レッドブルRB16BのリアウィングにプリントされたHONDAのロゴ、2021年5月7日F1スペインGPにて
Courtesy Of Red Bull Content Pool

F1:リアウィングを含む様々なフレキシブルパーツの利点と規制

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国際自動車連盟(FIA)はシングルシーター技術担当ニコラス・トムバジズ名義の技術指令書を発行し、6月15日以降、F1マシンの負荷及びたわみ検査に関する違反行為への監視を厳格化する方針を明らかにした。

矛先はレッドブル・ホンダではなくアルピーヌ?

この決定は一部チームが高速走行中に意図的にボディーワークを変形させ、規約のグレーゾーンを突いてアドバンテージを得ているとの判断に基づくものだが、どのチームに疑いの目を向けたのかについては言及がない。

スペインGPの週末、ルイス・ハミルトンが「動くリアウィングを使用していた」として、レッドブル・ホンダが1周あたりコンマ3秒のゲインを得ているとの主張を展開した。そのためきっかけはメルセデスによるタレコミで、違反が疑われているのレッドブル・ホンダと広く考えられている。

だが、一部独メディアの報告によると、FIAが目をつけているのはむしろアルピーヌだ。実際のオンボード映像で確認しても、A521のリアウィングはRB16Bと同程度、いやそれ以上に大きくたわんでいるように見える。

”たわみ”によって得られる利点

走行中のマシンは強烈な加減速や気流によってあらゆる負荷を受けるためボディーワークの変形は避けられないが、F1では技術規約第3条8項と9項においてたわみを制限している。

パーツをたわませる事でアドバンテージを得る手法が認知されたのは1990年代後半になってからとみられている。先鞭をつけたのは恐らくフェラーリで、マラネロが精力的にこの課題に取り組んでいた事はよく知られる事実だ。

フロントウイング

たわみによってパフォーマンスゲインが得られるのはリアウィングだけではない。

以前はフロントウイングがよく話題に上がっていた。レッドブルのセバスチャン・ベッテルとダニエル・リカルドが予選失格になった2014年のアブダビGPが記憶に新しい。

これは高速走行時にウイングの翼端板側を地面に向けてたわませる事でパフォーマンス向上を狙ったものと理解されているが、現在の翼端板は十分低い高さに位置しているため、前側のウイングのたわみが話題に上がる事はない。ただ、フラップを寝かせるように変形させる事で空気抵抗を下げる事は可能だ。

フロア

フロアに関しても”たわみ”は有効だ。車体後方側を下向きにたわませる事でアンダーフロアとディフューザーから生み出させるダウンフォース量を引き上げる事ができる。これは2000年代に大きな話題となった。

2007年シーズンでは、スパイゲートの一端を担ったフェラーリのナイジェル・ステップニーからもたらされたとさせる内部情報によって、フェラーリとBMWザウバーがフレキシブルフロアを使用している事を知ったマクラーレンがFIAに対して問い合わせを行った。

リアウィング

フレキシブルボディワークに関しての監視方法が変更されるきっかけとなったと思われる今回のリアウイングに関しては、前方からの気流を利用することでウイングの角度を寝かせてドラッグを低減。これによってストレートでのトップスピードを引き上げる事ができるものの、これと合わせてフロント側の荷重を減らさないと高速コーナーで不安定になってしまうというデメリットもある。

たわみを制限する技術規約

なおレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表はRB16Bのリアウィングについて、全ての検査をパスしており問題ないとの認識を示しているが、実際、ボディワークの柔軟性に関して事細かに定めた第3条9項への違反行為は認められていないようだ。

これは特定条件において、各パーツの特定部位に特定の負荷をかけた際にどれだけのたわみを許容するかを定めたものだが、書簡の中でFIAは第3条9項の一部を引き合いに出し、違反行為はないと断じている。ただ、第3条9項の負荷試験をクリアしたからと言って完全に合法とは限らない。

フレキシブルリアウィングの違法性が疑われているのは「空力的影響」と第された第3条8項の方だ。これはリアビューミラーを除く空力学的性能に影響を与える特定パーツに関して「車体の懸架部分に対して堅牢に固定し、動かないようにしなければならない」等と定めている。

レギュレーションの規定によらず荷重変化によって全てのパーツが一定程度変形してしまう事は避けられないため、フレキシブルボディーワークに関しては常に、アドバンテージを得ようとするチーム側とこれを規制しようとする統括団体との闘いとなる。