ホンダは何故、26年F1復帰に際して他でもないアストンマーチンをパートナーに選んだのか?
ホンダは電動化比率の引き上げを含む新たなエンジン規定が導入される2026年のF1復帰に向けて、アストンマーチンをパートナーに選んだ。他にも様々なチームと話し合いを重ねてきた中で、一体何が決め手となったのか?
ホンダは2022年11月に2026年以降のF1パワーユニット・サプライヤー登録を行った。その後、複数のチームとの協議を経て、今年4月にアストンマーチンとの間で基本合意に至り、第7戦モナコGPを週末に控えた5月24日(水)、「アストンマーチン・アラムコ・ホンダ」としての参戦を発表した。
このプロジェクトはアストンマーチンが車体の設計、開発、製造およびチーム運営を担当し、HRC(株式会社ホンダ・レーシング)が車体に最適化したパワーユニットの設計・開発・製造を担当する。
提携交渉の席に着いた中にはマクラーレンやウィリアムズ、ハイテックが含まれていたものと見られるが、ホンダが選んだのはアストンマーチンだった。
決め手について問われたHRC(株式会社ホンダ・レーシング)の渡辺康治社長は「勝利、チャンピオンに対する情熱が最も強く感じた」のがアストンマーチンだったと説明した。
また、英国シルバーストンに建設中の新ファクトリーを訪れ、人材を含む投資を目の当たりにして感銘を受けたとした上で、ホンダ製F1パワーユニットに対する「非常に高い評価」を受けたとも語った。
本田技研工業の三部敏宏社長は「真摯な姿勢と情熱」そして「絶対に勝つ」という強い思いに共感したと述べ、「アストンマーチンとホンダは考え方・方向性みたいなものが非常に近い」として「26年頭から勝てるようなポテンシャルで参入していきたい」と付け加えた。
逆にアストンマーチンがホンダを選んだ理由は分かりやすい。世界タイトル獲得というローレンス・ストロール会長の野心を満たすために必要な最後のピースがワークスエンジンである事は明らかだった。
メルセデスのカスタマーチームに甘んじている限り、車体設計面での妥協が必要となる。最終的には廃案となったものの、この制約から逃れるべくアストンマーチンは、レッドブルに続けとばかりに自社製エンジンの開発を真剣に検討していたとも伝えられている。
アストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズのグループCEOを務めるマーティン・ウィットマーシュはホンダを「世界的なモータースポーツ界の巨人」と称して「ワークスチームとして提携できる素晴らしい機会を得た」と語った。
「2026年のF1レギュレーションではシャシーとPUの完全な統合が求められている。それが実現可能なのは完全なワークスチームのみだ」
「このパートナーシップによって我々はチャンピオンシップを争うことができるようになる」
英国シルバーストンに建設中の新たなファクトリーは今月中にも稼動する見通しで、最新鋭の風洞施設は2024年の稼動を予定している。つまりホンダとの新たな挑戦が始まる2026年に向けて、アストンマーチンは王座争いに必要な車体開発に求められる全てのインフラを整える事になる。
少し気掛かりなのはホンダ側のインフラとリソースだ。
三部敏宏社長は、要素技術研究は撤退後も継続していたとして、2015年の復帰とは状況が異なる事を強調したが、ホンダはF1プロジェクトの終了に伴い英国ミルトンキーンズの拠点を閉鎖。そこでERSやES(バッテリー)の開発に携わっていたスタッフの殆どはレッドブル・パワートレインズに転籍した。また、日本でPU開発に携わっていたエンジニアの多くも他の部署に再配属されたものと見られる。
2026年までは既に3年を切っている。ホンダはこれより人材を呼び戻し、また採用活動を進めなければならないが、アウディの新規F1参戦に伴い人材獲得競争は激化している。
ヨーロッパ拠点の再構築も必要だろう。ES(バッテリー)には可燃性が高いリチウムイオン電池が使われており、国際輸送に関して国連勧告輸送試験UN38.3に合格する事が求められるなど制約が厳しいため、ホンダはイギリスに別途、開発拠点を設けていた。