偶然か必然か…ニューウェイ離脱と同時期に始まったレッドブルF1の衰退、失われた鬼才のインプット
必然か、それとも単なる偶然か。過去2年に渡ってF1世界選手権で支配的な力を誇示してきたレッドブルの衰退は、最高技術責任者(CTO)のエイドリアン・ニューウェイがF1プロジェクトから離脱したタイミングと同時期に始まり、オランダとイタリアで事態は新たな局面を迎えた。
「支配的」から「運転不能」へ
今季最大ギャップの23秒差でランド・ノリス(マクラーレン)の前に敗れ去ったザントフォールトから1週間。マックス・フェルスタッペンは過去2大会で優勝を飾ったモンツァで今季最悪の予選7番手に留まった。
レースこそ1つポジションを上げたが、それでもモナコと並ぶ今季ワーストリザルトであることに変わりはなく、ジョージ・ラッセル(メルセデス)がフロントウイングにダメージを負っていなければスタートポジションの8位に終わっていた可能性が高い。
フェルスタッペンは、「あのクルマはドライブ不能だ。マシンバランスに深刻な問題があって、1ラップだけじゃなくレース全体に影響が出ている」とイタリアGPを振り返った。
「この6~8ヶ月の間に、支配的なクルマから運転不能なクルマに変わってしまった。本当に奇妙だ。クルマを根本的に見直す必要がある」
フェルスタッペンはまた、エンジンに問題が発生してフルパワーで走れなかったこと、そしてピットストップでのタイムロスをモンツァの敗因として挙げるともに、このままではコンストラクターズ選手権だけでなく、ドライバーズ選手権の制覇さえも「現実的」ではないと指摘した。
失われたニューウェイのインプット
フェルスタッペンは開幕5戦で4勝を挙げる最高のシーズンスタートを切ったものの、6月のスペインGP以来は優勝から遠ざかっており、今やパドックでは誰もが「マクラーレンが最速のクルマ」と口を揃える。
急激な競争力低下の要因の一つとして、「空力の鬼才」「史上最も偉大なF1デザイナー」と称されるニューウェイ離脱の影響を指摘する声もある。
最終的に2度の訴えは内部調査を経て却下されたが、プレシーズンに勃発したクリスチャン・ホーナー代表に関するセクハラ騒動を経てニューウェイは契約を早期終了し、19年間在籍したレッドブルを事実上、今シーズン限りで去る決断を下した。
ニューウェイがレッドブルの唯一の成功要因であるとは全く考えられないが、チームに多大な影響を与えてきたことは確かだ。例えばクリエイティビティが求められる現場など、ある種の限られた状況においては、100人の凡人は束になっても1人の天才に勝てない。
ただしホーナーとフェルスタッペンは、ニューウェイの関与終了と競争力低下の関連性を軽視している。
蘭GPblogによるとホーナーは「既に存在していたからこそ、こうした問題が発生したのだと思う。1人の人間のインプットがなくなった影響がこれほど急激に表れることはあり得ない」と語った。
「問題はマイアミGPで初めて明らかになり始めたが、エイドリアンはマイアミGPの金曜日まで関わっていた。影響がこれほど早く出るはずがない」
また、英The-Raceによるとフェルスタッペンは「僕は一貫してエイドリアンが残ってくれることを望んでいたけど、今はそういうことじゃない。昨年の僕らには史上最も支配的なクルマがあったけど、それを自分たちでモンスターに変えてしまった。だから、それを立て直さなきゃならない」と語った。
鬼才の「知識と経験」があれば、とマルコ
ホーナーによるとバランスの問題は、昨年10月のアメリカGPの時点でその兆候が確認されており、これがマイアミで一気に表面化した可能性があるという。
また、風洞との相関にも問題が確認されており、風洞実験の結果が必ずしもコース上での結果と一致しない状況にあるという。
RB20のバランスが失われた原因についてレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコは、アップグレードの失敗を挙げた。
一連のアップグレードはダウンフォースこそ向上させたが、フロントとリアのバランスを崩壊させ、その結果、ドライバーはコーナーを攻めることができなくなった。
独Sky Sportsによるとマルコは「マックスがクルマを限界までプッシュできないのは、あまりにも予測不能なクルマがそれを許さないからだ」と語った。
「問題の要因は多い。アップグレードを進める中で、どこかの時点でバランスが崩れ、その結果、クルマを速く走らせることができなくなった」
なおマルコは、ニューウェイの離脱が問題の根本原因だとは考えていないものの、一定程度の影響がある可能性は否定しなかった。
「ニューウェイはもはや全面的に関与していない。それが要因であるかどうかについては検討しなければならないが、我々には幅広い基盤がある。この状況において彼の経験と知識が役に立ったであろうことは間違いないがね」とマルコは語った。