F1ラスベガスGPが行われるラスベガス市街地コースのCGイメージ
copyright Las Vegas Grand Prix

F1ラスベガスGP、チームの”文句”と混乱必至か…史上最大級の試練となる可能性

  • Published:

ラスベガスGPの名のもとに初開催を迎える2023年のF1第22戦は、その寒冷な気候から73年に渡るF1の歴史の中で最も過酷なグランプリの一つとなる可能性がある。

2位以下を除いて既に両チャンピオンシップは確定した。残る2戦は一部のファンにとって、単なる消化試合に映るかもしれない。

だが、綺羅びやかなカジノや著名なレストラン、ホテルが立ち並ぶ中心部ストリップでのレースでチームとドライバーは、これまでに経験した事がない大きな試練に直面する可能性がある。

2023年に開催が予定されるF1ラスベガスGPの舞台、ラスベガス市街地コースのイメージCG (2)copyright FORMULA 1

2023年に開催が予定されるF1ラスベガスGPの舞台、ラスベガス市街地コースのイメージCG (2)

寒冷な気候

晴れるのか、雨が降るのか、という中長期予報はあまり当てにならないだろうが、気温は空模様ほど予報を裏切らない。11月のラスベガスは平均最高気温が20℃、最低気温が8℃程度に過ぎない。

全てのセッションは現地20時以降という例がない遅い時間帯に行われる。日没は現地16時40分だ。レースはF1史上最も寒いコンディションで行われる可能性がある。

参考までにイベント初日の16日(木)から現地22時に決勝レースが開始される18日(土)の天気予報は以下の通りとなっている。気温は現地21時の予想値だ。

日にち 天気 気温(℃)
16日(木) 14
17日(金) 13
18日(土) 13

グリップ不足必至のタイヤ

タイヤは適正温度未満だと性能を発揮できない。低温下ではグリップが大幅に低下する。ドライバーによるミスの可能性は飛躍的に高まり、摩耗や劣化が悪化する可能性がある。

チームは通常、タイヤウォーマーを利用してガレージ内でタイヤの温度を70℃にまで高めた後、ドライバーをコースに送り出す。その後、ドライバーはコースを周回しながらタイヤを適切な温度に温める。ピレリのコンパウンドは設計上、概ね80℃以上にならないとグリップが発生しない。

ラスベガス市街地コースはタイヤを温められる高速コーナーが殆どない上に、フロントタイヤの温度が低下するロングストレートが3本もある。

ラスベガス市街地コース(F1ラスベガスGP)のコースレイアウト図copyright Formula1 Data

ラスベガス市街地コース(F1ラスベガスGP)のコースレイアウト図

F1ラスベガスGPの舞台となる市街地コースの予想CGcopyright Las Vegas Grand Prix

F1ラスベガスGPの舞台となる市街地コースの予想CG

最高速度は約342km/h、平均速度は約237km/hと、コースレイアウト的に言えば、チームはスパやモンツァで使うようなローダウンフォース・パッケージを持ち込む事が予想される。

これは、タイヤが路面に押し付けられる力が弱まり、熱を入れるのが困難になる事を意味する。ストリートサーキットゆえ、常設コースとは異なりタイヤに対する路面からの入力が低い事も課題となる。

最も柔らかいC3~C5コンパウンドが持ち込まれるとは言え、グリップを引き出すのは容易ではないだろう。予想される低い路面温度と相まってグリップが不足することで、ドライバーのミスが増える事が予想される。

予選ではタイヤが温まらず、ウォームアップ・ラップを3周、4周と繰り返すようなシーンが見られるかもしれない。また、天候によっては温め切れずにフライングラップを走れない場面すらあるかもしれない。

文句と混乱必至のレース

F1ラスベガスGPの舞台となるラスベガス・ストリップ・サーキットのCGイメージCourtesy Of Las Vegas Grand Prix

F1ラスベガスGPの舞台となるラスベガス・ストリップ・サーキットのCGイメージ

ピレリのモータースポーツ部門を率いるマリオ・イゾラは、ラスベガスでチームがグリップ不足に苦しむのは避けられないだろうとして「彼らからは文句が飛ぶだろうね」と予想する。

レイアウトが近いバクー市街地コースのモデルを元にピレリは、チーム提供のデータに加えて路面の舗装を担当した企業からも情報を得てシミュレーションに取り組んでいるが、それでもなお「多くの疑問符」と「大きな未知」があると認める。

雪に閉ざされたカタロニア・サーキット、2018年F1プレシーズンテストCourtesy Of Honda

雪に閉ざされたカタロニア・サーキット、2018年F1プレシーズンテスト

2018年のプレシーズンテストは雪と大雨の”スノー・コンディション”に見舞われ、計測タイムを残したのはフェルナンド・アロンソのみという始末だった。

ただし当時はサイドウォールが分厚い13インチだった。現行の18インチピレリタイヤが同様の条件を経験した事はない。

レース中にセーフティーカー(SC)が導入される事態ともなれば、タイヤは完全に冷え切るだろう。再スタート時の混乱は避けられないかもしれない。

寒さが影響を及ぼすのはタイヤだけではない。手先が冷えてしまえばステアリング操作がままならなくなる恐れもある。非常に高い速度域で一瞬の判断と行動が要求されるドライバーにとってこれは致命的となるかもしれない。

F1ラスベガスGP特集