燃え盛る炎に巻かれたロマン・グロージャン、2020年F1バーレーンGPにて
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時速192km 67Gの衝撃…FIA、F1バーレーンGPでのグロージャンの事故調査結果を発表…更なる安全強化に向け22の改善点を勧告

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国際自動車連盟(FIA)は3月5日(金)、昨年末のF1バーレーンGPで発生したロマン・グロージャン(ハース)の事故に関する調査結果を公表。更なる安全強化のため、22の改善点を示した。

2020年11月29日、バーレーン・インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権レースでグロージャンがターン3のエイペックスから180メートル先のバリアに激突。マシン後部が引きちぎれる格好となり炎上する事故が発生した

ジャン・トッドFIA会長が議長を務める重大事故研究グループは3ヶ月に渡って、衝突時の物的証拠、クルマとグロージャンの耳に装着された加速度計データ、関係者への聞き取り、ビデオ映像などをもとに調査を実施。その報告書を公開した。

事故分析

報告書によると、グロージャンは時速241km/hで走行していたオープニングラップ中、左側から右側へ進路を変えた際に自車の右リアホイールとダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)の左フロントホイールが接触した事でターン3出口でコントロールを失った。

この接触によりリアが浮き上がり制御不能となったグロージャンのマシンは、ターン3出口イン側にあるランオフエリアに進入。クビアトも同じランオフエリアに入ったものの、接触する事なくすぐにコースに復帰した。

その後、グロージャンのマシンは時速192kmという高速でランオフエリア後方の3段構えの鉄製ガードレールバリアに衝突。報告書は67Gに相当するピークフォースが発生したと記した。

衝撃でバリアの中央レールが破損。上下のレールが大きく変形した事でグロージャンのマシンのサバイバルセルがバリアを貫通し、上下のレールに挟まれる形で静止した。

衝撃によって、パワートレイン・アセンブリとサバイバルセルが分離するなど車両は大きく損傷。シャーシ左側の燃料タンク点検ハッチが外れ、燃料供給接続部が燃料タンクの”安全ブラダー”から引き裂かれた。

報告書は、ヘルメット、HANS、セーフティハーネス、サバイバルセル、シート、ヘッドレスト、ヘイロー、フロントコックピットプロテクションなどのドライバー安全装備がそれぞれの仕様に従い機能した事でドライバーを保護したと結論付けている。

回収システム(ERS)用の高圧バッテリーは激しく損傷し、アセンブリの一部はパワートレインと共に残り、他の部分はサバイバルセルに取り付けられたままになっていたという。

衝突の直後にサバイバルセル後部から発火。炎はその大きさを増しながらドライバーに向かって進行した。

バリアの上部レールとサバイバルセルの位置関係上、グロージャンは脱出経路を大幅に制限された。多くのパーツが破損した事で左足が拘束される形となり、グロージャンはブーツを脱いで足を引き抜き、ヘッドレストとステアリングホイールを動かして車外に脱出した。

オフィシャルが赤旗を提示したのは、グロージャンがバリアに衝突した約5.5秒後だった。

FIAの医療チームに肩を借りて救急車に向かうハースのロマン・グロージャン、2020年F1バーレーンGP決勝レースにてcopyright Haas

FIAの医療チームに肩を借りて救急車に向かうハースのロマン・グロージャン、2020年F1バーレーンGP決勝レースにて

救助活動

FIAのメディカルカーは、ターン1をショートカットするなどして、事故発生から11秒以内に現場に到着した。報告書は「サーキットに関する知識と事前の計画性が功を奏して達成されたタイムだ」と記した。

真っ先に現場に着いたのは、FIA-F1メディカル・レスキュー・コーディネーターのイアン・ロバーツ博士、メディカルカー・ドライバーのアラン・ファン・デル・メルヴェ、そして地元医師の3名だった。

アラン・ファン・デル・メルヴェ、ロマン・グロージャン、イアン・ロバーツ医師、2020年F1サクヒールGP木曜日copyright Haas

アラン・ファン・デル・メルヴェ、ロマン・グロージャン、イアン・ロバーツ医師、2020年F1サクヒールGP木曜日

イアン・ロバーツはマーシャルにドライパウダー消火器での消火作業を指示。アラン・ファン・デル・メルヴェは地元医師が外傷治療バッグを準備する間、メディカルカーの後部から消火器を取り出し消火活動に向かった。

グロージャンが脱出したのは事故から27秒後の事だった。

両手の甲に火傷を負ったグロージャンは救急車に乗せられてサーキット内のメディカルセンターに搬送された後、ヘリコプターでバーレーン国防軍病院に搬送され治療を受けた。退院したのは3日後の2020年12月2日だった。

サーキット安全強化策

FIAセーフティー部門は各国のASN(各国のモータースポーツ管轄団体)の支援のもと、2020年中に発生したグロージャンの一件を含む19件の重大事故について調査を実施。以下の提言をまとめた。

車両関係

  • サバイバルセルのフロントジオメトリの検証、当該領域での更なる荷重テストの実施の規約化
  • バックミラーに関する現行規制の見直し
  • ステアリングコラムの取り付け条件の見直し
  • ヘッドレスト・アセンブリ規制とホモロゲーション要件の見直し
  • パワーユニットの取り付け方法及びマウント不良モードの解析
  • ホイール拘束ケーブル(テザー)に関する更なる調査・研究
  • FIAシングルシーター全カテゴリーにおけるセーフティー燃料ブラダーの設置にする設計レビュー
  • セーフティー燃料ブラダーの設置義務化勧告
  • セーフティー燃料ブラダーに関するFIA規格の見直し
  • セーフティー燃料ブラダーの接続部等の設計に関する規定の見直し
  • ブラダーの素材と燃料の適合性を含む燃料ホモロゲーションの見直し

サーキット関係

  • サーキット安全解析ソフトウェア(CSAS)の定量的な影響確率分類を含む機能強化
  • 既存のサーキットのバリア開口部の見直し
  • サーキットのホモロゲーション及びライセンス更新のためのガイドライン・プロセスの見直し

ドライバー保護装置

  • 手袋の熱伝導率(HTI)の改善検討
  • バイザーの開閉・ロック機構の更なる研究・調査(特に火災時の)
  • オープンコックピット車用の消火器システムの更なる研究・調査

救助活動関係

  • 代替消火器を含むメディカルカーの装備品に関する情報のアップデート
  • 鎮火後に関するASNガイダンスの提供
  • ASN用のFIA消防訓練モジュールの継続的開発
  • ASN用のFIA高圧安全トレーニングモジュールの継続的開発
  • ASN用のFIAインシデントコマンド・調整トレーニングモジュールの継続的開発

FIAは更なる安全強化に取り組むべく、上記とは別に新しいバリアの研究開発や、ガードレールバリアの改修及び補強方法の調査研究、近接警告システムや電子的視認性補助システムに関する研究を行っていくとしている。

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