F1レースの深層:レッドブルの優位性は失われ、ノリスとマクラーレンはタイトル争いに加わるか?
ランド・ノリス(マクラーレン)はカナダとスペインの2レース連続でマックス・フェルスタッペン(レッドブル)を正面撃破できるだけのポテンシャルを秘めていたが、僅かな掛け違いでそれを実現できなかった。
2.219秒差で2位に甘んじたカタロニア・サーキットでのレースを終え、ノリスが失望していることは明らかだった。今回の敗北についてノリスは、セーフティーカー(SC)により歯車が狂ったモントリオールでのそれより辛いものだと認めた。
レッドブルが伝統的に得意としてきたスペインでのフェルスタッペンの勝利は、クルマの絶対的な速さによるものではなく、彼とチームが全てを完璧にこなしてようやく掴んだものだった。僅かに完璧でなかったノリスとマクラーレンは勝利に見放された。
ノリスはスタート直後のターン1で3番手にまで後退したことを「すべてを台無しにした唯一のマイナス要因」と表現した。
ノリスはターン1でイン側をフェルスタッペンに、アウト側をジョージ・ラッセル(メルセデス)に抑えられ、行き場を失い3番手に後退した。「2メートル遅く」ブレーキをかけていれば、フェルスタッペンとラッセルを巻き込むクラッシュに至っただろうとノリスは語った。
また、仮に蹴り出しが「1〜2メートル」良かったとしても、先頭を走る2台分のスリップストリームを得たメルセデスに対して為す術はなかっただろうとも語った。
カタロニア・サーキットのグリッドからターン1までの距離はシーズン最長クラスであり、ノリスは後続車にトウを使われトップの座を奪われるシナリオを覚悟していた。ノリスは「ターン2以降は10点満点中10点、これ以上のことはできなかったと思う」と付け加えた。
レース開始直後に降って湧いたチャンスをフェルスタッペンは決して逃さなかった。
レースエンジニアのジャンピエロ・ランビアーゼが「マックス、今が最高のチャンスかもしれない。賢く考えろ」と檄を飛ばした翌周、フェルスタッペンはラッセルを交わしてトップに立った。その次の周のラップタイムは1.4秒ダウンした。フェルスタッペンが如何にプッシュしていたかを物語る。
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「最初のラップもそうだが、ジョージをパスしたことの方がもっと重要だった」と語った。ノリスには新品のアドバンテージがあった。ラッセルを攻略できていなければ、フェルスタッペンが第1スティントで稼いだノリスに対する4.805秒のマージンは存在しなかった。
この日のマクラーレンにはフェルスタッペンとレッドブルに勝てるだけのペースがあった。フェルスタッペンもそのことを良く分かっていた。
フェルスタッペンは「今日の僕らは明らかに絶対的なペースが少し欠けていた」と語り、これまでレッドブルが強みとしてきた「タイヤライフ」がマクラーレンと比べて「あまり良くなかった」とも語った。
フェルスタッペンが中古を履いていたという事情はあるが、ノリスはラッセルのダーティーエアーを受けながらも、新品ソフトで臨んだ第一スティントをフェルスタッペンの1.35倍長く引っ張った。
2人の間を走るラッセルが先行して最初のピットストップに動いた際、ノリスはこれをカバーせずにフェルスタッペンを追走する道を選んだ。ノリスは2位ではなく、あくまでも勝利を見据えていた。
フェルスタッペンより6周長く第1スティントを走り、その分のタイヤ的アドバンテージを以てノリスは第2スティントに臨んだが、この戦略を採ったがために2台のメルセデスを攻略しなければならなかった。
フェルスタッペンをカバーした方が良かったのでは?と問われたノリスは「いいや」と否定し、「最善の戦略」だったと強調したが、見る者の興奮を掻き立てるラッセルとのスリリングなバトルは当然、タイヤの摩耗に繋がった。
半周に渡るサイドバイサイドを経て35周目にラッセルを交わしたノリスは、フェルスタッペンが2回目のピットストップを行うまでの間に9.264秒のギャップを4.734秒にまで縮め、その3周後に最後のピットストップを行った。
だが左リアの交換が僅かに遅れ、フェルスタッペンに対して0.88秒を失った。全2回のピットストップでフェルスタッペンに対して失ったのは計1.24秒。これがなければノリスはレース最終盤にフェルスタッペンのDRSを取っていたことだろう。
残り19周、フェルスタッペンとの差は7.696秒。ノリスは全力でプッシュし続けたが、ランビアーゼは2度に渡ってフェルスタッペンに、ノリスが猛追してきていると警告を発し、高出力のエンジンモード「ストラト10」に切り替えろと指示を出した。戦場に立っているのはドライバーだけではない。
チェッカーフラッグが振られた際、2台のギャップは僅か2.219秒だった。クラッシュを避けるためのスタート直後のターン1でのバックオフ、そしてピットストップでの1.24秒のロス。路面温度が40℃を超える過酷なコンディションでの88分間に渡る死闘の勝敗を分けたのはそういった些細な物事だった。
ノリスは言う「マックスは本当にミスをしない。だから、ほんの僅かなミスをした途端に前を取られてしまう。ちょっとしたことが重要なんだ」と。
過去4レースでは4つの異なるチームがポールポジションを獲得した。今シーズンは明らかに2023年とは異なる。
フェルスタッペンは、マクラーレンが車体開発の面において「本当に、本当に良い仕事」をしていると認める一方、レッドブルはライバルチームと同じ水準で改善できていないと指摘した。
土曜の予選を経てフェルスタッペンが、レッドブルの優位性は「完全に失われた」との考えを示したのと同じ様に、クリスチャン・ホーナー代表もまた、勝利のためには「ドライバーを含めたチーム全体が最高のパフォーマンスを発揮しなければならない」と語った。
マクラーレンのザク・ブラウンCEOは「シーズン最初の週末を終えた時点でチャンピオンシップは終わったと誰もが思っていたが、それは間違いだった!」と息を荒げた。
1週間後には平均速度220km/hを超える屈指の高速コース、レッドブルリンクを舞台とするオーストリアGPが控える。
「自信はある。レッドブルは高速コーナーで僕らより優れているかもしれないけど、僕自身の競争力という点でレッドブルリンクは最高のコースの一つだし、最も成功を収めてきたサーキットでもある」とノリスは付け加えた。