アロンソに知らされなかったF1カナダ問題明らかに「予選70周」とは裏腹に6割以上でリフト…打倒レッドブルに光明?

2位トロフィーを手に表彰台を喜ぶフェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)、2023年6月18日F1カナダGPCourtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

ルイス・ハミルトン(メルセデス)とのバトルを制してF1カナダGPで2位表彰台に上がったフェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)はレースを振り返り、「予選を70周走った」ようなものだと語ったが、それとは裏腹にレースの6割以上に渡ってリフト&コーストを強いられていた。

ジル・ビルヌーブ・サーキットでの70周を経てグリッドインタビューを担当したマクラーレン・ホンダ時代の僚友ジェンソン・バトンはアロンソに「問題があったみたいだね。リフト&コーストをしなきゃならなかったみたいだけど?」と尋ねた。

これに対してアロンソは「よく分からない。教えてくれなかったからね。あまり心配させないようにと思ったのかもしれない」と返した。

包まれたベールを暴きたくなるのが人の性。レース後の会見の中で改めてAMR23に起きていたトラブルについて問われたアロンソは「ラスト20~25周はルイスがかなり速く迫ってきたから、もう一度限界までプッシュしなきゃならなかったけど何も問題はなかった」と繰り返した。

だが無線では、ハミルトンを抜いて2番手を取り戻した直後の25周目からリフト&コーストを増やすよう指示がなされていた。ジル・ビルヌーブ・サーキットは燃料消費が激しい事で知られ、例年、リフト&コーストが話題に上がる傾向がある。

後方からハミルトンが迫り、5秒前のフェルスタッペンが逃げる中、アロンソは「俺は勝ちたいんだ」と述べ、全開で走りたいとの希望を伝えたものの、レースエンジニアのクリス・クローニンはその理由を明かさずに「私だって同じだ。でも今はやり続けてくれ」と懇願し、そのスタンスを変えることはなかった。

何か無線では言えないトラブルが発生していると察したのだろう。残り9周になると「俺に任せろ」と気持ちを切り替えた。結局最終ラップを含めた45周もの間に渡って、2度のF1王者はペースダウンのレースを強いられた。

終盤に向けて異変を察知したメルセデス陣営はハミルトンに対して、アロンソがブレーキに問題を抱えている可能性があると伝えたが、その読みは誤りだった。リフト&コーストはしばしば、ブレーキへの負荷を低減し、オーバーヒートを防ぐ目的でも行われる。

Courtesy Of Aston Martin Lagonda Limited

ジョージ・ラッセル(メルセデス)をリードするフェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)、2023年6月18日F1カナダGP決勝レースにて

事実はどうだったのか?

チーム代表を務めるマイク・クラックは「燃料システムの問題に対処するために、予防的にリフト&コーストする必要があったんだ」と明かした。チームは燃料不足に陥る事を懸念していたが、実際にはデータに誤りがあったようで問題は発生していなかったようだ。

F1技術規定ではチームに対して、いつ如何なる時でもマシンから1リットル以上の燃料サンプルを提出できるようにしておかなければならないと定めており、例えフィニッシュできたとしても燃料残量が不足していれば失格処分が下される。

ストレートでの損失を補うべく、その分だけコーナーを攻めなければならなかったという点で「予選70周」発言はドライバー感覚的に決して嘘ではないだろうが、状況的に言えば真実とは言い難いものだった。ただ、「知らない」としていたアロンソの発言は嘘偽りないものだった。

Courtesy Of Pirelli & C. S.p.A.

ルイス・ハミルトン(メルセデス)を追うフェルナンド・アロンソ(アストンマーチン)、2023年6月18日F1カナダGP決勝レースにて

フィニッシュ時のフェルスタッペンとのタイム差は9.570秒と、事実上、今シーズンの中でレッドブルが最も脅かされたレースとなった。

無論、フェルスタッペンがポケットに多くを隠し持っていた可能性もあるわけだが、単純計算においては、リフト&コーストによるロスタイムが0.2秒/周であった場合、アロンソは確実にフェルスタッペンに追いついていた。

フィニッシュラインを越えた後にクローニンが「あのちょっとしたトラブルがなければフェルスタッペン(に迫る事)は可能だったと思う」と告げるとアロンソは「分かってる。分かってたよ。何も言わなくていい」と答えた。

チームがアップグレード版AMR23のポテンシャル全てを解き放つ術を見つければ、アロンソが2023年シーズン中に表彰台の頂点に立つのは夢物語ではないかもしれない。そんな淡い期待を抱かせる第9戦だった。

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