ホンダ製F1パワーユニット RA617H
Courtesy Of Honda

EVと距離を置くF1、100%持続可能な「ドロップイン燃料」で排出ガスを「65%」削減しつつパワーを維持

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F1は100%持続可能な「ドロップイン燃料」を導入することで、現行F1マシンと同等レベルのパフォーマンスを維持しつつも、温室効果ガスの排出量を「少なくとも65%」削減できると主張している。

F1は2030年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを指す「ネット・ゼロ・カーボン」を達成すべく、その第一弾として2022年のV6ハイブリッド・パワーユニットの燃料をE10(化石燃料90%、バイオエタノール10%の混合燃料)に切り替える。

ヨーロッパを中心に各国が内燃機関(ICE)のみを持つ自動車の販売を禁止する措置を打ち出し、EVシフトを加速させる中、F1は2025年あるいは26年の導入が見込まれている次世代パワーユニットでもICEを継続する。

なぜF1は100%電動化に舵を切らないのだろうか?

F1の最高技術責任者を務めるパット・シモンズは「小型車や都市部ではむしろ電気自動車が適している」として、F1は必ずしも電動化に反対ではないと主張する。つまり問題となるのはパワーであり、大型貨物車や列車、航空機や高性能ロードカーなど、強力なパワーが必要とされる分野での電動化は時期尚早という立場だ。

英国機械学会が昨年実施したライフサイクル分析によると、再生可能エネルギーを利用した完全な電気自動車、いわゆるBEV(Battery Electric Vehicle)の全生涯における排出量は58g/kmだが、完全に持続可能なガソリンエンジン車の場合は45g/kmであり、また2030年時点でのBEVの割合は約8%に過ぎず、16億台以上が依然としてICEを搭載するものと見られている。

つまりF1はICEが今後も大きな役割を果たすと考えており、100%サステイナブルな「ドロップイン燃料」、すなわちエンジンを改造する事なく使用可能な燃料の導入によって温室効果ガスを削減する事を目指している。

F1が開発を進めている100%持続可能な燃料とはどのようなものなのか?

これは廃棄物や非可食性バイオマス(藻類、農業廃棄物、食料生産に適さない土地で栽培された非食料作物等を原料とした資源)に二酸化炭素回収及び再利用を組み合わせたもので、F1はこの燃料によって温室効果ガスの排出量を「少なくとも65%」削減できるとしている。

ハイパワーを生み出すためには燃料の「エネルギー密度」が重要となる。パット・シモンズによると現行のF1燃料は1kgあたり約44メガジュールを発生させる高密度の燃料だが、エタノールのようなアルコール燃料は密度が低いため、同じパワーを得るためにはより多くの量が必要となる。

搭載する燃料が増えてしまうと車重が増加してしまいパフォーマンスが低下する。よって実際にF1に導入するためには現行と同水準の高密度な燃料を開発しなければならない。

パット・シモンズは、現行F1マシンと同等レベルのパフォーマンスを維持するのは「非常に野心的な目標」と認めるものの、新燃料の開発状況についてF1は「順調に進んでいる」として自信を示している。

F1がグローバル・パートナーを務めるアラムコと協力して開発に取り組んでいる100%持続可能なドロップイン燃料はF1での使用を念頭に置いたものだが、将来的には生産規模を拡大して商用車や輸送業界で使用する事も視野に入れられている。