モタスポ用低価格帯シートのFIA規格「8855-2021」が登場、22年ぶりの改定で強度大幅改善の一方お手頃価格
安全性向上に向けた取り組みに終わりはない。国際自動車連盟(FIA)は英国のD2Hアドバンスト・テクノロジーズ社と協力し、クーズド・コックピット・カーに使用されるシート規格の最新版を作り上げた。
旧来のFIAシート規格である「8855-1999」の発表から22年を経て改良が加えられた最新型「8855-2021」は、安価でありつつも、世界ラリー選手権(WRC)等で使用されているFIA規格「8862-2009」に強度と安全性の両面で迫る性能を持ち合わせる事となった。
モータースポーツ愛好家の中で最も広範に使用されている低価格帯の「8855」とトップレベルの「8862」間の安全性格差解消のため、FIAはD2Hに白羽の矢を立てた。
同社はモータースポーツの頂点で長年に渡って経験を積んだエンジニア達によって2015年に設立された企業で空気力学や熱力学を専門としており、各国の自動車関連の専門家やメーカー、サプライヤーと取引を行っている。
FIAセーフティ・リサーチ・グループが主導する形で進められた今回のプロジェクトでは広範な材料分析が行われ、新たに開発された「8855-2021」のシートの強度は「8862」の60%に到達。従来の仕様と比較して桁違いの改善を果たし、42Gまでの事故で競技者を守るという。
D2Hのエンジニアリング・ディレクターを務めるマシュー・ヒックスは「既存の仕様を脇において広範囲に渡る材料および設計テストに取り組んだ事で、強度とコストの適切なバランスを見出すことができた。良好な試験結果のためには、繊維の積層構成を最適化することが重要だった」と説明した。
開発されたシートはFIA公認施設で試験が行われ、その性能が徹底的に検証された。
今回のプログラムでは高速でのクラッシュの際の負荷をシミュレートするために、ローディングアームを用いてシートシェルの各部に力を加える準静的試験が行われた。衝突時の安全性を確保するために重要な部位である腰部や背中の中央部、頭や首、腰や骨盤部、肩、側頭部などに掛けられた荷重の合計は約2トンに及んだ。
広範囲に渡る研究の結果、新しい「8855-2021」シート規格は既存の仕様に比べて強度を大幅に向上させる一方で重量増を僅かに抑え、コストも500ユーロ(約6万6000円)に抑える事に成功。また、有効期限も従来の5年間の倍にあたる10年間と拡大された。