
2026年F1圧縮比疑惑、ホンダとアストンが見解―「議論」を認め、FIA裁定を重視
2026年の新たなパワーユニット(PU)規則の導入を目前に控え、パドックを揺るがしているのがICE(内燃エンジン)の圧縮比を巡る疑惑だ。規則のグレーゾーンを突いているメーカーが存在するとの騒動に対し、ホンダとアストンマーティンの首脳陣が、それぞれの立場から見解を示した。
現在、技術的な火種となっているのが「圧縮比16:1」という上限規定だ。部品の熱膨張によって実走行時に圧縮比が従来の値である18:1近くまで高まり、約15馬力、ラップタイムでは最大0.3秒に及ぶアドバンテージを生む可能性があるとされている。
疑惑の構図──3陣営 vs 2陣営
フェラーリ、アウディ、ホンダの3陣営は、一部の競合メーカーが熱膨張を利用し、実走行時にこの制限を超えて大幅な出力を得ているのではないかとの疑念を抱いているとされる。その「一部の競合メーカー」とは、メルセデスとレッドブル・フォード・パワートレインズ(RFPT)と伝えられている。
疑惑の核心は、測定条件と実走行条件の乖離にある。圧縮比は規則上、エンジンが冷えた状態で測定される。一方、実走行では高温により金属部品が膨張する。この膨張を意図的に設計へ織り込めば、測定時は16:1を満たしつつ、実走行時には18:1近くまで圧縮比を高められる可能性があると考えられている。
このトリックを巡っては、1月22日に国際自動車連盟(FIA)との会合が予定されている。
ホンダ「レースの一部」裁定重視の姿勢
copyright Honda Motor Co., Ltd
壇上でマイクを握るホンダの三部敏宏社長、2026年1月20日「2026 Honda × Aston Martin Aramco F1 Team ニューパートナーシップ始動発表会」にて
この問題について、本田技研工業の代表取締役社長を務める三部敏宏氏は、1月20日に行われたローンチイベントで、圧縮比に限らず、新たなレギュレーション下で多様な技術的可能性が検討されること自体は「レースの一部」だと述べた。F1は本質的に、規則の中で限界を探る競技だという認識を示した形だ。
また、その是非については、規則を管理するFIAの裁定に委ねられるべきだとし、ホンダとしては都度FIAに確認し、判断を仰ぎながら開発を進めていく考えを示した。
一方で、「ホンダにも多分、色々なアイデアがあると思う」とも語り、自社の2026年型PU「RA626H」にも、規則の限界に挑む技術的要素が含まれていると受け取れる発言も口にした。
また、ホンダ・レーシングの代表取締役社長を務める渡辺康治氏は、圧縮比を巡る議論が行われていること自体は認めた。その一方で技術的な詳細には踏み込まず、ホンダとしては「レギュレーションに適合する形でPU開発を進めていく」との立場を示すにとどめた。
ホンダの姿勢は明確だ。規則の限界は探るが、FIAの判断には従う。グレーゾーンの活用は否定しないが、違反はしない。
なお、このイベントでは、2026年仕様のホンダ製PU「RA626H」が初公開された。ただし、メディア向けに配布されたリリース画像では、PU下部のエリアにぼかしが施されていた。コンポーネントの配置や冷却周りの詳細は、各メーカーの思想が色濃く反映される要素だ。
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HRC(株式会社ホンダ・レーシング)が開発を手掛ける2026年型F1パワーユニット「RA626H」、2026年1月20日
「常に起きる議論」とアストン
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壇上で話すアストンマーティンF1のチーフ・ストラテジー・オフィサーを務めるアンディ・カウエル、2026年1月20日「2026 Honda × Aston Martin Aramco F1 Team ニューパートナーシップ始動発表会」にて
かつてメルセデスF1の黄金期をPU開発の責任者として支え、現在はアストンマーティンのチーフ・ストラテジー・オフィサーを務めるアンディ・カウエルは、圧縮比を巡る議論を特異な問題とは捉えていない。
「圧縮比の件については、今回に限らず新しいレギュレーションが導入されるたびに必ず話題になる」
カウエルはそう語り、この種の議論がF1では日常茶飯事であることを強調した。
「各競合はレギュレーションを読み込み、性能を限界まで引き上げようとする。圧縮比は、内燃機関の熱効率を高めるうえで間違いなく重要な要素であるため、当然そこは限界まで追い込むことになる」
そのうえで、すべての参戦者が同一基準で規則を解釈しているかを確認する役割はFIAにあり、その作業が「まさに今、行われているところだ」と説明した。
2014年から2020年にかけて、メルセデスは圧倒的なPU性能でF1を支配した。その成功は、規則の限界を突き詰めた結果でもあった。カウエルは、ホンダ同様に技術的優位性を追求する姿勢そのものは否定せず、最終的な判断はFIAに委ねられるべきだとの立場を示した。
分水嶺となるFIA判断
今回の疑惑が事実であれば、そのインパクトは小さくない。約15馬力という出力差は、2026年型PU総出力の1.5%に相当する可能性がある。数値上はわずかでも、F1では決定的な差となり得る。
1月22日のFIA会合で最終的な判断が下されるかどうかは不透明だが、いずれにせよ、いくつかのシナリオが考えられる。
第一に、熱膨張を利用した圧縮比の変動が違反と判断されるケース。この場合、疑惑のメーカーは設計変更を余儀なくされる。
第二に、合法と判断されるケースだ。この場合、ホンダ、フェラーリ、アウディは同様の技術導入を検討する必要が生じる。だが、開幕まで50日を切る現状では、大幅な設計変更は現実的ではない。
第三に、グレーゾーンのまま判断が先送りされるケースだ。FIAが明確な結論を避け、シーズン中に再検討する形となる。だが、これは最悪のシナリオだろう。不確実性が残り、各陣営は開発方針を定められない。
規則の限界を探ることはエンジニアリングの本分だ。だが、その一線を越えることは許されない。問題は、その境界線が必ずしも明確ではない点にある。FIAが規則を定め、チームがそれを解釈し、FIAが再解釈する。その繰り返しこそが、F1の技術進化を推し進めてきた。今回の圧縮比疑惑は、まさにF1技術開発の本質を映し出すものと言える。