マクラーレンの2023年型F1マシン「MCL60」と先代「MCL36」の側面比較画像
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速読:マクラーレンF1「MCL60」先代比較で何が変わった? 特異なアプローチの成否如何に

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ライバルの多くがパッと見で視覚的に分かる変更を広範囲に施してきた一方、マクラーレンの2023年型F1マシン「MCL60」はカラーリングを含め、先代機との違いが最も限定的なマシンと言えるかもしれない。

2022年型「MCL36」と比較しながら駆け足でウォーキングの新車を見ていきたい。

アンダーカット拡大のレッドブル化ポッド

マクラーレンの2023年型F1マシン「MCL60」と先代「MCL36」の斜め後方比較画像copyright Formula1 Data

マクラーレンの2023年型F1マシン「MCL60」と先代「MCL36」の斜め後方比較画像

MCL60のサイドポッドは、ダウンウォッシュと呼ばれる前方から後方に向かって緩やかに下方へと伸びるラインを描くコンセプトを継承しつつも、深遠なアンダーカットが設けられた。また、フロアエッジ・ウイング内側のフロア上面にはフィンのようなものが確認できる。

マクラーレンの2023年型F1マシン「MCL60」と先代「MCL36」の側面比較画像copyright Formula1 Data

マクラーレンの2023年型F1マシン「MCL60」と先代「MCL36」の側面比較画像

側面から見てもアンダーカットが拡大された事がよく分かる。これによりフロアエッジ・ウイングはより大きく、より前方へと配置された。フロア下により多くの気流を取り込もうとの意図が感じられる。

このあたりの処理はレッドブルRB18のデザインにヒントを得たものと思われ、アルファロメオやアルファタウリ、ウィリアムズも同様の方向へと舵を切っている。

新時代のマシン開発は極端な話、その全てがアンダーフロアに焦点を当てたものと言える。ダウンフォースの大部分はグランドエフェクトにより生み出されている。

サイドポッド周りに変化が見られる一方、エンジンカバーや冷却ルーバーは先代最終形態とほぼ変わらない。パッケージングが先代よりもタイトである事から、冷却的にはかなり攻めていると言える。

マクラーレンの2023年型F1マシン「MCL60」と先代「MCL36」の正面図比較画像copyright Formula1 Data

マクラーレンの2023年型F1マシン「MCL60」と先代「MCL36」の正面図比較画像

この正面図の比較は先の2枚とは異なり、旧型「MCL36」の画像がローンチバージョンである点に注意されたい。

ラジエーターへと空気を取り込むためのサイドポッド・インレットの形状はMCL36の最終形態、つまりシンガポールGP以降のものとは大きく異るが、こうして見るとこの1年で全くの別物へと変化した事がよく分かる。

フロントにプルロッド、リアにプッシュロッドというサスペンションシステムに変化はないがジオメトリーは変更されており、特にアッパーウィッシュボーンのマウント位置がシャシー側面から上面に変更されるなど、フロント側は全体として上方に移動され、ベンチュリートンネル前方の空間が拡大されている。

小幅改善は吉と出るか?

サイドポッドがレッドブルRB18に近づくなど視覚的に大きな変化がないわけではないが、ジェームス・キー率いるエンジニアリング部門による本作はファインチューニングに注力したマシンに見える。少なくともローンチカーを見る限りにおいては。

と言うのも、新チーム代表のアンドレア・ステラによれば、1963年のチーム創設から60周年を記念して命名された現状のマシンは「完全に満足」できるものではなく、チームは第4戦アゼルバイジャンGPを目安にシーズン序盤早々のアップグレードを計画している。

予算や風洞実験が制限される昨今、1年間を通して限られたリソースを如何に運用するかという視点は重要だ。

先代から新型に向けてはシーズン中のメジャーアップグレード水準の改良に留め、実際のコース上でその方向性を確かめた後、開発を積み上げていくというアプローチもあり得るのかもしれない。

マクラーレンは少なくとも今年前半まで自前の最先端風洞を使う事できず、ケルンにあるトヨタの風洞まで赴き、高額な使用料を払わなければならない状況にある。

意図したものか、偶然かは分からず、アプローチと言えるのかも分からないが、小幅変更が吉と出るか凶と出るか興味深い。