握手を交わす山本部長とフランツ・トスト
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ホンダF1山本部長「マクラーレンは変化に適応できない会社」フランス料理に例えて新旧パートナーを語る

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本田技研工業株式会社の山本雅司モータースポーツ部長は、F1でパートナーシップを組んでいるマクラーレンは、組織立った強さを持つ一方で変化に適応できない会社、との認識を示した。また、新たにエンジン供給契約を結んだトロ・ロッソには柔軟性があり、同社とのシナジー効果が期待できるだろうとの展望を語った。

マクラーレンが発端となる形で、両者は10年とも言われる長期契約を今季限りで解消、2015年にF1に復活した”マクラーレン・ホンダ”は僅か3年足らずで消滅する。F1の中心地はマクラーレンの本拠地イギリスであり、決別報道の多くはマクラーレン寄りのものが目立っている。当のホンダ側は新旧のパートナーをどのように捉えているのだろうか?

「マクラーレンとともに仕事をする中で、私は彼らが非常に組織立った大きな企業であることを実感しました」と山本は自社メディアで語った。山本は、マクラーレンやトロ・ロッソとの交渉の最前線に立っていた人物だ。

「それが優れた強みであるのは間違いありませんが、それと同時に、彼らは遅々として変化に対応できていないように思われます」

市販車市場に象徴されるように、モータースポーツ最高峰のF1と言えども全世界的なエコ化の流れには抗えない。F1は2014年にガソリンを大量に使う従来の自然吸気エンジンを捨て、ハイブリッドターボエンジンを導入、この大変革によってチームの勢力図は一新された。

新世代のF1エンジンは熱と運動エネルギーの両方を再利用しエンジンパワーとする。近年のF1を圧倒的な強さで支配するメルセデスは、変化をいち早く察知し新時代エンジンの開発を進めていた。来季より手を組むトロ・ロッソについて、山本は以下のように説明する。

「トロ・ロッソは成長途上にある企業です。パートナーシップを結び同じゴールに向かって共に働く上で、これはホンダにとって極めて重要な事です。彼らとのつながりを深めていく事を心から楽しみにしています。ホンダも参入3年目でありパワーユニットサプライヤーとしては新参メーカーです。双方が、ともに成長していくことに強い情熱を抱いています」

フェルナンド・アロンソと談笑するロン・デニス
© HONDA フェルナンド・アロンソと談笑するロン・デニス

山本は、アライアンスを組む上でホンダが重要視する要素がマクラーレンには欠けていたと主張、その要素とは成長志向と外部環境に対する適応性だという。山本はシンガポールGPの記者会見で「国内のレースと比べて、チームとの関係を構築していくことが非常に難しい」と洩らしている。

マクラーレンは1963年に設立され、ロン・デニスによる独裁経営の元で大きく成長してきた企業である。だが、企業の哲学であり精神的支柱のデニスは派閥争いに破れ昨年16年に失脚した。歴史を紐解けば、独裁崩壊後の国家がどうなるのかは明白だ。山本は両チームを料理に例えて説明を掘り下げる。

「2つのチームを料理にたとえて比較してみましょう。マクラーレンが非常に洗練されたフランス料理だとすると、トロ・ロッソは地方料理に近い感じなのです。手作りのおいしいシチューには、新しい具材を付け加えることができますよね。我々がトロ・ロッソとの提携に興奮しているのはそういう事なのです」

マクラーレン・ホンダの不振の根本原因は、参戦一年目に採用した”サイズ・ゼロ”と呼ばれるマシン設計の方向性にあった。車体性能を最大限に引き出すべく、マクラーレンはコンパクトなエンジンを打診、ホンダはこれに応える形で他チームとは一線を画するエンジンレイアウトを採用した。だが、この方向性にはパフォーマンスを向上させていく上で致命的な欠点があったため、今年ホンダはゼロからエンジンを再設計した。

参戦から3年とは言え新開発のエンジンは未知数だらけの1年目、シーズン前テストの段階からパフォーマンスと信頼性不足に悩まされる結果となった。これを受けてマクラーレンはエンジンサプライヤーの変更を模索、事ある毎にホンダバッシングを続け今回の破談に至った。

トロ・ロッソが”手作りの美味しいシチュー”であるかは不透明であり、またホンダが”新しい具材”を有しているかも定かではないが、ホンダとトロ・ロッソとの関係性がマクラーレンのそれとは全くの別物となるのは間違いなさそうだ。格式張ったフランス料理を毎日食べ続けるのは、日本人にはいささか肌が合わないのかも知れない。