パルクフェルメでエイドリアン・ニューウェイ(レッドブル・レーシング最高技術責任者)と話す優勝者マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、2022年7月31日(日) F1ハンガリーGP(ハンガロリンク)
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英Skyの「国粋主義的」F1報道がフェルスタッペンとベッテルの「極悪非道扱い」を招いたとニューウェイ

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レッドブルの最高技術責任者(CTO)を退任し、アストンマーチンに移籍することが発表されたエイドリアン・ニューウェイは、国際的にF1放送を手掛けるSky Sportsの英国中心主義的なスタンスが、マックス・フェルスタッペンとセバスチャン・ベッテルの「極悪非道扱い」につながったと語った。

アストンへの移籍が正式発表された2024年9月10日に公開されたポッドキャスト、ハイパフォーマンスの中でニューウェイは、Sky Sportsの中継報道は「かなり国粋主義的」であり、オランダとドイツが生んだ2人の偉大なF1ワールドチャンピオンに対する誤った評価を生み出しているとの考えを示した。

エイドリアン・ニューウェイ(レッドブル・レーシング最高技術責任者)を抱きしめるセバスチャン・ベッテル、2014年12月2日(火) レッドブル・レーシングファクトリー訪問時(ミルトンキーンズ、イングランド)Courtesy Of Red Bull Content Pool

エイドリアン・ニューウェイ(レッドブル・レーシング最高技術責任者)を抱きしめるセバスチャン・ベッテル、2014年12月2日(火) レッドブル・レーシングのファクトリー訪問

「マックスは自律した人間だと思う。本当に成熟しているし、カドも取れ、哲学的だが、傍から見ていると、人々はマックスを十分に理解していないように思える。それはセバスチャンにも言えることだ。彼らは時折、極悪非道扱いされて苦しんでいたが、それはかなり不公平だと思う」とニューウェイは語った。

「正直に言えば、それは英国メディアにも責任の一端があるかもしれない。Skyは世界中に大きな影響力を与えている。視聴者は本当に国際的だが、私に言わせれば報道はかなり国粋主義的だ。あえて言えば、それは影響を及ぼし得る」

Sky Sportsはイギリスの「Sky」が運営するスポーツ専門チャンネルで、ドイツとイタリアに系列会社があり、世界の広範な地域のF1放送をカバーしている。

イギリス出身のニューウェイが同国のメディアに批判的な見方を示したという点では異例だが、同様の見解は決して珍しいものではない。

FIA-F1世界選手権に関わる報道についてフェルスタッペンは今年7月、メディア関係者の8割以上がイギリス人であるとして、英国人ドライバー贔屓となる傾向があると指摘し、スペイン出身のフェルナンド・アロンソはこれまでに何度か、F1に関する報道がイギリスに偏ったものになりがちだと非難してきた

7つのチームはイギリスを拠点としており、ジャーナリストやテレビクルーの大部分も英国出身者が占める。

2022年にはレッドブルとSky Sportsとの間で取材を拒否するボイコット騒ぎが発生した。ピットレーン・レポーターを務めるテッド・クラヴィッツの敬意を欠く発言が問題視されたためだと考えられている。

チーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーによると、これは「一連の軽蔑的な発言」に対する措置で、フェルスタッペンは2021年のルイス・ハミルトンとのタイトル争い以降、「ある特定の人物」がアブダビでの逆転タイトルに関する件を「ずっと蒸し返し続け、見下し続けてきた」と批判した。

セバスチャン・ベッテル(レッドブル)にインタビューするSky Sportsのピットレーン・レポーター、テッド・クラビッツ、2012年10月25日F1インドGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

セバスチャン・ベッテル(レッドブル)にインタビューするSky Sportsのピットレーン・レポーター、テッド・クラビッツ、2012年10月25日F1インドGP

3度のF1ワールドチャンピオンに輝いたフェルスタッペンを誤解している人々に対して何を伝えたいか?と問われたニューウェイは、2025年からアストンで共に働くことになるアロンソを引き合いに出して次のように語った。

「本当に賢い。信じられないほどの能力を持っているし…まるでクルマを自動運転しているかのように感じられる」

「もちろん実際にはそうではなく、クルマをどうドライブすべきか、タイヤを如何にマネジメントする必要があるか、セッティング面で何が必要か、そして確信が持てない場合は無線でGP(レースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼ)に何をすべきか尋ねるなど、多くのことを考えながらも、処理能力を残してクルマをドライブしている」

「レースを読むという彼の能力は今でも私を魅了している。フェルナンドもその一人だ。目の前に全ての情報が揃っていないにもかかわらず、彼らはレースを読むことができるように見える。どうやってそんなことをしているのか私には分からない」

7度の王者ミハエル・シューマッハと自身との違いについてデビッド・クルサードはかつて、彼が「予備能力」と呼ぶものにあると指摘した。殆どのドライバーはF1マシンで全力疾走すると、全ての処理能力をこれに費やしてしまうが、シューマッハはそうではなかったという。

こうした余裕を持つのは「トップの中のトップだけだ」とニューウェイは認めて次のように続けた。

「彼らには膨大な余裕がある。精神的な余裕があるんだ。フェアではないからドライバーの名前は挙げないが、F1レースを少しでもかじってレースを見ていれば、余裕のないドライバーはすぐに分かる」

「そういうドライバーは、典型的に事故やトラブルに巻き込まれることが多い。なぜなら、彼らにはもう何も残っていないからだ。彼らはクルマをドライブし、予選ラップをこなすことはできるが、そんなドライバーがチャンピオンシップを勝ち取ったら私は大いに驚くだろうね」

2021年7月18日F1イギリスGP決勝でのルイス・ハミルトンのクラッシュにより大破したマックス・フェルスタッペンのレッドブル・ホンダRB16Bcopyright FORMULA 1

2021年7月18日F1イギリスGP決勝でのルイス・ハミルトンのクラッシュにより大破したマックス・フェルスタッペンのレッドブル・ホンダRB16B

そんな「膨大な余裕」を持つフェルスタッペンでさえ、精神的に参っている時期があったかもしれないとニューウェイは明かす。ニューウェイによると、ハミルトンとの高速クラッシュにより病院に搬送されたイギリスGP以降、フェルスタッペンは少なからず追い詰められていたという。

「少しはあったかもしれない。タイトル争いの真っ只中にいた2021年、特にシルバーストン以降、ルイスとマックスとの間の緊張感が激しさを増した。マックスはシルバーストンでのアクシデントについて、非常に強い感情を抱いていたと思う」とニューウェイは語る。

「彼はチャンピオンシップリーダーとしてシルバーストンに臨んだが、レースではリタイヤを余儀なくされ、故意ではなかったものの、ハンガリーではバルテリ(ボッタス)に接触され、ほぼリタイヤ同然となり、ほとんどポイントを獲得できなかった。余裕のチャンピオンシップ首位から一転、少しプレッシャーがかかるようになった」

「メルセデスはシーズン終盤に向けて、クルマからかなりのペースを見つけ出すことに成功した。 いつだって追われる側より追う立場の方が楽だ。これによってマックスは少し、プレッシャーを感じ始めていた」

「実際、ブラジルでのドライビング(ハミルトンをコース外に追い出した)でペナルティを受けなかったのは運が良かったと思う。アブダビ? いやサウジアラビアだ。あの時は、もう少しばかり激しい小競り合いがあった。あれはどちらが悪いとはハッキリしないものだったと私は思うが、少なくともブラジルに関して言えば、マックスはおそらく少し冷静さを欠いていたと思う」

シルバーストンでの事故についてニューウェイは当時、「ルイスに対して激怒していた。なぜなら、プロフェッショナル・ファールを犯したと感じていたからだ」と認めたが、今ではハミルトンが単なる「判断ミス」を犯し、フェルスタッペンが「少し厳しかった」が故に起きた事故であるとして、見解を変えたと明かした。