Ziggo Sportsのインタビューに応えるレッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表、2020年F1オーストラリアGPにて
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混沌F1オーストラリアGP、土壇場中止発表に至るまでの舞台裏…一体何が起きていたのか?

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一度はマクラーレン抜きでの強行開催が漏れ伝わったものの、その30分後には一転。多くのメディアが中止の見通しを伝えた。だが公式に中止が発表されたのはそれから8時間後の事だった。F1オーストラリアGPの中止発表の舞台裏で一体何が起きていたのか?

チームスタッフの一人が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査で陽性反応を示し、12日(木)現地22時22分にマクラーレンが参戦取り止めを発表。今後の予定を話し合うために各F1チーム代表、国際自動車連盟(FIA)、現地保健省、オーストラリアGPコーポレーション(AGPC)、そしてF1首脳陣が協議の席についた。午前2時過ぎまで続いたと伝えられている。

F1のチェイス・ケアリーCEOは、中止が濃厚とみられているベトナムとの交渉のためにオーストラリア間を行き来し、F1のスポーティング・ディレクターを務めるロス・ブラウンは協議の議長役を務めるだけでなく、ヨーロッパのジャン・トッドFIA会長と夜通しでコミュニケーションを取り続けた。

各利害関係者の立場

ここで各プレイヤーの立場を整理してみたい。F1の商業権を持つリバティメディア=F1は、現地プロモーターから5500万ドル(約58億2,688万円)とも噂される開催権料を受け取る立場であるため、開催続行を望む立場にある。現地プロモーターのAGPCも同じ立場だ。中止の場合、チケットの払い戻しを迫られ損失を被る事になる。

その一方でFIAは、このスポーツの統括団体という位置づけであって、このイベントにまつわる数々の商業契約の主体ではない。中止を推進すれば、それによって発生する負担や責任を求められるは必至。原則的には開催推進の立場にあると言える。

FIAがイベントを中止出来るのはレギュレーションに反する状況が生まれた時だ。競技規約第5条7項に定められている状況、つまり参加マシンが12台未満であれば中止を決断する事が可能となる。

主催者は3者ともが開催推進派であったため、中止というシナリオを実現し得たのはチーム側だった。既にマクラーレンの2台がグリッドから消えているため、あと4チーム(8台)が棄権を決め込めば第5条7項を適用できる状況だった。

対立するチームの主張

だが、中止を知らせる共同声明の中の「チーム側の”大多数は”中止すべきとの見解だった」との記述が示す通り、実際には開催を希望するチームが複数いたために、第5条7項を適用できる状況ではなかった。意見が割れた場合、取るべき手段は一つだ。

英国メディア「The-Race」は、レッドブル・ホンダのクリスチャン・ホーナー代表の話として、パドックを閉鎖してセッションを続行する計画の是非を問う投票が行われたと伝えた。フェラーリ、アルファロメオ、ルノーの3チームは反対票、つまり中止を主張し、レッドブル、アルファタウリ、レーシングポイント、そしてメルセデスは開催に賛成票を投じたという。

ウィリアムズとハースは投票を棄権。賛成と反対は4対4の同数となり、キャスティングボートはF1のロス・ブラウンに委ねられた。ブラウンは、取り敢えず金曜初日に限ってセッションを執り行い、24時間後に再び検討するというホーナーからの提案を受け入れ、開催続行へと舵を切った。

だがホーナー曰く、ミーティング終了直後に事態が一変したという。午後3時、ブラウンはホーナーに電話を掛けて、メルセデスが立場を翻した事を伝えた。これはメルセデスがカスタマーにエンジンを供給しない事を意味していた。

独AMuSは、チーム代表のトト・ウォルフがシュトットガルト本社からの電話を受けた後、従業員の安全確保とマクラーレンへの配慮を理由として反対に回ったと伝えている。賛成3票、反対5票。これで第5条7項発動の土壌が完成した。

巨額の金と責任を懸けたババ抜き

中止を求めるチームが多数派となった事を受け、ジャン・トッドFIA会長自らイベントの中止を約束したと伝えられている。だが、どういうわけか、正式なアナウンスはフリー走行1の開始時刻2時間前になされた。理由はハッキリとしない。だが、十数億単位の金が懸かったババ抜きが行われていたと考えると腑に落ちる。

遅々として発表がなされない状況に対し、ジャーナリストのアダム・クーパーは「大部分のチームがレースを望んでいないにも関わらず、F1とFIA、そして地元政府が、責任をなすりつけ合う馬鹿げた政治的パワーゲームを繰り広げている」と強い表現で非難した。一般的に契約では、解消を申し出た側にそれに伴う金銭的負担を強いる条項がある。誰もが「中止の言い出しっぺ」になる事を避けようとしたとしても不思議はない。

確かに主催者側の対応は褒められたものではないが、かといって無条件に批判するのも難しい。「中止にしましょう」と口にするだけで天文学的な違約金の類が発生し、このビジネスに関わっていた全ての人々に損失が発生する。立ち行かなくなる事業者が出る事も十分に想像できる。その結果、首を吊る人が出てくるかもしれない。開催権料の多くを地元ビクトリア州が負担しているという事実もまた、状況の複雑化に一役買った事だろう。

いずれにせよアナウンスがないがために、開催賛成派を含む現場は通常通りの手順に従って準備を進めた。その一方でピレリは従業員にホテル待機を命じ、反対派は荷造りに取り掛かり、セバスチャン・ベッテルとキミ・ライコネンを含む何人かのドライバーは、午前6時のドバイ行きの便でメルボルンを離れた。

時間の針が動き出したのは13日午前9時。1回目のフリー走行がグリーンフラッグを迎える3時間前、つまり中止発表の1時間前の事だ。

F1を心から愛する多くのファンが、決して開くことのないゲートの前で朝早くから開門の時を待ち続けていたのと時を同じくして、ビクトリア州のダニエル・アンドリュース州首相が地元メディアに対して「公衆衛生上の理由から、実際にレースが行われる事になったとしても今週のグランプリには観客はいない。(レースを行うか否かは)彼らの問題だ。彼らは直ちに発表するだろう」と述べた事で、全てが雪崩を打って動き始めた。

この直後、F1とFIAがAGPCに対してレースをキャンセルする意向を通達。その1時間後にメルセデスが「我々はFIAとF1に対してイベント中止を要請した」とのプレスリリースを打ち、長きに渡った沈黙の終わりを演出。その数分後に中止を宣言する共同声明が発表された。

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