溢れ出たハミルトンの涙の理由、自信を失い「やめたいと思ったことも…」苦節945日を経て掴んだ母国でのドラマティックな勝利
雨に見舞われたシルバーストンを舞台に行われた2024年7月7日のF1イギリスGPでルイス・ハミルトンは、57レースぶり、通算104回目の優勝を劇的な逆転劇で飾り、16万4千人の母国観衆を前に、涙を流す感動的な姿を披露した。
2番グリッドに着いたハミルトンはレース序盤、メルセデスのチームメイトであるジョージ・ラッセルを追う立場にいたが、気紛れなブリティッシュウェザーが雨を呼び込み、レースがその後、インターミディエイト、そして再びスリックと変化する難しい展開に突き進んだことでチャンスが訪れた。
マクラーレンは雨を味方につけ、ランド・ノリスとオスカー・ピアストリが7周に渡って1-2体制を築いたものの、ラップリーダーのノリスより1周早くスリックタイヤに履き替えたことでハミルトンはリードを奪い、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)の猛追を1.4秒差で退けトップチェッカーを受けた。
レース終了後のスローダウンラップではマーシャルからユニオンジャックの旗を受け取り、母国のヒーロー帰還に湧くシルバーストンの観衆の大声援に応えると、パルクフェルメでは母親のカルメンと父親のアンソニーと抱き合って喜んだ。
この日の勝利はハミルトンにとって、フェルスタッペンと歴史的なタイトル争いを繰り広げ、最終的にタイトルを逃すこととなった2021年の最終戦の一つ前、サウジアラビアGP以来の勝利となっただけでなく、単一会場での史上最多優勝記録を9回に塗り替えるものでもあった。
2022年の現行グランドエフェクトカー規定導入以降、メルセデスは絶対君主としての立場から転落。レッドブルが代わってF1の頂点に立ち、ハミルトンが母国イギリスでの感動的な勝利を上げるまで優勝僅か2回と苦戦し続けていた。
ドラマティックなフィナーレを経て涙を流したハミルトンは「現実とは思えない。胸がドキドキしている。ここでは前に何度も素晴らしい時間を過ごしたけど、ラインを越えた時、長い間抑え続けてきた感情が溢れ出てしまった」と語った。
「これまで経験した勝利の中で最も感動的な終わり方だった。なぜこれまで涙を流すことがなかったのか、いつも不思議だったんだ!ルーベンス・バリチェロが泣いているのを見て『そんなことは僕には起こり得ない』って思っていたけれど、今回ばかりは心に響いた」
「本当に苦しかった2021年シーズンを経て、トップに戻るために努力してきたけど、チームとしては厳しい時期を過ごすことになった」
「ある時点に至るまで、頭の中に色んな考えや疑問が浮かんだ。時にはもう、やめたいと思ったこともあった」
「2021年以降、自分が十分に優れていると感じることができなかったり、今のような状態に戻れる気がしない日が確かにあった。でも重要なのは、自分の周りに素晴らしい人々がいて、サポートし続けてくれたことだ。チームが努力しているのを見るたびに、自分も頑張ろうと励まされた」
「こうして立ち上がり、挑戦し続け、遂に成功した。これまでに経験した中で最高の感覚だ」
その背中に刻まれた「still I rise(それでも僕は立ち上がる)」のタトゥーが示すように、一時は引退が頭によぎったというハミルトンを支え、震え立たせたのはチームだけではない。
「ファンがいなければ今の自分は絶対になかったと思う。世界中で出会ったファン、そして特にここイギリスのファンの存在がなければね」とハミルトンは語る。
「僕はスティーブネージ(英国ハートフォードシャー州の都市)で育った。父が僕に最初のヘルメットをくれたのが転機だった」
「両親だけが唯一の僕のファンだと思っていた。だからこんなにもサポートをもらえるなんて本当に信じられない。本当に本当に元気づけられてきた」
「それが僕を突き動かす原動力の一つだ。そして、もう一つは僅かな希望の光だ」
「たとえそれがどんなに小さなものであっても、それを無視せず、日々の内なる平穏を大切にしようと思っている」
「決して諦めないこと。それが凄く大切なんだ。諦めるのは何よりも簡単なことだけど、決してやってはいけないんだ」