トロロッソ・ホンダのマシンとメンバーcopyright Honda

新生トロロッソ・ホンダは速さを示せるのか?新体制・冬季テスト・パワーユニット開発を総括する

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トロロッソ・ホンダは今年どこまでやれるのか? パワーユニットの信頼性の問題は本当に解決したのか? 上位入賞は可能なのか、表彰台に上がれるのか、速さを示せるのか? …シーズン前テストを終え、18年シーズン開幕オーストラリアGPを直前に控えた今、体制とパートナーシップを一新して新たなシーズンに挑むホンダF1の動向に注目が集まっている。

「80点」チーム別総周回数3位で締め括った合同テスト

トロロッソ・ホンダSTR13、カタロニア・サーキットにて
© Getty Images / Red Bull Content Pool

「テスト全般を通しての評価は、80点です。まだやれることがある、という思いがあり20点減点しました」と田辺。ホンダはバルセロナテストで計画していたプログラムの殆ど全てを消化し、有益なデータを大量に収集した。

合同テストは今年も例年通り、スペインはカタロニア・サーキットで4日間 × 2回の計8日間に渡って開催された。トロロッソ・ホンダのテストは順調に進み、トータル822周を走破。メルセデス、フェラーリに次いで3番目に多くの距離を走り込んだ。

これまで3年間、数多くのパワーユニット故障に見舞われ十分な走行ができなかったことを考えれば、今回のテストはホンダF1第4期における過去最高の出来であったと言える。惜しむらくは、1回目テストのバルセロナの天候が悪く、走行時間が大幅に制限された事だろう。

ホンダは、1回目のテストには信頼性重視バージョンのPUで、2回目のテストにはより実戦的な仕様のPUで臨んだ。テストプログラムは、PUや車体のチェック、ロングラン、予選モードの確認、そして種類の増えた新しいピレリタイヤの確認など多岐に渡る。

去年までのパートナーであるマクラーレンが数々のトラブルに見舞われ走行時間を失う中、ホンダPUに大きなトラブルは発生せず、トロロッソ・ホンダは8日間を順調の内に終了した。励みになる結果を得た田辺は、開幕戦に向けて気持ちを新たにする。

「現場を預かる者としては、運営やオペーレーションの凡ミスでポジションを落としたりリタイアしたり、という事のないよう確実にやっていきたい。実際、蓋を開けないと分からない事は多いですが、やれるだけのことをやって開幕戦に100点で臨めるよう努力します。どのような結果が出るのか楽しみでもあり、緊張もしています」

“信頼”で結ばれた順風満帆な関係性

トロロッソ・ホンダのブレンドン・ハートレー
© Getty Images / Red Bull Content Pool

「信頼性の確保、多くの周回を稼ぐという点で目標を達成できました。ですが、トロ・ロッソとの共同作業がとても上手くいった事も大きな成果だと思います」と田辺。リザルトだけでなく、新たなパートナーとの関係性にも大いに満足していると強調する。

マクラーレンとの3年に渡る提携を終了し、ホンダは今年からイタリア、ファエンツァに本拠地を置くスクーデリア・トロロッソとコンビを組む。大所帯で多額のリソースを持つ英国のチームとは異なり、多国籍ながらも多くのイタリア人技術者を要するトロ・ロッソは規模のみならず文化も異なる。少数精鋭、小回りが効く。

「我々のパートナーシップは非常にオープンかつ率直なものであり、有意義なコミュニケーションが行われています。まだテストの段階ではありますが、理想的なスタートを切ることが出来ました。彼らと共にメルボルンでレースをするのが楽しみです」

「チーム結成が決まってから彼らと多くの事を話し合ってきましたし、チームとして効率を上げていくために毎日議論を重ねてきました。現時点では問題なく非常にうまく連携できていると感じています。トロロッソ・ホンダで働くスタッフは、全員情熱を胸に宿して戦っていますし、お互いをよく知ろうと努力しています」

思えばマクラーレンとの最終年は、目を覆いたくなるようなバッシングが”身内”から飛び出した。フェルナンド・アロンソは公然とホンダのエンジンを罵り、マクラーレン首脳陣は事ある毎に成績不振の原因を一方的にホンダになすりつけた。田辺は、トロロッソには傲慢な人間はいないと言う。

「彼らの中に”これがトロロッソのやり方だから”と言う人間はいません。我々は(トロロッソと連携する)現場でのオペレーションをどう作り上げていくかを、日々模索していかなければいけません」

トロ・ロッソ側もホンダとの関係を高く評価する。テクニカルディレクターを務めるジェームズ・キーは、テストは大成功と振り返り、結果を残すためにはホンダとトロロッソとの良好なコラボレーションが不可欠だと指摘する。

「パワーユニットに一切問題なくテストを終えられたのは最高の結果だし、冬季テストでこんな状況を経験したのはこれまで一度もない。ホンダの努力が実を結んだんだ。彼らとはとても上手くやれてるし、いい関係を作れている。その点でもテストは大成功だったよ」

「我々が目指しているのは、最高のパワーユニットでも最高のシャーシでもなく、最高のパッケージを作り上げる事なんだ。それはエンジンと車体のコンビネーションによって生まれるものだと思う」

自信と笑顔を見せるドライバー

ジェームス・キーとピエール・ガスリー
© Honda

ピエール・ガスリー、ブレンドン・ハートレーの両若手ドライバーも手応えを掴んでいる。「マシンは確実に進化している。自分でも少し驚くようなタイムが出せたし、開幕戦がとても楽しみだ」とガスリー。昨年日本のスーパーフォーミュラに参戦し選手権2位を獲得したフランスの若者は、テスト最終3日目に、マクラーレンやルノーといった直近のライバル勢を退ける1分18秒363を記録、3番手タイムをチームに献上した。

「勢力図は混迷を極めているように見えるけど、中団のバトルでは僕らは良いポジションにいるように見える。本当に凄まじい接戦だけどね」とハートレー。WEC世界耐久選手権王者のニュージーランド人は、シーズン前テストを終えて先の見通しが向上したと明かす。

「初期段階のブリーフィングでは、メルボルンでのレースが厳しいものになると予想していたんだ。でもテストを終えてそれは変わった。予想以上の出来だったからね。現時点では、オーストラリアGPで入賞争いができるのは間違いないと考えている」

メルボルンへのレースに向けてドライバー達から前向きな言葉が飛び交うが、初陣に臨む田辺に気の緩みはない。

「テストを終えて、基本的にここまでの結果にはとりあえず満足しています。ただ、次は開幕戦に向けた緊張感が襲ってくるでしょう。そのときこそ、真価が試されるはずです。テストは順調でしたが、あくまでテストに過ぎず、レース本番とは異なります。レースでの結果こそがすべてです」

トップ争いを目指し体制一新、二頭体制の確立

ホンダのブランド・コミュニケーション本部長を務める森山克英とフランツ・トスト代表
© Getty Images / Red Bull Content Pool

トロ・ロッソとの新シーズンを迎えるにあたり、ホンダは長谷川祐介総責任者を量産車向けの先進技術開発担当として異動させ、その後任としてHRD Sakuraでの研究開発責任者を浅木泰昭に、現場のトップを田辺豊治とする人事変更を行った。

何故過去3年にわたって継続してきた体制を変更したのだろうか? その理由について、ホンダの執行役員兼ブランド・コミュニケーション本部長を務める森山克英は、開発と現場の2つのエリアの責任者を分けることで、業務の効率化と迅速化が可能になる、と説明している。

ハードウェアへ影響が及ぶのはまだ先の事になるだろうが、ソフト面では早くも変化が見られている。2頭体制の成果について田辺は「サーキットオペレーションのより細かな部分まで見ることができている」と語り、より現場に集中できる環境が確立されたと述べている。

田辺は、キャリアの大部分をモータースポーツの一線で過ごし多くの成功を収めてきた。第一期マクラーレン・ホンダでは、ゲルハルト・ベルガーの担当エンジニアを務め、ホンダF1第3期にはジェンソン・バトンを担当した。だが時は過ぎ去り、田辺がかつて経験したF1は遠い過去の産物となった。だが、田辺自身はその事を認識し「自分はまだスタート地点にいる」と主張、奢りを見せない。

「F1の世界は、昔と変わっていない部分もありますが、エンジンからパワーユニットという新しいシステムに変更されたことで、多くの事が変わっています。私はまだスタート地点にいるようなものですが、まずは自分の現在地を確認することから始めました」

田辺起用の背景には、現場専任担当としての実績が高く評価された事が挙げられる。新体制にもってこいの人材というわけだ。山本雅史モータースポーツ部長は、田辺の強みを次のように評価する。

「田辺さんは第二期、第三期のF1、そして直近ではインディカープロジェクトと、レース現場での経験が非常に豊富です。その経験を活かし、リーダーとしてエンジニアたちの作業に入り込み、情報を収集しながら判断を下すタイプで、エンジニアたちやトロロッソのメンバーととても近い距離で仕事ができることが強みだと思います」

PU開発のリソースを最適化

hrdさくらの外観
©hondaracingf1.com

浅木がHRD Sakuraの責任者に就任した事で、エンジン開発に割くリソースの配分が変更された。これまで行われてきた開発内容は見直され、焦点を当てるべき部分が明確にされた。一部の開発については止める判断を下し、集中的に開発を進めたい部分に人材や投資を集める体制を築いた。ホンダのパワーユニットの開発製造は、栃木県さくら市に新設された「HRDさくら」が担当する。

二頭体制の弊害が出るとすればまさにこの部分だろう。開発と現場の密接なコミュニケーションとフィードバックなくして、この体制が機能することはない。田辺はこの点を次のように指摘する。

「パフォーマンスを向上させるためには、さくらのチームが緻密な開発をする必要があり、それには現場からの正確な情報伝達が不可欠だと考えています。開発陣へ情報を届けることで、さくら側はそれに素早く反応し、仕事に優先順位をつけて対応できます」

体制変更に賛否両論あるのは疑いなく、それは当のホンダ自身も認めるところだ。

「いい面も悪い面もあります」と田辺。「過去3年間のやり方を大きく変えるわけですから、慣例化していた事もあり時間はかかるかもしれません。でも、この新しい体制では何がベストなのかを突き詰めて議論する事ができています。我々はこれが最善の手法だと思っていますし、トロロッソ側もそう感じてくれていますから、このやり方がうまくいくと信じています」

2018年F1世界選手権開幕オーストラリアGPは、3月23日のフリー走行で幕を開ける。