F1、無観客レース開催の鍵は「ホスティング料の放棄」
世界選手権を成立させるために「無観客レース」の開催が検討されているが、これを実現するためには、F1側が現地プロモーターとの契約によって得られる開催権料を全額あるいは一部を放棄する必要があるかもしれない。
F1のスポーティング・ディレクターを務めるロス・ブラウンは先週、今シーズンはヨーロッパラウンドで開幕を迎える可能性が高いとの見解を示した上で「観客なしでレースをする事になるだろう。素晴らしいことではないが、全くレースをしないよりはマシだ」と述べ、現地観戦のファンを締め出してイベントを行う道筋を示した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響を受け、ポール・リカール・サーキットでのフランスGPの中止あるいは延期が避けられない情勢となり、F1カレンダーは22戦の内の10戦を失いかねない段階に達した。F1競技規約第5条4項では「世界選手権の競技数は最多21戦、最少8戦とする」と定めており、最低でも8レースを開催する必要がある。
F1の収入の大部分は現地プロモーターからのホスティング料と放送事業者からのテレビ放映権料、そしてスポンサー料の3つから成り立っている。イベントが開催できなければ収入の殆どは失われ、コンストラクターランキングに応じてチームに支払われる賞金も消滅する。
レッドブル・レーシングのクリスチャン・ホーナー代表が「F1のビジネス構造は非常に強固。それに加えて莫大な歴史と遺産がある」と指摘する通り、F1そのものが消滅する可能性は極めて低いものの、小規模資本で参戦するプライベーターはもちろん、大手自動車メーカーのバックアップを受けるトップチームでさえ、死活問題となりかねない。が故にこそF1は、あらゆる手段を講じてシーズンを開幕させ、可能な限り多くのレースをカレンダーに詰め込もうとしている。
現地プロモーターからもたらされる売上の合計金額は、F1の年間収益の約35%に達する。ホスティング料は契約期間や開催時期、常設コースか市街地か等の事情によって大きな開きがある。古くからF1カレンダーに名を連ねてきた伝統的開催地は幾らか安価だとされるが、各グランプリのプロモーターは平均して年間約3000万ドル(約32億円)を支払っている。
観客をサーキット内に入れずにチームとF1関係者のみでレースを執り行う上での最大のポイントは、現地プロモーターが支払う開催権料の存在だ。プロモーターは観客からのチケット代の売上を収益の柱としているため、無観客でレースを行う事はメリットがないどころか、運営費用がかさむためにマイナスですらある。
プロモーターにとって無観客レースのインセンティブはなく、賛同の余地はないが、F1にとってはメリットである。
無観客であっても、レースを開催してそれをテレビで放映できればF1は放映権料を確保できる。年間の放映権料の合計額は、全グランプリの開催権料の総額に匹敵する規模だ。F1が「3輪」の内の1つを手放して犠牲を払えば、無観客レースのシナリオは実行力を持つ。F1側がプロモーター側に何らかの形で譲歩する必要があるのは間違いないだろう。