ・チャンピオンシップをリードするルクレールとの差は27ポイントから19ポイントにまで縮まった。
昨年のフェルスタッペンはシーズン終盤に向けてルイス・ハミルトン(メルセデス)から追われる立場であったが、今季はこれまでのところ”狩る側”のポジションにいる。
「クルマが速い事が分かっているから、僕はこの立場の方が良いな」とフェルスタッペン。
「昨年末は追われる側だったわけだけど、あれは良いものじゃなかった。(メルセデスに対して)ペース面で劣っている事が分かっていたからね」
「だから(狩る側と狩られる側のどちらが良いかについては)、自分にどれだけの競争力があるのかって事に少しは依るんだ」
この日のレースは気温が一時、32℃近くにまで達するなど、身体的にも厳しい戦いとなった。フェルスタッペンは「3kgくらい体重が減ったんじゃないかな!」と付け加えた。