マルコのハジャー辛辣発言、「伝説の片目走行」に触れて“別の視点”を示すホーナー

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2025年F1オーストラリアGPのフォーメーションラップでクラッシュしたレーシング・ブルズの新人、アイザック・ハジャーに対し、レッドブルのモータースポーツアドバイザーであるヘルムート・マルコが「恥ずかしい」と評した発言が波紋を広げている。これに対し、レッドブル・レーシングのチーム代表、クリスチャン・ホーナーは擁護とも取れる見解を示した。

クラッシュ後、涙を流しながらガレージに戻るハジャーの姿には、多くの関係者やファンが同情を寄せた。ルイス・ハミルトンの父、アンソニー・ハミルトンが声をかける場面も報じられた一方で、マルコは真逆の反応を見せた。その発言には批判が集中し、F1界内外で論議が強まっている。

ガレージ内でルイス・ハミルトンの父アンソニー・ハミルトンと話すアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)、2025年3月16日(日) F1オーストラリアGP決勝(アルバート・パーク・サーキット)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ガレージ内でルイス・ハミルトンの父アンソニー・ハミルトンと話すアイザック・ハジャー(レーシング・ブルズ)、2025年3月16日(日) F1オーストラリアGP決勝(アルバート・パーク・サーキット)

「片目で走りきった男」マルコのバックボーン

この件についてホーナーは、中国GPの舞台である上海インターナショナル・サーキットでイギリスの「Sky Sports」の取材に応じて次のように語り、「伝説的な片目走行事件」に触れて、壮絶な人生を自らの足で歩んできたマルコの人物像に焦点を当てた。

「いいかい、ヘルムートは82歳の古い人間だ。かつてレース中に片目を失いながらも、クルマを路肩に停めてエンジンを切ったような人間なんだ」

「彼には彼なりの意見があり、それを持つ権利もある。だが、その意見にみんなが同意するわけじゃない」

ガレージ内で様子をうかがうクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)とヘルムート・マルコ(レッドブル・レーシング コンサルタント)、2024年9月21日(土) F1シンガポールGP FP3(マリーナベイ市街地コース)Courtesy Of Red Bull Content Pool

ガレージ内で様子をうかがうクリスチャン・ホーナー(レッドブル・レーシング代表)とヘルムート・マルコ(レッドブル・レーシング コンサルタント)、2024年9月21日(土) F1シンガポールGP FP3(マリーナベイ市街地コース)

ホーナーが言及したのは、1972年のフランスGPでの事故だ。舞台となったシャレード・サーキットは火山岩に囲まれ、舗装状態が悪く、砂利や石が多く散乱していた。

レース中、前を走行していたエマーソン・フィッティパルディ(ロータス)のクルマが跳ね上げた小石が、マルコのヘルメットのバイザーを貫通。左目に直撃し、視力を失う重大な事故となった。

それでもマルコは意識を失うことも、マシンを停めることもなく、視界のある右目のみでクルマを操縦し、コース脇に停車させた。

その後、緊急治療を受けたが、左目の視力は回復せず、ドライバーとしてのキャリアに終止符を打つこととなった。

後年、マルコはこの経験について「2ヶ月の入院中、ある晩ふと“終わった”と悟った。あとは前に進むだけ。文句を言いながら生きるか、別の道に進むか。私は前を向くことを選んだ」と語っている。

レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコとターニャ・バウアー、2021年5月15日オーストリア・グルンドルゼーにてCourtesy Of Red Bull Content Pool

レッドブル・レーシングのモータースポーツ・アドバイザーを務めるヘルムート・マルコとターニャ・バウアー、2021年5月15日オーストリア・グルンドルゼーにて

レッドブル育成の真価─8人の元ジュニアが彩る2025年のF1グリッド

ホーナーはまた、ハジャーに対する思いを次のように語った。

「彼があれほど落ち込んでいる姿を見るのはとても悲しかった。彼のチームがきっと支えてくれるだろうし、まだ20歳という若さで将来は明るい。彼なら大丈夫だ」

ヤス・マリーナ・サーキットのパドックで記念撮影するレッドブル系ドライバー、左からアムナ・アル・クバイシ(F1アカデミー、MPモータースポーツ)、角田裕毅(RBフォーミュラ1)、アイザック・ハジャー(RBリザーブドライバー、FIA-F2選手権)、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、ハムダ・アル・クバイシ(F1アカデミー、MPモータースポーツ)、リアム・ローソン(RBフォーミュラ1)、エミリー・デ・ヘウス(F1アカデミー、MPモータースポーツ)、セルジオ・ペレス(レッドブル)、2024年12月5日F1アブダビGPCourtesy Of Red Bull Content Pool

ヤス・マリーナ・サーキットのパドックで記念撮影するレッドブル系ドライバー、左からアムナ・アル・クバイシ(F1アカデミー、MPモータースポーツ)、角田裕毅(RBフォーミュラ1)、アイザック・ハジャー(RBリザーブドライバー、FIA-F2選手権)、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)、ハムダ・アル・クバイシ(F1アカデミー、MPモータースポーツ)、リアム・ローソン(RBフォーミュラ1)、エミリー・デ・ヘウス(F1アカデミー、MPモータースポーツ)、セルジオ・ペレス(レッドブル)、2024年12月5日F1アブダビGP

レッドブルはF1参戦以来、若手ドライバーの育成分野において先駆的な存在であり続けている。2025年のF1グリッドにおいては、全20人中8人がレッドブル・ジュニア・プログラムの出身者だ。

現在レッドブル系チームに所属しているマックス・フェルスタッペン、リアム・ローソン、角田裕毅、ハジャーをはじめ、ピエール・ガスリー、アレックス・アルボン、カルロス・サインツ、ジャック・ドゥーハンも、かつてはレッドブルのジュニアドライバーであった。

ホーナーは、F1におけるレッドブルの若手育成方針の意義を次のように強調する。

「ドライバーはそれぞれ異なるタイミングで成長する。例えば、2021年に私はアレックスにウィリアムズのシートを与えた。今では様々なドライバーが経験を積んでグリッドに立っている」

「逆の見方をすれば、レッドブルがいなければ、これらのドライバーはチャンスを得られなかったかもしれない。カルロス・サインツにしかり、アレックスにしかり、ピエール・ガスリー、リアム・ローソン、ユーキにチャンスを与えたのは他のチームではなかった」

「レッドブルこそが、若手に投資し、このような機会と舞台を与えてきたんだ」

「もちろん、どれだけチャンスを与えるにも限度がある。いずれは彼らを手放さなければならない。そして、そこで彼らが自分のキャリアを切り開けるのであれば、それは彼らにとって素晴らしいことだ」

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