タイヤ交換の練習に取り組むアストンマーチンF1のクルー、第6戦アゼルバイジャンGPにて
Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

F1タイヤ問題、不明瞭なピレリの説明…フランスGP導入の新ルールに見え隠れする内圧トリックへの懐疑

  • Published:

F1第6戦アゼルバイジャンGPで発生した2件のタイヤブローに関するピレリの調査報告は「もやもや」を晴らすどころか、かえって疑問を増幅させるような不十分・不明瞭なものだった。

漠然とした説明に「黒魔術」の声

原因についてピレリは声明の中で「明確に特定された」としているが、タイヤ自体に異常がなく、レッドブル・ホンダとアストンマーチン双方が規定値に沿ってタイヤを使っていたのであれば一体何が原因なのか? そういった不満を覚えたのはファンだけではない。

2009年のF1ワールドチャンピオンであり、Sky Sportsでコメンテーターを務めるジェンソン・バトンは「じゃあ問題の原因は何処にあったのか? アストンとレッドブルは与えられた限界値を守り、デブリによるタイヤ切断の可能性もなく、ピレリ側の欠陥や故障もなかったって? じゃあ黒魔術のせいって事なのかね」と皮肉めいたコメントを発した。

本国のラボでの調査を経て至った唯一の論理的帰結、つまり消去法によって残ったのは「走行状態(running conditions)」という事だった。これは実際にタイヤが稼働している状況下における負荷や荷重、たわみ、及びそれらの継続的変化を意味するものと思われるが、明確には説明されていない。

なおピレリは、アストン及びレッドブルは共に「規定のスタートパラメーター(最低圧力、最高ブランケット温度)を守っていた」としているが、レース中のタイヤの状態については言及していない。

現時点ではレース中・走行中の内圧を取り締まる方法がないため、それ以上何も語る事ができないという背景がある。ただバクーでの事故を受けて、国際自動車連盟(FIA)は第7戦フランスGP以降に新たな検査体制を敷く。

内圧に焦点をあてる新ガイドライン

先に述べたように「走行状態」に関する詳しい説明はなく、アストン及びレッドブルがグレーゾーンを掻い潜っていたとする証拠はないものの、FIAがポール・リカール・サーキットより新たに導入するガイドラインからは、この2チームがタイヤの内圧に関する何らかのトリックを使っていたと疑われている事が読み取れる。

これまではスタート時の内圧のみが監視されていたが、フランスGP以降はセッション後にも指定値との照らし合わせが行われる。これはプラクティス及び予選において無作為に選ばれたマシンに対して行われ、更に予選Q3進出車両に関しては全車、そしてレース終了後にも全てのマシンに対して実施されるという。

検査に際しては一旦タイヤを冷やしてブランケットによって80℃に温度を維持して圧力を再チェックする事になるようだ。この時の値が指定値と一致しない場合、スチュワードに報告が飛ぶ。

ピレリは事故の原因について明確に語る事を避けているように見えるが、ピレリが関与したFIAの新しいプロトコルは明らかにタイヤの内圧をターゲットとしている。

チームが低圧を追い求める理由

チームは基本的に、できる限り低い内圧でタイヤを使いたがる。圧力が低ければその分だけ路面との接地面積が増え、より多くのグリップを得る事ができるためだ。

内圧をコントロールするのに最も手っ取り早いのは温度を利用する方法だ。タイヤが加熱すると内部の気体が膨張して圧力が高まる。加熱させた状態で検査を受け走行前に冷やせば、内圧が下がった状態で走行をスタートさせる事ができる。

だがこの方法はタイヤブランケットの使用方法に関するルールが変更された事で、フランスGP以降は使う事ができない。走行を前に早々とブランケットを外すと違反と見なされるリスクが生じる。

レギュレーションではタイヤに充填できる気体を空気あるいは窒素と定めているが、含有水分量を工夫するなどすれば内圧に影響を与える事も可能と見られる。ただこの方法もフランスGP以降は監視が強化される。

一般に内圧を低くするとその分タイヤへの負担は大きくなる。走行中の荷重によってタイヤの変形量が増し、結果としてサイドウォール(タイヤの側面)やショルダー(サイドウォールと路面と接するトレッド面との境の部分)への負荷が増大するためだ。なおピレリは「走行状態に起因するインナーサイドウォールの円周方向の破断が原因だった」としている。

巧みにタイヤを操るアストンマーチン

今回、タイヤブローに見舞われたチームがアストンマーチンとレッドブル・ホンダという点も興味深い。

異様なほどのロングスティントを消化して幾度となく上位フィニッシュを成し遂げるなど、旧レーシングポイントがタイヤの使用に長けたチームである事はよく知られている。前年までこのチームに所属していたセルジオ・ペレスは今年、レッドブル・ホンダに移籍した。

同じローレーキ哲学を採用するメルセデスがモナコとアゼルバイジャンの両レースでタイヤのウォームアップに苦戦した一方、アストンマーチンはこれらのストリートサーキットで大いに力を奮った。バクーで2位表彰台に上がったセバスチャン・ベッテルは、第1スティントを長く走りながらもタイヤを良好に保ち、これをオーバーカットに繋げてみせた。

なお問題のバクーでマックス・フェルスタッペンと同じくタイヤの故障に見舞われたランス・ストロールは、昨年のトスカーナGPでも同じ様にタイヤブローに見舞われた。内圧低下が事故の引き金になったとされているが、なぜ発生したのかなど詳細は明らかにされていない。

F1アゼルバイジャンGP特集