レッドブル・リンクのターン1を通過するルイス・ハミルトン(フェラーリ)とニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)、フランコ・コラピント(アルピーヌ)、2025年6月27日(金) F1オーストリアGP(レッドブル・リンク)

レッドブル・リンク、なぜ突然「8m伸びた」?―改修なき全長変更に潜む”矛盾”と謎の連鎖

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2025年F1第11戦オーストリアGPを前に、レッドブル・リンクで奇妙な出来事が起きた。国際自動車連盟(FIA)が公式コース全長を4.318kmから4.326kmへと変更したのだ。わずか8mの差、それはF1マシン約2台分にすぎない。

だが、この“わずか”な変更が注目を集めるのには明確な理由がある。今大会に向けて、ピットレーンの再舗装やターン8の白線の引き直し、ターン9〜10にかけてのグラベル拡張といった細かな変更はあったものの、コースそのものの形状、つまりレイアウトには一切手が加えられていないからだ。

変わらないコース、変わる全長

レッドブル・リンクのレイアウトは、1996年のA1リンク完成以来、基本構造に変更はない。ヘルマン・ティルケによる再設計を経て、現在もその姿を保っている。

確かに2022年にはMotoGP向けにターン2へシケインが追加されたが、F1は従来通りのコースを使用しており、ドライバーたちが駆け抜ける走行ラインは変わっていない。

では一体なぜ全長が変わったのか?

サーキット側の説明と矛盾

レッドブル・リンクの説明は明快だった。「FIAによる新たな計測方法により、理想的なラインではなくセンターラインに基づいて測定されることになったため」だという。

だが、この説明には矛盾がある。センターラインでの計測は決して「新たな方法」ではないのだ。

この測定方法は、FIA国際競技規則付則Oに明記された公式なものであり、2010年代初頭には既に確立されていた。手元にある最も古い2011年版のFIA国際競技規則を確認してみたが、第83条には「5km以下の距離の場合、有資格の測量士によってコースのセンターラインに沿って測定されなければならない」と明記されている。

数字が物語る不可解な歴史

さらに興味深い事実がある。今回の「4.326km」という数値は、実は1996年のA1リンク完成当初の公式全長と同じなのだ。つまり、レッドブル・リンクは元の数値に”戻った”ことになる。

調べてみると、「4.318km」という数値が採用されていたのは、オーストリアGP復活の3年後にあたる2017年から昨年までの期間だった。この約7年間、サーキットの実測方法が規則に準拠していなかった可能性が浮上する。

見えない変化が生んだ新たな謎

では、「4.326km」から「4.318km」へと変更された2016年から2017年にかけては一体、何が起きたのか?

正確な理由は明らかではないが、この時期には目には見えない”大きな変化”があった。現在のレッドブル・リンクは10コーナーで構成されているが、2016年大会以前は9コーナーだったのだ。

と言っても、この変更はコースの改修によるものではない。MotoGPで使用されていたナンバリング体系をF1でも採用した結果だった。

ターン1から坂の頂上に位置するコーナーまでは基本的に直線だが、この間にある緩やかなカーブが新たに「ターン2」として認定された結果、全10コーナーへと変更されたのだ。

コーナー数の変更と全長の変更が同時期に行われたのは偶然なのか、それとも何らかの因果関係があるのか。ただ、「コーナーの数え方」がコース全長の修正につながるような合理的な理屈は思い浮かばなかった。

レッドブル・リンクのターン2付近からホームストレート側を見下ろすCourtesy Of Pirelli & C. S.p.A

レッドブル・リンクのターン2付近からホームストレート側を見下ろす

白線移動との関連性

2023年のオーストリアGPでは84件を超えるトラックリミット違反が発生し、その対策として2024年には一部の白線がアウト側に移動された。コース幅の拡張はセンターラインの位置に影響を与えるため、全長変更の一因となり得る。

だが、ここでも時系列的に疑問が残る。というのも、レッドブル・リンクが公式に全長を「4.326km」へと変更したのが「2024年夏」である一方、2024年のオーストリアGPは6月末に開催されているためだ。

仮に6月を「夏」に含めたとしても、白線の移動が全長変更の直接的な原因であるならば、少なくとも2024年大会の時点でその修正が反映されていなければ筋が通らない。その点で、依然として説明のつかない部分が残されている。

レッドブル・リンクの変更点を歩いて確認する角田裕毅(RBフォーミュラ1)、2024年6月27日F1オーストリアGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブル・リンクの変更点を歩いて確認する角田裕毅(RBフォーミュラ1)、2024年6月27日F1オーストリアGP

レースへの実質的影響は?

今回の変更により、2025年の決勝レース総距離は306.452kmから307.02kmに増加した。とはいえ、71周で争われることに変わりはなく、ドライバーやチームにとって戦略面での大きな影響はないだろう。

FIAは今回の変更について、いまだ詳細な説明を行っていない。8mという微細な差が生まれた真の理由が、測定方法の見直しによるものなのか、白線移動の影響なのか、それとも過去の測定ミスの修正なのか——あるいは全く別の理由なのか。その答えを追い求めた先にあったのは、矛盾とさらなる謎だった。

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