シーズン開幕前からシリー・シーズンが幕を開けた。ルイス・ハミルトンとフェラーリとの契約がF1史上、最も衝撃的な移籍劇の一つとなる事は疑いない。2月に入るやいなやF1コミュニティに激震が走った。

メルセデスとは昨年8月に2年の契約延長に合意したばかりだが、僅か半年で解除条項に定められた権利を行使し、契約を1年を残した2024年末を以てカルロス・サインツの後任としてフェラーリに移る。

シーズンが幕を開ければドライバー本人や両チーム関係者から、より詳細な事情が明らかにされるだろうが、ひとまず現時点で浮かび上がってきたこの電撃移籍の裏側についてまとめたい。

急転直下の契約成立

ハミルトンが自身の決断をチーム代表兼CEOのトト・ウォルフに知らせたのは1月31日(水)の朝のことだったとされる。その翌日の英国現地14時、メルセデスはチームメンバー全員を招集し、ミラノからオンライン参加したウォルフがこれを伝えた。

フェラーリとの移籍交渉から合意までは急転直下の出来事だったと見られる。実際、今週水曜日にイタリアメディアが報じるまで、これと言った情報は出ていなかった。

フェラーリは先月の時点で、2024年末で契約が切れるカルロス・サインツとの間で延長交渉に取り組んでいたが、フェラーリ会長、ジョン・エルカーンの耳に突如、ハミルトンを獲得できる可能性があるとの知らせが飛んだという。

長年に渡ってハミルトンを追い求めてきたエルカーンはすぐさま交渉の席を用意。両者が固い握手を交わすのに殆ど時間はかからなかった。なお移籍交渉は年末から始まったとの情報もあるが、いずれにせよ事態は突然に変化し、瞬く間に結末へと向かったようだ。

エルカーンは、ハミルトンが昨夏にメルセデスとの契約を更新する前にも7度の王者に電話をかけているが、この時は本格的な交渉に至らなかったと見られている。2019年にもアプローチがあった。

フェラーリのチーム代表を務めるフレデリック・バスールが重要な役割を果たしたであろう事は疑いない。バスールはハミルトンのジュニア時代のボスであり、2006年にARTチームとともにGP2（現F2）タイトルに導いた人物で、以降も両者は連絡を取り続けていた。

まだ2024年の新車「W15」をドライブしてもいない段階で決断した事は大きな驚きであり、また謎の一つだが、いずれにせよハミルトンがメルセデスに不信任を突きつけ、フェラーリにより多くのポテンシャルを見ているのは確かだ。

シーズン開幕を前に1年先の契約が発表されるのは異例。それもハミルトンの電撃移籍とあって正式発表を前に報道は過熱し、この日のもう一つのビッグニュース、アンドレッティの参戦申請却下というF1にとってのネガティブな発表は瞬く間に過去の出来事へと変わった。

42歳まで現役続行へ

発表では「複数年」とのみされており詳細な契約年数は不明だが、イタリアメディアの報道によると1年のオプション付きの2年契約との事で、少なくとも2026年まで、場合によっては2027年までマラネロのチームに留まる見通しだ。

これは42歳までF1でのキャリアを続行する可能性があるということだ。現行グリッド最年長のフェルナンド・アロンソ（アストンマーチン）は今年の7月29日に43歳の誕生日を迎える。

レジェンド、ミハエル・シューマッハと並びF1で7冠を手にしているハミルトンがフェラーリと共に再びタイトルを獲得した場合、1957年のファン・マヌエル・ファンジオ以来、3チームで世界選手権を制した初のドライバーとなる。

とは言えフェラーリへの移籍は成功を保証するものではない。赤き跳ね馬もグランドエフェクトカー規定で苦戦しており、昨年のコンストラクターズ・チャンピオンシップではレッドブルとメルセデスに次ぐ3位に終わった。

フェラーリがドライバーズタイトルを勝ち取ったのは2007年のキミ・ライコネンが最後だ。コンストラクターズ選手権においても2008年以来、タイトルから遠ざかっている。

ハミルトンの嗅覚は今も健在なのだろうか。2013年にマクラーレンから当時格下のメルセデスに移籍したのもセンセーショナルな出来事であったが、その後、V6ハイブリッド時代の幕開けとともに圧倒的な競争力を発揮して一時代を築き上げた。歴史は再び繰り返されるのか。