決勝レーススタート直後のイモラ・サーキットの様子、2025年5月18日(日) F1エミリア・ロマーニャGP決勝
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イモラ存続危機に揺れるF1、残留への動きと行方―勝利の陰で”寂しさ”吐露したフェルスタッペン

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2025年F1第7戦エミリア・ロマーニャGPで、同大会4連覇を果たしたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が、開催地イモラ・サーキットのF1カレンダー除外の可能性に「残念だ」と本音を吐露した。世界各地で新興開催地が台頭する中、歴史あるこのサーキットの未来に暗雲が立ち込めている。

王者が愛する伝説のコース—イモラの栄光と危機

イモラ・サーキット(正式名称:アウトドローモ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ)は1980年にF1世界選手権に初登場。1981年から2006年まで「サンマリノGP」として継続開催され、F1の名門コースとしての地位を築いてきた。

コロナ禍の2020年、代替開催地として華々しく復活を遂げたイモラ。その後、フェルスタッペンは同サーキットで圧倒的な成績(5戦4勝)を収め、このコースとの特別な相性を見せつけている。

マクラーレン勢を寄せ付けない走りで優勝を手にした現代の”イモラ・マスター”は、レース後のインタビューでこう語った。

「こういうコースがなくなるのは残念だよ。F1が新しい市場に進出しようとしていることは理解してるし、スポーツ面と財政面、両方の側面を考えなきゃいけないのも分かってる。でも、僕がレースを好きになったきっかけって、まさにこういうコースなんだ。カートをやってた頃からそうだけど、他より特別なサーキットって、あるんだよ」

決勝前のドライバーズパレードでファンに手を振るマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、フランコ・コラピント(アルピーヌ)、オリバー・ベアマン(ハース)、ニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)、2025年5月18日(日) F1エミリア・ロマーニャGP決勝(イモラ・サーキット)Courtesy Of Sauber Motorsport AG

決勝前のドライバーズパレードでファンに手を振るマックス・フェルスタッペン(レッドブル)、フランコ・コラピント(アルピーヌ)、オリバー・ベアマン(ハース)、ニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)、2025年5月18日(日) F1エミリア・ロマーニャGP決勝(イモラ・サーキット)

ドライバーたちが守りたい「本物のレースコース」

マクラーレンのチーム代表アンドレア・ステラは、イモラを鈴鹿と並ぶ最高峰のサーキットと評価する。

「そのレイアウト、高速で流れるようなタイトなトラック。この手のコースは多くない。鈴鹿もその一つだ。全く容赦がなく、ミスをすれば、すぐにその代償を支払うことになる」

「ドライバーにとってもファンにとっても最高のコースだ。イモラが今後も、スケジュールに組み込まれることを願っている。それはF1にとって素晴らしいことだからだ」

オスカー・ピアストリ(マクラーレン)も「ずっと続いてきた歴史あるサーキットを失ってならないと思う。そういうコースの少なくとも75%はドライバーのお気に入りだと思う」と強調する。

「ドライバーに好きなコースのトップ3を聞けば、おそらくシルバーストン、鈴鹿、スパ、ここ(イモラ)、そしてザントフォールトあたりが挙がると思う。でもイモラは消えそうだし、ザントフォールトはなくなってしまう。スパはローテーション。モンツァが消えたらさすがに問題だと思うけど、絶対とは言えないと思う」

ティフォシと交流するルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年F1エミリア・ロマーニャGPCourtesy Of Ferrari S.p.A.

ティフォシと交流するルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年F1エミリア・ロマーニャGP

フェルスタッペンは感情を込めてこう続ける。

「F1を見始めた時から記憶に残るような、特別なサーキットって、幾つかあると思うんだ。何というか、スピード感、攻略の難しさ、そういうのを見て惹かれてしまうようなね」

「歴史が刻まれているサーキットって、やっぱりすごく特別なんだよ。感情移入しちゃうしね。だから、個人的には本当に残念。でも、僕にはどうすることもできない」

商業主義とヘリテージ—F1拡大戦略の陰で

F1はここ数年、グローバル戦略を積極的に推進。ラスベガス、マイアミ、サウジアラビアといった新興開催地の登場は、その象徴だ。2026年にはスペイン・マドリードの新設市街地コースがカレンダー入りを予定しており、これに伴いイタリア国内2大会のうち、イモラがカレンダーから外れる公算が高まっている。

マドリードの新サーキットは優れたアクセス性、環境配慮型の設計、そして何より高額な開催料という「現代F1の求める三種の神器」を備えている。対するイモラは、インフラの老朽化や観客動線の問題を抱え、劣勢を強いられている。

スペインの首都マドリード市街地の風景、2021年9月12日creativeCommons William Helsen

スペインの首都マドリード市街地の風景、2021年9月12日

サバイバルへの道—イモラ存続の条件と可能性

だが、イモラにも活路はある。マドリードGPに関しては、市街地開催に伴う騒音反対運動や認可問題から、初開催が遅延する可能性も指摘されている。その場合、イモラが代替地として浮上する見込みだ。

財政面では、イタリア政府が支援に名乗りを上げた。2025年に525万ユーロ(約8億6,000万円)、2026年から2032年までは毎年500万ユーロをACI(イタリア自動車クラブ)に拠出し、イモラとモンツァのF1開催を支える決断を下している。政府はこれらのグランプリを単なるスポーツイベントではなく、地域経済の原動力と位置づけている。

だが、問題の核心は、F1が要求する6,000万ユーロ(約97億8,000万円)とも噂される高額な開催料にある。これは従来の倍額に達し、あらゆる支援を合算しても必要額の半分に満たない。

現実的な解決策としては、ベルギーのスパ・フランコルシャンやスペインのカタロニアといった他の伝統的なコースとのローテーション制が挙げられる。

スパ・フランコルシャンのオー・ルージュを通過する周冠宇(ザウバー C44)、2024年7月26日(金) F1ベルギーGPフリー走行Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

スパ・フランコルシャンのオー・ルージュを通過する周冠宇(ザウバー C44)、2024年7月26日(金) F1ベルギーGPフリー走行

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