かつては1ポンド、今や1,500億円でも買えないF1チーム…需給激変で買収提案「拒否」
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かつては1ポンドで売却された事もあるF1チームだが、F1のステファノ・ドメニカリCEOによると、シリーズの世界的な人気を背景に売り手市場となる中、今や1,500億円を出しても買えない位にその価値は高騰しているようだ。
1ポンドで売却されたホンダF1
売却額は非公開ながらも、かつてロス・ブラウンに売却されたホンダF1チームの価格は僅か1ポンド(当時のレートで約147円)だったとされる。
これは土地や建物、ファクトリー内の設備や機械を含めて、当時のレートで約150億円分の資産を無償譲渡した形だが、これに加えてスタッフの向こう1年分の賃金として50億円、ジェンソン・バトン及びブラウンに対する契約解除金を合わせて100億円ほどのキャッシュがホンダ側から支払われたとも伝えられている。
ただしこの決定の背景には、チーム精算に伴う人員整理・補償に掛かるコストを踏まえると1ポンドで売却した方が安価との判断があったものとみられ、チームの価値を示す金額としては不適当で、1億5,200万ユーロ(当時のレートで約189億6,700万円)という2020年のウィリアムズの売却額の方が参考としては適切だろう。
ただこれと比較してなお、グランドエフェクトカー時代のF1チームの価値は3年前の比ではないほどに上昇している。F1は前例のない世界的なブームを迎えており、既存チームの買収や新規チームの設立を含め、グリッド参入に対する需要は桁外れに高まっている。
数十億の買収提案を拒否するF1チーム
ドメニカリはポッドキャスト「ビヨンド・ザ・グリッド」の中で「1チームの価値について言えば、この短期間で何が起きたかというと、つまり何年も前の事ではなく、新しいコンコルド協定が署名された2年前、F1に参入するチームの価値についての話があったんだ」と振り返った。
「コンコルド協定には2億(ドル)という数字があった。それは手の届かない数字に思えた。過去には1ポンドで売られたチームもあったからね!」
「だが今や、市場から数十億の金額が提示されているのに、チームはこれを拒否しているんだ。想像できるだろうか?」
ユーロにせよドルにせよ、数十億という金額は日本円に換算すると少なくとも約1,500億円以上という途方もないプライスだ。
2021年~2025年を対象としたコンコルド協定、つまり選手権の運営方法や賞金・収益配分などに関する商業面などの取り決めには、新規参戦チームに対して2億ドル(約282億円)の支払いを義務付ける規定がある。
これにより現在のF1チームは、2020年当時のウィリアムズよりも高い最低価格を保証されているわけだが、現行グリッドに着く10チームとF1は26年以降のコンコルド協定において、この希薄化防止料を最低でも3倍に引き上げる事を目論んでいると伝えられている。
希薄化防止料はチームの最低価格を保証するだけでなく、新規チームの参戦に伴う一時的な収益悪化の補填の役割を果たすものだ。
F1チームに支払われる賞金の原資、すなわちテレビ放映権とグランプリ開催権料、そしてトラックサイド広告料を柱とするF1の商業権保有者の年間収益が変わらないと仮定すると、新規チームの参入は既存チームの収益減少に繋がる。
例えば1万円の原資を10チームに分配すると1チームあたり1000円の収益となるが、11チームに増えると既存チームの口座に入金される金額は約910円となり90円ほどの減収となる。希薄化防止料は、この減収分を補うために既存チームに配られる。
これが、アンドレッティ・キャデラックを含む新規参戦チームに対して既存チームが否定的な最たる理由となっている。
10チームで十分、とドメニカリ
グリッドの増加に否定的なのは既存チームだけではない。司会のトム・クラークソンから20台以上のクルマ、つまり11番目、あるいは12番目のチームが見たいか?と問われたドメニカリは「個人的な見解としてはノーだ。そう言わざるを得ない。素晴らしいショーができるのであれば20台で十分だ」と答えた。
「2台のクルマ、あるいは2人のドライバーが(タイトルを)争えば、その注目度はメガ級だ。2チーム、つまり4台のクルマが争う場合でさえ信じられない位に素晴らしい。そして20台、10チームがコース上で争うレベルだって感動的なんだ」
その一方でドメニカリは「私が言った”ノー”は、参戦を望む誰かに反対するものではない。私は保護貿易論者になりたいわけじゃないし、そうでない事を明確にしておきたい」とも述べ、継続的参戦を担保するだけのバックグラウンドがあり、将来的にF1全体に利益をもたらし得る適切なチームであれば受け入れに前向きな考えを示した。
「適切な者かどうかを見極めたいと思っているし、過去にF1に投資した人たちにも敬意を払う必要がある。今は誰もがこのスポーツに飛び乗りたがっているが、我々は慎重でなければならないし、正しい決断をしなければならない」