マクラーレン・ホンダMCL32のステアリング
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F1マシンのハンドル解体新書 / ボタン・スイッチ類の全機能を紹介

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現代のF1マシンは電子制御の塊である。その結果、マシンを調整・設定するためのインターフェイスがステアリング=ハンドルに密集することになった。フェラーリが初めてディスプレイを搭載した1996年以降、F1マシンのステアリングは複雑化の一途を辿っている。

最新F1マシンのハンドルには大型ディスプレイの他、20以上のアナログボタンとスイッチが所狭しと並べられている。ハンドルで操作できる機能は優に数百を超え、その値段は数百万円は下らないとされる。近年では3Dプリンタを用いてモックアップを制作することもある。

F1ドライバー達は時速300kmオーバーで5Gにも達するGフォースを受けながら、1ラップ毎に極めて慌ただしいハンドル操作を強いられている。F1カレンダーに登場するサーキットは、インディ500に代表されるオーバルのような単調なレイアウトではなくコーナー数が多い。これが拍車をかけている。ここでは「機能」に注目して、F1のステアリングホイールを解説してみたいと思う。

メルセデスF1チームのステアリングホイール、2018年F1アゼルバイジャンGPにてCourtesy Of Daimler AG

メルセデスF1チームのステアリングホイール、2018年F1アゼルバイジャンGPにて

主要機能

フォーミュラ1で使用されるステアリングは、車の舵取りの他に多くの役割を果たしている。その主な機能の一つはシフトだ。近年の市販車でもおなじみだが、ステアリングホイールの裏側に設定されたシフトパドルとクラッチによってギアを変更する。

情報通信のためのハブとしての機能も重要だ。クルマには多くのセンサーが取り付けられており、ドライバーは現在のタイヤ温度やエンジン回転数、そして1周前のラップタイムとのデルタ=タイム差などの情報を、中央に据えられたディスプレイから得る事が出来る。更に、ボタン一つでピットとの無線通信が可能となる。

マシンのセッティングを変更する事も可能だ。例えばブレーキの前後バランスを変更したり、後輪の駆動力を調整したり、技術指令により2020年途中に禁止されるまではパワーユニットの出力を変更する「エンジンモード」も操作する事ができた。

主だったスイッチとしては先の前後バランスに加えてERSを使用するオーバーテイクボタン、ピットレーン走行時の速度リミッター等があり、市販車にはない様々な機能がハンドル上で操作出来るようになっている。以下詳しく見てみよう。

ボタンとスイッチに割り当てられた機能

2015年から2017年までF1世界選手権にエントリーしていたマクラーレン・ホンダのステアリング画像を用いて、最新マシンのハンドルに搭載されたスイッチやボタンの機能を紹介する。同チームのステアリングは、軽量化を目的としてカーボンがふんだんに使用されており、スタイリッシュなデザインとなっている。

ハンドル右側

マクラーレン・ホンダMCL32のハンドル(右側) ©Mclaren

サーキット毎、コーナー毎に最適なマシンセッティングは異なる。そのため、ライバルに打ち勝つ競争力を発揮するためには、ドライバーがその時々の状況に応じてマシンを調整しなければならない。フロント側とリア側のフレーキ強度のバランス設定、エンジンブレーキのトルク切替など、レース中にドライバーが行うべき仕事は多岐にわたる。

  • 1、 全チーム共通の標準ディスプレイ、好みに応じて表示情報をカスタム
  • 2、 スタート時のローンチマップ切替、最初のピットストップまで継続
  • 3、 ファンクションボタン(ドライバー毎で異なる機能)
  • 4、 ブレーキバランスの調整
  • 5、 制動下でのトルクバランスの調整
  • 6、 ピットレーン制限速度リミッター、通常80km/h
  • 7デプロイを停止(別名”アンチオーバーテイク”)
  • 8、 エンジンブレーキのトクル切替ボタン
  • 9、 PUモード切替、数周有効のブーストモード
  • 10、 ファンクションボタン(ドライバー毎で異なる機能)
  • 11、 マルチ機能ダイアル、10と14のボタンとの組み合わせで複数機能を提供
  • 12、 [W][I]後続車に雨用タイヤを履いている事を通知
  • 12、 [Box]無線不調時にピットインを通知
  • 12、 [Punct]パンク時にギアボックスとデフを守るためのセッティングに変更

ハンドル左側

マクラーレン・ホンダMCL32のハンドル(左側) ©Mclaren

2014年以降のF1エンジン(パワーユニット)には、熱エネルギーや運動エネルギーを回生してエンジンパワーをサポートするハイブリッドターボが採用されている。新時代のF1マシンには、回生したエネルギーの放出=デプロイメントを細かく調整するためのスイッチなども搭載されている。F1マシンのステアリングは、車の進行方向を制御するだけのデバイスではない。

  • 13、 マルチ機能ダイアル、3と21のボタンとの組み合わせで複数機能を提供
  • 14、 ファンクションボタン(ドライバー毎で異なる機能)
  • 15、 ニュートラルボタン
  • 16、 デフをコントロールするスイッチ
  • 17、 デフォルトボタン、故障したセンサーを停止させる時等、確認(OK)ボタンの役割も
  • 18、 オーバーテイクボタン
  • 19、 スタビリティー調整用のデフコントロールスイッチ
  • 20、 デプロイメントの出力調整
  • 22、 ラジオ切替ボタン、押して話す
  • 21、 ファンクションボタン(ドライバー毎で異なる機能)
  • 23、 3色ライト: 黄旗・赤旗・青旗を表示。色の組み合わせでメッセージを伝達
  • 24、 現在のギア数。右5つは青、中央5つは赤、左5つは緑色。青色は変速タイミングを表示

ディスプレイ上部に設置されたLEDライト「24」は、他のチームでも同様に見られる仕組みであり、メルセデスAGMの場合は、コース上に振られているマーシャルフラッグの状況を伝達するための役割を兼任するものとなっている。

ドライバー毎に微調整

同じチームだからといって、チームメイト同士、同じステアリングを使用しているわけではない。各々の好みに応じてカスタマイズされるのが一般的だ。

例えばジェンソン・バトンは2009年にタイトルを獲得した際、4パドル式のルーベンス・バリチェロに対して6パドル式を使っていた。

ステアリングの操作動画

慌ただしくステアリングを操作している動画があればと思ったのだが、ステアリングにフォーカスのあたった動画はあまりないようだ。

2016年のF1王者ニコ・ロズベルグのテスト走行中のオンボード映像はハンドルが見やすい。レース中ではないため、ボタンなどの操作はあまり見られないものの雰囲気だけは掴めるはずだ。