優勢なのは本当にメルセデス? 新生ヤス・マリーナでの最終決戦初日解説、レッドブル・ホンダの戴冠如何に
F1史上最も僅差の戦いが繰り広げられている2021年シーズンのF1世界選手権最終アブダビGPの初日は、レッドブル・ホンダとメルセデス、そして同一ポイントで並ぶマックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンが、これまでの流れ通り一進一退の攻防を繰り広げる展開となった。
FP1ではフェルスタッペンが2020年のポールラップタイムを10秒以上も更新するファステストを刻んだが、予選・決勝と似通ったコンディションが予想される日没後のFP2では、ルイス・ハミルトンがライバルにコンマ6秒差をつけてタイムシートのトップに立った。
2つのシケインが取り除かれラップ終盤の低速コーナーの半径が拡大された事で、事前の予測どおりに新生ヤス・マリーナ・サーキットは平均速度を増した。理論上はメルセデスがアドバンテージを得たとの見方が大勢を占める。
レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表は改修された新たなコースレイアウトについて「まるでメルセデスの嫌いなコーナーを全て取り除いたかのようだ」と冗談を飛ばした。
だが、シングルラップでハミルトンに大きく水を開けられたフェルスタッペンは、ソフトタイヤで印象的なロングランペースを刻んだ。ミディアムで周回を重ねたメルセデス勢との差は約0.7秒。コンパウンドの違いを踏まえても大きい。
1発の速さを見せつけたメルセデスと、レースを見据えて燃料を積んだ状態で好ペースを刻んだレッドブル・ホンダという構図を描く事はできるが、そもそもFP2のタイムシートが両チーム間の序列を正確に表しているのかどうかは疑わしい。仮にエステバン・オコン(アルピーヌ)が2番手ではなく、トップ2チームの後方につけたのであれば話は別なのだが。
一つ言えるのは、コンディションによって両陣営の強みが逆転したと言う事だ。
路面温度が低下した状況でメルセデスは、ロングランよりショートランで高い競争力を誇った。そしてレッドブル・ホンダは日没と共に1ラップペースでスイートスポットを外れていったように見える。
両チームともに課題は1ラップペースとロングランペースの適切なバランスを取る事にある。
メルセデスのエンジニアリング・ディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは、ショートランが「上手くいった」と認める一方「ロングランはあまり良くなかった」と説明した。
そして予選が行われる2日目に向けて「軽い燃料と重い燃料での走行の間で正しいバランス」を見出す事が重要だと語った。
クリスチャン・ホーナーは「彼ら(メルセデス)は、ここでかなり競争力があるように見える。第3セクターでは取り戻しているものの、最初の2つセクターでは遅れを取っている。まだ予選まで24時間か23時間あるから、更に良いセットアップを見つけてもう少しペースを上げたい」とセッションを振り返った。
「データはたくさんあるし、一晩かけてクルマの幾つかのエリアを整理する必要がある。ここにいるメンバーにとってもミルトン・キーンズの皆にとっても長い夜になりそうだ。ロングランペースは悪くないから、あとはショートランのペースを整えるだけだ」
レッドブル・ホンダはこの日、2台でセットアップを分けてデータ収集に取り組んだ。フェルスタッペンはセルジオ・ペレスよりダウンフォース量が多いリアウイングを付け周回を重ねた。
フェルスタッペンは初日の状況を「ポジティブ」と評したが、同時に若干のペース不足を認めた。ペレスは2日目に向けてクルマを改善させるためには、異なるセットアップを走らせた2台の走行データを分析して「適切なパーツを選択」する事が必要だと語った。
一方のメルセデス勢もクルマの仕上がりは完璧ではない。ショブリンは「2人ともがクルマに満足できていない」と認める。
なおボッタスはFP2の序盤に、右リアをターン14の壁に接触させる場面があったが、レーシングラインを外れて路面のグリップを失ったために、直前のターン13の縁石でワイドに膨らんだだけだと説明し「アレは良いドリフトだった」と冗談を飛ばした。
また、クルマについてはFP2に向けて大きくセットアップを変更した事で「若干前進」したと言うが、それでも完璧なラップをまとめる事は一度も出来なかったとして、まだまだ改善の余地があると訴えた。
ハミルトンもまた、新生ヤス・マリーナでのW12の感触は「さほど悪くはない」と明かし、完全に満足できていない様子をうかがわせると共に、ライバルチームとの相対的なペース差は「まだ未知数」としながらも、レースが「超接戦」になる事は間違いないとの考えを示した。
全ては現場チームが寝床についている間に、英国にある各陣営のファクトリーで如何に適切なセットアップを見いだせるかという点に懸かっているように思われる。
なお今回のレイアウト調整はオーバーテイクの促進を狙ったものだが、ドライバー達は実際の走行を経て、改修設計を担当した「Driven International」と「Mrk1 Consulting」の狙いが上手くいっているとは思えないと考えている。
オーバーテイクの感触についてハミルトンは「以前よりも前走車についていけるようになった」とする一方、依然としてレースで追い抜くのは容易ではないとの見方を示し、ペレスは「レースという点で本当に改善されたのかどうかについて、僕としてはまだ疑問を感じている」と漏らした。
夜通しの仕事でライバルに先行するのはどちらなのか? F1アブダビGP3回目のフリー走行は日本時間12月11日(土)19時から、公式予選は同22時から1時間に渡ってヤス・マリーナ・サーキットで開催される。