アクティブ・サスペンション
アクティブ・サスペンションとは、電子制御によってサスペンションの特性を動的に変化させるシステムのこと。各種センサーからの情報に応じて電子的にサスペンションの硬度を変更する。アクティブサスとも呼ばれ、マシンの車高を安定させる効果がある。
コーナーを速く走行するためにはダウンフォースが必要不可欠だが、マシン車高の安定化はこれに寄与するとされる。アクティブ・サスペンションはダウンフォースを増加させるために生まれてきたテクノロジーである。
初登場は1983年、ロータス92
1983年にロータス92に実戦投入されたのが始まりとされている。開発に多額のコストが掛かるためチーム間格差が広がりすぎてしまい、1993年を最後にレギュレーションにより禁止された。しかしながら、規制の網をかいくぐる形で後にFRICサスペンションが誕生する。
従来のサスペンション(電子制御ではなくメカニカルな制御)は、路面等の外部からの振動をスプリングとダンパーと呼ばれるもので受動的に抑制していたのに対して、アクティブ・サスペンションは、これを能動的・自発的に制御する。マシンに取り付けられたセンサー等から検知した信号によって、アクチュエータの油圧を調整し車高を変化させるのだ。
アクティブサスとグランド・エフェクトカー
アクティブサスペンションはなぜ生まれたのか?それはレギュレーションによる「グランドエフェクトカーの禁止」(フラットボトム規定)に由来する。
80年代のF1マシンは、地面とマシン下部との間を流れる空気をコントロールすることでダウンフォースを発生させる「グランド・エフェクト」を追い求めたデザインであった。しかし安全性の問題から規定により禁止され、その代替策としてアクティブサスペンションが誕生した。
というのも、グランドエフェクトカーはその性質上、地面とマシン下部との距離=マシンの車高を常に一定にする必要があり、サスペンションが動かないように極限まで固くしてあったためドライバーへの体力的要求が厳しく、安全面で問題があったため。また、デブリや縁石に乗り上げるなど何らかの理由によってマシンと地面との距離が変化してしまうと一気にダウンフォースが失われてしまいマシンが横転するなど、危険極まりなかったために規定により禁止された。
レース中に変化し続ける車高を制御せよ
レース中、マシンの車高は常に変化し続ける。例えば、レーススタート直後とレース終盤とでは燃料量が変化するためマシン重量が大きく変化するし、加減速時、コーナーリング時のマシンにかかる重力によっても、車体下面と地面との距離が変わってしまう。空力的効果を最大化するためには車高を安定させることが必要不可欠であるのにもかかわらず、マシンの車高は常に変化する。(ミリ単位の違いが大きなパフォーマンスの差を産んでしまう)
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この解決策として一番手っ取り早いのは、サスペンションのセッティングをガッチガチに硬くすることであるが、本来サスペンションとは路面からの衝撃を吸収するためのクッションであり、本末顛倒甚だしいのは言うまでもない。そこで生まれたのがアクティブサスペンションであった。
ロータス方式とウィリアムズ方式
一口にアクティブサスペンションと言っても、各チームごとにそれぞれその仕組が若干異なる。そう、DRSのように。ここではロータスとウィリアムズが採用した仕組みを紹介する。
ロータス方式
PCが今の時代とは比べようもないくらい非力であった当時、ロータスはマシンに取り付けられたセンサーからのフィードバックに応じてコンピュータで車高を管理しようとした。なんとなくお分かりいただけると思うが、現代のスマートフォン性能にも遠く及ばない当時のコンピュータでは、時速300kmを超えるスピードで走行するF1マシンからのフィードバックにリアルタイムで応答することはどう考えても不可能である。
結果、1年ほどでこの方式での開発を断念。ただし、当時のシステム開発責任者曰く断念の理由は「タイヤ特性がアクティブサスペンションで制御するのに不向きだったから」だそうだ。
ウィリアムズ方式
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一方のウィリアムズが採用した方法が中々胸アツなのだが、サーキットの走行ライン上の凹凸や縁石をすべて事前に調査したうえで、予めこれに沿った形でプログラミングしておき、このプログラムを元にサスペンションを自動的に動かす、というものだった。今のようにGPSなんてものは使えなかったので、マシンの走行距離をもとにマッピングを行っていたようである。
ロータスのそれと比べてなんともアナログであるが、当時の技術をもってするとこちらのほうが現実的であり、それ故多くのチームはウィリアムズ方式を採用することになった。