スパ・フランコルシャンのピットレーンを歩くパフォーマンス・コーチを務めるマイケル・イタリアーノと角田裕毅(スクーデリア・アルファタウリ)、2023年7月30日(日) F1ベルギーGP決勝レース
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角田裕毅に怪我を負わせクビを覚悟した指南役のイタリアーノ、F1開幕直前の裏話を明かす

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パフォーマンス・コーチを務めるマイケル・イタリアーノは、2023年シーズンの開幕直前に誤って角田裕毅(アルファタウリ)に目の怪我を負わせてしまった事を明かし「仕事を失うかもしれないと思ったのは、この時が初めてだった」と回顧した。

ダニエル・リカルドが2022年末を以てF1を離れたため、今季より角田裕毅の指南役を務める事となったイタリアーノは、ジェイク・ボーイズとファビオ・ボッカが主催するピットストップのポッドキャストの中で、バーレーンGPのFP1に向けて、関節の可動性を高めるためのトレーニングに取り組んでいた際のエピソードを明かした。

フィジオのマイケル・イタリアーノと角田裕毅(スクーデリア・アルファタウリ)、2023年7月30日(日) F1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)Courtesy Of Red Bull Content Pool

フィジオのマイケル・イタリアーノと角田裕毅(スクーデリア・アルファタウリ)、2023年7月30日(日) F1ベルギーGP(スパ・フランコルシャン)

それは不慮の事故だった。ふざけて自身の足の”すね”に硬球のゴルフボールを投げてきた角田裕毅に対してイタリアーノが同じ様にゴルフボールを投げ返すと、不幸にもそれは角田裕毅の右目を直撃した。

「金曜日にメールをしたんだ。『よし、可動性セッションをしよう』って感じでね」とイタリアーノは振り返った。

「一緒に外に出てマットを敷いた。僕は基本的にゴルフボールを持ち歩いていてね。足の上を転がしてほぐすんだ」

「彼は足を、僕はフォームローラーで背中をほぐしていた。すると彼がゴルフボールを掴んで僕のすねに投げたんだ」

「もちろん痛かったよ。彼はクスクス笑っていたけどね。僕らはお互いによく冗談を言い合うんだ」

「その後、彼がフォームローラーを取って背中をほぐし始めたところで僕はゴルフボールを掴み、トゲトゲのボールを取りに行った。その時にゴルフボールを投げ返したんだ」

「何も見ずにただ投げ返したんだ。多分、彼のすねか何かに当たるだろうと思っていたら、彼が仰向けに転がっていてね。目に、右目に直撃したんだ。クリーンヒットだよ」

「彼は痛みで転がり目を抑えていた。僕はパニックになって氷を取りに走り、そして戻ってきて『これを顔に当ててくれ。本当にごめん』って謝った」

「正直に言うと、僕は怒られるのを待っていたんだけど、本当に痛かったみたいで、それどころじゃなかった」

「目が開けられず、1時間位だったかな。5分毎に氷で冷やし続けた。35分経った後、徐々に目が開いてきたんだけど、2時間後にコースに出なきゃならない状況で、ああ、これはまずい、と思った」

「人生でこんなに謝った事はなかったよ。30秒毎に謝り続けた」

パーソナルトレーナーのマイケル・イタリアーノとアルファタウリの角田裕毅、ニック・デ・フリース、2023年6月16日F1カナダGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

パーソナルトレーナーのマイケル・イタリアーノとアルファタウリの角田裕毅、ニック・デ・フリース、2023年6月16日F1カナダGP

残った片目を負傷する危険があったためイタリアーノは否定的だったが、角田裕毅からの提案で2人はアイシングを続けながら卓球に取り組み、視力に問題がないかどうかを確認した。

イタリアーノはその後、ホスピタリティに向かい、怪我の事を角田裕毅に尋ねないようにと言って回った。フリー走行に向けて角田裕毅が注意散漫となるのを防ぐためだった。

「僕はパドックに駆け込み、直接ホスピタリティに入って『彼の目については何も言わないでくれ、OK? もう解決したから』って皆に伝えた」

「そして医者のところに直行して『目薬が必要なんだ。これは僕がやってしまったことなんだ』と言うと、医者は『馬鹿か』みたいな感じだった」

「メカニックのところにも行って『ユーキの目のことは何も言わないで』と伝えた」

「僕らのレースルームに最初に入ってきたのはマーケティングチームで『なんてこった。その目はどうしたの?』と言われた。彼らには伝えていなかったんだ」

「そうしたらユーキは『僕になんてことしてくれたんだ』という感じにイライラしているように見えた」

「幸いにも大事に至ることはなかったけど、その後10日ほどは目の痛みが続いたため、目を離さないようにしなきゃならなかった」

「結局、僕は失業しなかった。その後のことは知っての通り、あの時はかなり良いレースができて11位でフィニッシュした」

「本当にありがたいことだよ。だってもし悪いレースをしたら、間違いなく僕は100%、責任を取ることになっただろうからね」

「それでも週末のレースの前にドライバーを怪我させてしまうなんて、不慮の事故とは言え理想的とは言えない」

「もっと悪い可能性だってあったわけで、投げたのが本当に無謀な行為だったって事は100%理解している」

予選Q2を終えて歩いてガレージに戻る角田裕毅(アルファタウリ)、2023年3月4日F1バーレーンGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

予選Q2を終えて歩いてガレージに戻る角田裕毅(アルファタウリ)、2023年3月4日F1バーレーンGP

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