2021年型アルピーヌF1マシン「A521」の暫定カラーリング

先行き不安なアルピーヌF1、元スズキMotoGP代表のダビデ・ブリビオ起用を発表も指揮官不在

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アルピーヌF1チームは1月17日(日)、先日までスズキMotoGPチームのチームマネージャーを務めていたダビデ・ブリビオをレーシングディレクターとして起用した事を明らかにした。

2輪最高峰レースとして知られるMotoGPでヤマハとスズキを成功に導いた立役者が加わった事は、旧ルノーF1として知られる英国エンストンのチームにとって朗報である事は疑いないが、チーム代表という指揮官不在の中での発表は組織としてのチームを不安視させるに十分だ。

チーム・スズキ・エクスターのダビデ・ブリビオ代表とジョアン・ミル
チーム・スズキ・エクスターのダビデ・ブリビオ代表とジョアン・ミル

ダビデ・ブリビオはアルピーヌの新たなCEOに就任したローラン・ロッシ直属の部下として仕事に取り組むとの事だが、具体的に何をするのかは明らかにされておらず、チームは「数週間以内に発表する」と述べるに留めている。雇い入れる事は決めたものの、何をさせるかは分からないとアナウンスしたに変わりない。

ダビデ・ブリビオのアルピーヌ入りは広く予想されていた事だった。スズキは昨年、絶対王者マルク・マルケス不在の最高峰MotoGPクラスで2年目に挑んだジョアン・ミルがタイトルを獲得。チームとしても選手権制覇の快挙を刻んだものの、ダビデ・ブリビオはチームを離脱。今年に入ってアルピーヌ移籍の噂が話題を集めていた

ルノー・グループは14日(木)、アルピーヌブランドの今後の道筋を示す戦略を発表した。今季型F1マシン「A521」の暫定カラーリングや、ロータスとの協業、フォーミュラE、FIA世界耐久選手権(WEC)への参戦を検討していく事などが明らかにされ、新たな時代の始まりを胸高らかに謳い上げた。

だが、肝心のF1チームに関する詳細はアナウンスされず、明らかにされたのはローラン・ロッシのCEO就任という事のみであった。

ルノーのシリル・アビテブールとジェローム・ストール
ルノーのシリル・アビテブールとジェローム・ストール

ワークス復帰以降、エンストンのチームを率いてきたシリル・アビテブールは、上級職への着任が確実視されながらもシーズン開幕を2カ月後に控えた今月11日にルノーを退社した。想定外の事態であった事は疑いない。

ルノーと同じ様にリブランディングされたアストンマーチンとの違いに驚かされる。旧レーシングポイントは新たなタイトルスポンサーとして米国のIT巨人、コグニザントとの契約を発表し、シルバーストンに建設中の新たなファクトリーを2022年8月より稼働する見通しを示すなど、将来の活躍を期待させている。

アルピーヌF1に対する疑問は尽きない。誰がチームを率いるのか? ブリビオはどのような役割を果たすのか? アビテブールの離脱は計画にどのような影響を与えたのか? それは後任人事に頭を抱える程に予想外の出来事であったのか? そして、2年ぶりのF1復帰に並々ならぬ意欲を示していたフェルナンド・アロンソはこの事態をどう捉えているのか?

これが如何に異常な事態であるかは、トト・ウォルフやクリスチャン・ホーナーが突如としてチームを去るシナリオを考えてみれば一目瞭然だ。メルセデスやレッドブル・ホンダであれば、必ずや後任人事と同時に代表離脱を発表する事だろう。

ポジティブに考えれば、舞台裏では既にアビテブールの後任人事が決まっており、焦らしているだけだという可能性も否定できないが、ブリビオの具体的な役割が発表されていないところを踏まえると、その可能性に期待するのは虚しい。

トップ人事の混乱は過ちの繰り返しを想起させるが故に心配なのだ。

遠い昔の出来事のように思えるが、現在アルファロメオF1レーシングを率いるフレデリック・バスールは、ワークス復帰を果たした2016年にルノー・スポールF1チームのチーム代表に就任したものの1年を待たずに離脱した。

バスールの後任を兼任したマネージングディレクターのアビテブールは、復帰の際に掲げていた5カ年計画、つまり5年以内にタイトル争いに復帰するとの目標を達成できず、昨年のコンストラクター選手権でパワーユニット一式を供給するマクラーレンにすら敗れる5位に終わった。役員とチーム代表という二足のわらじは機能しなかった。

それだけに、アビテブールがアルピーヌ本体へと移り、役割を分担する事は前向きな材料になるものと思われたが、開幕を2ヶ月後、新たなテクニカル・レギュレーションの導入を12ヶ月後に控え、アルピーヌF1は指揮官不在の状態を容認している。